9部 お嬢様は思う
澄み渡る青空と白い雲、それに対比するような深紅の竜と黒い服。今日はいよいよ入園試験だ!
「リィお嬢様、やはり今からでもキャンセルしたほうがよろしいのでは?」
「そうはいきません! 私頑張ります!」
「それじゃこれをお付けください。制服になったらそれにも忘れずに」
「これは......?」
受け取ったのは小さめの紀章で、中には豹のような動物が彫られている。
「中の豹はクラヴェリ家の家紋ですわ、そのせいで良くも悪くも目立ってしまいますが大丈夫ですか?」
「目立つ事よりも、その期待に応えられないことが怖いですけれど大丈夫です」
「お嬢様ならきっと大丈夫ですわ」
「リリィ、ジークそろそろ出発するよ」
ここから学園までは歩いて20分ほどの距離にあるらしい。受付は保護者同伴らしいのでお父様が着いてきてくれる。
「フラウロも父親の顔ってやつだな! 会場であんまし怖ぇ顔すんなよ!」
「そんな強面に言われても説得力がないな!」
「「あははは!」」
宿屋の強面店主さんとお父様は二人で大笑い。いいな男の友情ってやつは。
「ではお守りのペンダントと紀章も付けて、魔石類も持ちましたか?」
「はいクロエ! 行ってきます!」
☆
学園までの道のりを歩いてきて思ったことがある。恐らく学園の入試に行く人達だろうが、総じて身長が俺よりもかなり高い。
「皆さん年上の人でしょうか?」
「そういえば言ってなかったね」
え、なにを? ここにきて爆弾発言?
「学園には六歳から入学できるけど入試に受かるかは別問題だからね、平均だと12歳くらいなんじゃないかな?」
「受かる気が無くなってきました......」
「リリィなら大丈夫だ。最年少記録を打ち立ててきなさい」
最年少記録だったのかよ! お屋敷での話はもう遅いくらいの口ぶりだったから行くようにしたのに!?
『リリィなら受かるぞ、シロエもクロエもフラウロだって言ってたぞ』
ここまできたらやるだけやってみるしかないよなぁ......
「覚悟は決まったかい?」
「はい。やるだけやってみます!」
「よし、その意気だ」
俺の覚悟が決まるのとほぼ同時に大きな教会のような建物が見えてきた。一番高い所には魔石が黄色く輝いている。
「入試希望の方はこちらへお集まりくださーい!」
大きな玄関の前には人だかりと恐らくは制服をきて、収集の声を出している人がいる。顔つきと身長的に高校生くらいだろうか? ここからだと青い髪と眼鏡をかけている男子なことくらいしか分からない。
「リリィ、行けるかい?」
「......はい」
「よし! 行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
お父様と別れることでさっきよりも過剰に意識を使うようになる。その結果、
『『『あれはフラウちっ公めだち緊るぞ』』』
不特定多数の心の中を読んでしまい軽い頭痛に苛まれる。落ち着いて行動しなくては。
「すーはー、すーはー」
数回の深呼吸の後じわじわと心の声をシャットダウンしていく、
『『まだ、エク心っこラらゴン......』』
ふう、これで強く自分に向けられた心以外は読み取らないはずだ。ジークは頭の上から動こうとしない、緊張してるのかな?
『ちっちゃくて可愛いなー!』
心読でハッキリとした思考を読み取った。場所は上?
先程の魔石辺りからのようだがそんな所に一体誰が? 視線を向けるとミニスカをはいた魔道具店の猫耳店主さんがいる。
『あら、気取られちゃった? 後ろ後ろ』
こちらが認識すると猫耳店主さんは後ろへと跳ぶ。建物の影になってどこへいったか分からないが大丈夫だろうか?
「受験者が全員揃った様なので第一修練場へ移動します! 着いてきてくださーい!」
いよいよ試験だが、背中にほんの少しだけ空気の揺らぎを感じて振り返るとお父様が軽く手を振ってくれている。笑顔で手を振り返して、修練場へ行く集団について行く。
途中通った渡り廊下には華美な装飾はなかったが白を基調とした綺麗な建物だ。修練場と呼ばれた空間はなかなかに広く学校のグラウンドくらいはあるだろう。
「ぼそ......ぼそぼそ......さぃ」
なんだって? いま先導の青眼鏡がなにか言ったか?
「それでは、よーいスタート!」
突然のスタートの合図にほとんど誰も反応できない、茶髪の少年など数人が飛び出して走っている状態だ。
『今の指示は何人が聞き取れたかな? ただ奥の壁にタッチして戻ってくるだけなんだけどな』
そんな指示を小声で出してたのか! すぐさま体内に魔力を巡らせて一歩踏み込んでジャンプ! 前にいる集団を飛び越して走り出す。
魔力での身体強化をしているのはトップの茶髪君だけで、それ以外は壁にタッチする前に追い抜かす。
「奥の壁をタッチして戻ってきてくださーい!」
二回目の指示が後方から聞こえるが一度目で飛び出した茶髪君はすでに折り返していて、今からの出発ではとても間に合わないだろう。
☆
「速かったね、ひとまずお疲れ様」
結局最後まで差を縮められず、一位が茶髪で俺は二位の結果だった。全員がゴールし終えたところで青眼鏡から声をかけられた。
「どうやら君も魔力を巡らすことができるようだけど調子に乗られたら困るよ? 練度でいえばまだまだだ」
ついでに茶髪もなんか急に話しかけてきた、馴れ馴れしっ! しかし見る目はあるのか? 実際使えるようになって一週間経ってないしな。
「それに、竜の剥製なんてナンセンスだね」
今度は見る目ないな、いくらジークが大人しくしてるからって剥製でないことくらいわかんないかな?
『こいつちょっと焼くぞ?』
「まーまーいいじゃないか、人それぞれだろう?」
「まあいいだろう、だけど剥製くらいで威張るなよ?」
こいつ絶対友達できないやつだな! 人をちょっと見下してるし一方的に喋ってくる。可哀想だからできるだけ仲良くしてやろう。
「はーい注目してくださーい!」
青眼鏡がみんなの注意を引く。
「早速ですけれど第一の試験をやってもらいました! 半分よりも順位が下だった人は帰ってくださいねー!」
「は?」「頭おかしいのか!」
「どーいうことよ!」「聞いてないぞ!」
約五十人の集団から次々と非難の声が上がる、それを受けている青眼鏡は涼しい顔だけど。
「指示が通らなかった時点でアウトなんですよー、心構えの問題ですよ! 次回頑張って下さいね」
優しい態度とは裏腹に言っていることは辛辣ながらも的を得ている。背後から青眼鏡と同じ制服を来たゴツい人達が出てきて不合格者をつまみ出していく。
「では、改めまして皆さんこんにちは!」
青眼鏡は合格者側に向き直って話かける。
「副会長のルディ・エクレラです! ここから先は全員合格の可能性もありますので全力で頑張ってください!」
『そんなこと可能性なだけで前例ないんですけどね......』
副会長ってことは検問所の騎士さんの弟か、どことなく顔立ちが似てる気がするな。あと心が絶対いい人。
「それでは魔法場へ案内するので着いてきてくださーい! 今度は不意打ちないんで少しでも休憩してくださいねー」
『前回はこれすらも嘘だったからなぁ......嫌な仕事だよほんとに』
お人好しなルディさんについて次の会場へむかおう!
今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!
ルディさんいい人そうだね。
そういえばルディさんのファミリーネームはこの前見たような......?(厳密には二章4部あたり)




