1部 学園生活の始まり
新編突入です!
ごゆるりとお楽しみください!
暑い。暑いし重い。朝なのに暑い。凄いデジャブ......でも安心する。
なんで安心するんだ?
昨日は入学試験を突破したらその足で早めの夕食をとらされ入寮。
全然馴れないまま、同じく合格したエンさんとの相部屋に案内され、ぎこちない会話をしながらとりあえず寝ることにしたのだった――――
――――が、変な緊張をしてしまい、全く寝付けず。
契約した使い魔もといペットのドラゴン、ジークの寝息を聞きながら寝返りを打っていた。
「すぴー、すぴー」
くそう、ジークめ......こっちは全然寝付けねぇってのに、爆睡してやがる。
今日から住むことになったこの部屋は、一段で二人以上入れそうな二段ベッドと二つの勉強机が設置してある、小綺麗な狭い部屋だ。
にしても、寝られないなぁ......
昼間の興奮もあってか本当に寝られない。体感では『ジークの寝息三時間耐久』くらいは聞き切った勢いだ。
ツ......
不意に物音が聞こえた気がした。あくまで気なのだが、変に意識してしまう。
コツ......
二度目、今度ははっきりと聞こえた。待ってくれ、足音にしては感覚が開きすぎている、きっと足音なんかじゃない。
コツコツ......
あ、足音なわけ......
コツコツコツ......
ア、ア、アシオトナンテ、スルワケナイジャン? そう言い聞かせてないとまずい! 死ぬ死ぬ!!
............
止まった? ははっ、やっぱり足音なんて気のせいか! ちょっと神経質に――
コンコン
へぁっっ!! え、やばいやばいなんで、え? いまノックした? そんな訳ないよな、ちょっとドアの方を見るだけ......
ガチャ......ギィィ
無理無理無理無理、見れるはずなかった! そういえば俺、生前からこういうの大っ嫌いだったぁ!
脳裏によぎったのは二段ベッドの下で寝ているエンさんのこと。俺がビビったせいでなにか危害があってはいけない!
来るこっち来る!! せめて正体だけでも!! 見るぞ、よし見てやるぞ!!
「にゃ?」
「っっっーーー!!!」
バッチリ目が合った、黄色い瞳の猫目と。
それからの記憶はない......。
......ということを思い出した。
そうか、昨晩はとんでもない恐怖体験をしたんだった。
良かった、ひとまずは生きてる。ならばこの暑苦しいもふもふの正体は?
「あのー、会長さん? こんな所でなにを?」
「にゃー、やっと起きたか」
正体はもふもふ黒毛、ネコミミにしっぽの会長さんだった。
「夜は急に気絶するからびっくりしたにゃー」
会話から察するに恐怖体験の犯人もこの人か......。
「会長さんはなにを?」
「新入生の見回り」
ならそっと部屋に入ってきてくれよ! 誰も気づかないくらいさぁ!
そうは思っても、まだ言える仲ではないのであくまで思うだけに留めておく。
「それじゃ、今日から忙しくにゃるからよろしく!」
「はぁ」
下のエンさんを起こすと、さっさと着替えさせられて会長さんに連れて行かれる。
男子の方は試験官も務めたルディさんが起こしに行っているらしい。
「その、忙しくなるって言うのは......?」
エンさんがおっかなびっくり、と言った具合に会長さんに尋ねる。
エンさんは魅力的で派手な赤髪だが、見た目にそぐわずかなり慎重な性格のようだ。この体で言うのもなんだがかなりタイプ。
ぐへへと心の中だけで思ったはずなのにジークがぐるるとうなる。
『リリィ......気持ち悪い顔してるぞ......』
ジークは安定ポジションである頭の上でげんなりする。そんなに顔に出ていただろうか?
「ああ、それはだねぇ......」
やはりこの世界の常識は生前のものとは違うようで学校にもかかわらず『先生』というものはほとんど居ないらしい。
どうやって学ぶか聞いたのだが、それに答えてもらうより先に食堂に到着してしまった。
「あ、ルディちゃーん! 折角だからみんにゃで朝ごはん食べにゃい?」
奥からやってくるルディさんを見つけると目にも止まらぬ早さで話しかけに行った。いや、比喩抜きで......
『げっ』
「......おはようございます会長。皆さんがよければそうしましょうか」
一方のルディさんは明らかに嫌な顔したな、これは心読なくても分かりそう。
そして、ルディさんの後ろにはちゃんと残りの合格者二人もいる。
片方はエンさんと双子のゴウさん。そしてもう一人は......
「おはようございますクラヴェリさん、せいぜい落第しないように頑張ってくださいね」
『こっちとしては落第してくれた方が楽ですけどね、まぁ夢見も悪いですし』
どうにも鼻に着く、鼻に着くんだが憎みきれない。ただ、ジークはこいつのことめっちゃ嫌い。
「はい、レパッセさん! お互いにですね」
「ひとまず、今日失敗しないことですね」
ふふんと鼻を鳴らして一足先に食堂に入っていく。そんなやつだ。
「新入生もみんにゃいる事だし、さっきの続きね」
「ここの教育方針のお話ですね」
会長さんは腰に巻いた小さめのバッグから地図を取り出した。多分この学園の見取り図だろう。
「ここが現在地で、ここが研究棟にゃ」
正門から順に職員棟、生活棟、研究棟と漢字の三のように配置してある。そして、それを囲むように運動場などがある。
現在地は生活棟、男女の寮とそれを隔てるようにど真ん中に食堂がある。改めて見るとスクールライフ感半端ないなぁ......!
「お昼になったら在校生が一旦研究棟近くの広場に集められるにゃ」
ふむふむ......なんで?
「それからは恒例の新入生争奪戦ですね......」
新出単語でた、だけどそのルディさんの生暖かい目はなに......?
「それ、俺たちは何をすればいいんだ?」
ここまで黙っていたゴウさんが口を開く。
ゴウさんはエンさん同様の燃えるような赤髪につり目だが、ヤンキー感はなく、むしろ真面目そう。
今のも、話が止まったタイミングを見計らってたみたいだし。
「見定める、ただし全力で」
「見るだけでいいのか?」
「見定めるにゃ、全力で」
いつも深刻な顔をしていそうなルディさんだけでなく、会長さんまでも険しい顔をする。
いつもふざけてそうな人の真面目な顔ほど不気味なものはないと思う。
「さもなくば......」
「さもなくば?」
ゴクリと喉がなる。ルディさんに作られた間によって緊張が走った。
「とても、大変な目に会います」
「ほんとにね......」
でっかいため息の後に止まっていた食指を動かし始める。それに合わせて全員で食事再開。
どことなく重い雰囲気のまま一足先に会長さんが食べ終わる。
「それじゃ昼までは自由だから今のうちに散歩でもしておくといいよ」
そう告げると食堂から出ていってしまった。
あれ? そういえば何一つ具体的なこと言ってもらってないような......?
『リリィは散歩するぞ?』
こうやって聞いてくるってことはジークが散歩したいのだろう。特に断る理由もないのでそうすることにした。
「ごちそうさまでした。では、私はこれで」
残っていたスープとパンを食べきり、ちゃんと挨拶をしてから席を立つ。
レパッセがなにか言おうとしていたようだが、ジークに睨まれて結局なにもしてこなかった。
『あいつ、次ちょっかいかけようとしたら骨まで焼くぞ?』
流石にそれはまずいですジークさん......。
折角もらったこの命を犯罪者で終わらせる訳にはいかないので必死にジークをなだめる。
「ではまずは、職員棟でも行きましょうか」
『うむ』
散歩ついでになにか情報収集でも出来ればいいと、そんなことを期待しながら俺たちは職員棟へ向かった。
今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!
いよいよ始まったリリィちゃんの学園生活! 登場人物もそれなりに増える予定ですので、要望があればプロフィール帳でも作ろうかな......




