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3部 新入生争奪戦開幕!!

「いつも思うんですけど......どうしても出るんですか?」


 こじんまりとした部屋に青い髪と黒い髪が並んで座っている。


「にゃー? ルディちゃん代わりに出たいの?」


「そうではなく......あと、ちゃん付けやめてください。男なんで」


「だって生徒会入らにゃいじゃん、誰も......」


 黒い猫耳はため息をついて机に突っ伏す。尻尾は椅子の背もたれからだらしなく垂れ下がり、足だけが机の下でパタパタしている。


「出ても誰も捕まえられませんよ......毎回のことですけど」


「ぐぐぐ......今年こそは」


 この二人は生徒会長と副会長、つまり在籍中の全生徒で実力が1位2位ということになる。


 新入生争奪戦の暗黙の了解として、その実力故に生徒会員は魔法の使用が禁止されている。


 一応参加こそ出来るものの収穫はゼロといっても過言ではない。


「アンタらも大変だねぇ」


「......先生ぇ、どうにかにゃらない?」


 上目遣いでミヌはこちらを見る。黄色の大きな瞳がなんともかわいい。


「アタシは別にいいと思うけどね?」


「にゃら文句言うやつ全員先生の悩殺ボディでどーにかしてくださいよー」


「ははは、そんな安い胸じゃないのさ」


 瞬きの間にこっちまで来てつんつんしてくる。そんなに羨ましいものでもないだろうし、肩こるんだよ実際。


「ルディはどんなのが好みなのさ? 男ならあるだろう、好みとか」


「なだっ! ぼぼぼ、僕はどんな大きさでも尊重しますけど!!」


 まぁ面白いからからってみるか。


「なぁミヌ? 誰が胸の話してたんだ? アタシは性格を聞いたんだけどな!」


「ねー! ほんっとにスケベなんだからー」


「ほべっ!!」


 あっ、耳まで真っ赤にしてショートした。あの男もこのくらいウブな時があったんだろうかねぇ。


 窓を開けて外を見ると、在校生はストレッチやらで体をほぐしている奴らが多いようだ。もうちょっとで始まるが新入生達は大丈夫かね。


「あのちっちゃいお嬢様は吹けば飛びそうだったねぇ」


 独り言のつもりだったが猫耳がピクんと跳ねた。


「あーっ! 先生それは嫌味かにゃー!」


「ん? そりゃどういう意味だい?」


「あー先生、ここだけの話ですけど、会長負けちゃって」


 負けた? あのちっこいお嬢様に? なんともそれは......。


「ち、違うんですってば! ちょっと、ほんのちょーっと油断ってゆうかにゃー?」


「面白いじゃないか、1つでも2つでも番狂わせが起きればもっと面白いね」


「むふー」


 ちょっとからかったくらいで拗ねちゃって、学生の中で最強でもまだ子供だね。


「さ、もう定刻だ。準備しなよ!」


「分かりました。行きますよ会長」


 いつの間にか正気に戻ったらしいルディが率先してミヌを連れていく。あの2人の間にもなかなか光るものがあるね。自分用の茶を注ぎながら出ていく子達を見送った。



☆★☆★☆★☆★☆★☆



 準備は万端、覚悟もばっちりもういつ始まっても問題ない。


「せいぜい良い研究会に入れるように頑張ってくださいね」


「......そーですね」


せいぜいとかいちいち付けないと喋れないのかレパッセ(こいつ)は?


わざと視線を逸らして適当に流す。そんなことをしている時だった。


「あーあー、聞こえるかにゃー?」


 校内放送? 電気があるのか、はたまたこれも魔法の一種なのか、学園中に会長さんの声が響き渡る。


「今回も新入生争奪戦の開幕です。怪我と最低限のマナーには気をつけて、新入生を捕獲してください!」


「「――――――!!」」


 ルディさんの注意が終わるかどうか、1つ校舎を挟んだ奥から凄まじい音量の鬨の声が聞こえてきた。


「それでは!」


「「開始!!」」


 なんか会長さんはこういうこと進んでしそうだけど、ルディさんも意外とノリノリ?


 俺たち新入生はバラバラにではなく、1箇所に固まって、というのも逃げるのも面倒だから序盤は真正面から受けるということに。


「......意外と静かですね」


 開始の合図の後、2度目の雄叫びが上がることはなく、お互いの深呼吸の音が聞こえるほどに静かだ。


 これを嵐の前の静けさというのだろうか。


「いくら貴女が小さくても油断はしてくれないと思いますよ」


 相変わらず、この男は......気を抜くなといえば良いのに。


「油断? しようもんなら片っ端からボコすだけだ」


「む、無茶はしないようにね......」


 ゴウさんとエンさんも充分に集中している。


 今の布陣は1F廊下に陣取っている。脱出用に上階共に窓は全開、予想外のことがあってもすぐには不利にならないようにはしている。


『リリィ......来るぞ』


 頭の上のドラゴン、ジークが廊下を睨む。


 晴れの日の昼間、廊下といえども明るく死角はない。人の姿など全くないが、気配がある。


 ゆっくりと確実に近づいてくる気配が。まさか透明人間?


『取った!!』


 明確な意思を読み取った瞬間、目の前の風が揺れる。


 見えないが、感知出来たのなら対処もできる!!


 咄嗟(とっさ)に1歩引くと相手は掴み損ね、服に触れられた感触だけが残る。相手の手の位置は左肩の前!!


「もらったっ!!」


「な!!」


 相手の手を両手でとって、背中を相手の腹に押し付ける!


「はぁぁっ!」


 重心を落とすと同時に相手の手を引く! さらに、風の魔力を縦に廻す!!


 クロエさん直伝! 子どもでもできる近接格闘術!!


「ぐへぇぇ......」


「狙いが悪かったですね!」


 柔道の一本背負いに近いこれ(実際には魔法のゴリ押しで技なんてほとんどないけど)は相手の背中に大ダメージを与えて確実にのす。


 外見だけ見ればちっちゃい女の子なんて絶好の的かもしれないが、師匠が良かったもので!


「し、縛っておきますね」


 エンさんがいつの間にか縄を持って近寄ってきて、てきぱきと透明人間を縛っていく。魔力が込められていて簡単には抜けられそうにないな。


「透明になるのも魔法ですかね......?」


「それは分からねぇが、やるじゃねぇかリリィさん」


 褒めてくれたのはゴウさんだ。このくらい素直になってもいいんだぜ?


「なんですか? まぁいきなり脱落しなくて良かったですね」


 こっちの視線に気づいてハッと鼻を鳴らす。うーん腹立つ!


 褒めてもらったがこれが魔法の『普通』の範疇(はんちゅう)ならこの先生きていける気がしないな。



「ようガキども、油断は命取りだぜ?」



 開け放った窓、その枠に誰かが乗っている。全く気が付かなかった! 多分この人は頭より体が動くタイプの人だ! 心読み(ハートリーダー)で感知しなかった!!


「ジークっ!!」


『わかってるぞッ!!』


 開かれた口内には既に火球が出来上がっており、そのまわりは陽炎が揺れている。指示の前にやるなんて凄いぞジーク!


「ガルゥッ!」

『くらうぞッ!!!』


 超高速で吹き飛んでいく炎の玉、目で追うのがやっとだったが......。


「あ?」


 次の瞬間には黒煙を上げて爆発していた。


 視界にチラりと映ったのは、驚きもなく、ただ面倒くさそうな表情を浮かべた男の顔。


「全員散って! 逃げろ!!」


 文句言いのレパッセも今回ばかりは余裕がなく、黒煙に巻かれて姿が見えなくなる。


『いくぞっ!』


 ちょっとした細工だけ残し、急いで煙幕から抜け、その場を後にした。行くとするなら......。


 上の階だな! ちょっとだけなら飛んで逃げられるし!


「ふふふ!」


『頼りにしてるみたいな顔はやめるぞ! アレはやらないぞ!』


 よーく分かってるじゃないか! 頼りにしてるぜジーク!

今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!


『ちょっとだけなら飛んで逃げられるし!』

 ↑飛ぶのはジーク担当、リリィちゃんはぶら下がるだけ!

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