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8部 ビバ、帝都!

ここにきて早くもサブタイトル思いつかなくなってきた。ボキャ貧って怖いね。

 暑い。暑いし重い。朝なのに暑い。まだ春なのにこうも暑い。あれ? なんかこんなこと前にもあったような?


「リィお嬢様......」


「ぐるるるぅっ」


 あ、俺とクロエさんの間でジークが潰れてる。寝言でまで名前を呼ばれるってなんか恥ずかしいな。窓の外には朝日が浮かんでいて、それを遮る雲も今日はあまりないみたいだ。


「三人とも、朝ですよー」


 全員で一部屋を取ったが、ベッドは三つあったので一人一つ、ジークは俺と一緒に寝たが案の定クロエさんはこっちまで来ていた。


「んん、んぅぅ......」


 とても色っぽい吐息が漏れて聞いているこっちが恥ずかしくなる。ジークもなかなか起きないので掴んで放り投げると壁にぶつかる直前で目を覚まして旋回。


『なにすんだぞ! 死んだらどーするぞ!』


「ごめんなさい。でもこれで目も覚めましたね」


 いいじゃん死ななかったんだし、そうは思うものの謝罪の言葉を口にする。そうするとお父様の姿がないことに気が付いた。散歩かとも思ったが手荷物がないところを見ると仕事だろうか?


「お父様がどこに行ったかジークは知らないですか?」


『朝早くに出ていったぞ。その時にクロエをひっぺがしてくれたぞ、直ぐに戻ってきたけど』


 クロエさんは一体いつから抱きついていたんだろうか。そんなことよりクロエさんには起きてもらわないと困るがどうしたもんか。


「クロエ起きてください! もう朝ですよ」


「うー......」


 なかなか起きないのでジークと同様に少し驚かせる事にした。


「リリィの簡単マジック講座ー!」


『急におかしくなったぞ?』


 ジークから横槍がはいる。うるさいわい。


「いいから私の後に続けて! 分かりました?」


 ジークは渋々と言った具合に頭の上に乗っかる、いくら軽いといってもこの体だとしんどいんだけど。


「用意するのは種も仕掛けもない寝ている人でーす」


『クロエのことぞ?』


 軽く顎を引いて肯定する。あんまり首を振るとジークが落ちそうになるからな。


「ステップ1、魔力をこめまーす」


『こめるぞ!』


「ステップ2、力加減に気を配りながらお皿と同じ要領でー......」


『でー?』


 あれ、お皿と全然違う! やっぱり人って重い......!!


「ぐぬぬ......えい!!」


『あ』


 ドンっと言う音と共に天井とクロエさんの豪快なキッス。軽く浮かすマジック程度にするつもりが力加減を誤った。


「リィお嬢様、これは?」


 天井に張り付いたクロエさんが目を覚ますが、重い荷物を必死に持っている状態なのでとてもじゃないが降ろせない。


「軽いイタズラのつもりだったのですが、降ろせません......」


「それなら落としてくださって大丈夫です」


 クロエさんの言う通りに力の方向を下へ、するとクロエさんは今度はベッドと熱いキッス。全然大丈夫じゃないのでは?


「リィお嬢様......落としても大丈夫ですが、叩きつけられるのは別の話です」

『S、M、ぷれいッ!』


 はっ! また俺はクロエさんのやばいスイッチを押してしまったのか?


『キケンなオーラダダ漏れぞ......』


「危ないオーラだな」


『そうだぞ......ん? フラウロ帰って来たぞ』


 びっくりした! 急に現れるもんだから自分の声が急に低くなったかと思った。


「さ、宿主さんが朝ごはん作ってくれてるから食べに行こう」


『ちぃっ! 邪魔がはいったか』


 助かった、このままだとクロエさんにどんな事を要求されるか分かったもんじゃなかった。


 ☆


「じゃあジーク、ちょっと付き合ってもらおうかな」


 朝ごはんを終えたお父様がジークを呼ぶ、この後の挨拶まわりでジークにやってもらいたいことがあるようだ。


「それでは私たちは街を見てまわっても宜しいですか?」


「うん、くれぐれも気をつけて行ってらっしゃい。お昼も二人で食べてくれ」


『くっそがぁぁ! 貴族への挨拶まわりごときでリリィとの時間を蝕まれるなんて!』


 心の声はあくまでも心だけに留めたお父様はクロエさんにいくらかの硬貨を渡す。


「こんなに頂いても宜しいのですか?」


「ちょっとは背伸びした料理でも食べさせてやって欲しい」


「もちろんですわ、お嬢様の欲しい物なら追い剥ぎをしてでも」


 流石にそれはダメです、クロエさん。


「では行ってくる、クロエからあまり離れないようにね」


「分かりました、行ってらっしゃい!」


『ようやく離れたか......』


 お父様を見送ると、部屋で少し準備をしてから早速街に繰り出すことにした。


「お嬢様方はお店まるまる買うつもりかい?」


 宿を出ようとすると強面店主さんが声をかけてきた。


「ただのお出かけですわ」


「馬鹿言え、金貨三枚も渡されてたじゃねぇか」


「それってそんなに大金なのですか?」


 この世界の金銭感覚は分からないので聞いてみる。


「一枚あれば銅貨で一日、銀貨で一月(ひとつき)、金貨で一年、なんて言うぐれぇよ、銅貨で一日はちょっと貧相になるがな」


 つまり、金貨三枚で三年生きていける?


「そうはいうがな、実際金貨の流通量は多くない。持ってるだけで大金持ちなのが分かっからそれだけで媚びを売る人間はいくらでもいるだろうな」


「そうだったのですわね......帝都に来ることもありませんから驚きですわ。お財布にも倍くらいはいってますけど」


 既に余生を生きていける宣言かよ......公爵家に仕えるともなるとやっぱり凄いな。


「やっぱりフラウロのやつぁすげぇな! 規格外なのは公爵になったくれぇじゃ治らねぇか!」


「旦那様のカリスマ性が規格外なのは周知の事実ですわ」


「そーかぁ、なかなかあいつは自分のこと話さねぇが慕われてるんならなによりだ、昔から身体能力と人望だけは規格外だったからなぁ」


 自身の能力と人望を兼ね備えてるとか、一代で公爵になっただけあるな。


「いずれお嬢様もそうなりますわ」


「そうだな! いっその事国王にでもなってくれよな」


「努力します!」


「おう! 呼び止めてわりかったな、存分に楽しんできてくれや」


 強面店主の満面スマイルに見送られて街へ繰り出す。


「色んなお店がありますね」


「そうですわね、欲しい物があれば何でも言ってくださいね」


 帝国と言うくらいだから支配に怯えているのかと思ったが、まったくそんなことは無く街は活気で溢れている。広場には噴水とか石像とか普通に置いてあってとてもワクワクするな。


「あれは......」


 ふととあるお店に目が止まる。看板には杖のマーク、店内には瓶や宝石が沢山ある。


「あの杖の看板のお店に行ってみませんか?」


「魔道具屋さんですか、なにか変わったものもあるかも知れませんね」


 お店にはスラッとした猫耳の店主さんが一人、これが獣人というやつだろうか。


「いらっしゃいませー」


 美人な店主さんは笑顔で接客をしてくれたが、その顔には疲れの色が若干伺える。


「ここはどんなお店なのですか?」


「うちはポーションや魔石が中心です、質がいいってリピーターさんも多いんですよ!」


 少し疲れ気味なのはそのためか、繁盛してるならいい事だ。


「もし宜しければ案内してもらっても?」


「もちろんです、じゃあこっちからですね!」


 匂いや気配を消すポーションに相手を錯乱させるポーション、使用者を一時的に麻痺させる疑似魔石、物騒だ。


「うちは縁あって学園と提携してるので実戦的なものが多いんです、これなんてどうでしょう?」


 今度は割ると煙幕を出す魔石、物騒だ。


「お嬢様は護身用にこれなんてどうでしょう?」


「これは......?」


「魔力を与えて一定後、目潰しの毒を撒き散らすものです」


「相手に有毒過ぎでは?」


「命があるだけ有難いですわ」


『少し物騒だよな......』


 命があればなにしてもいいのかクロエさん、物騒だ。


「それではこれとこれと、これで」


 今回買ったのは腰に巻く用の小物入れと気配を消すポーション、クロエさんイチ押しの目潰し魔石だ。早速猫耳店主さんに付けてもらう。


「どうですか? 似合ってますか?」


『かわいいぃぃ! 最高ぉぉ!』


「ええ、お似合いですよ!」


『クールビューティぃぃぃ!』


 クロエさんうっさい! なんで顔が赤いんだよ! 恍惚とした表情にきっと猫耳店主さんも......


「わかりますぅぅ!」


「そうでしょう!」


「私にも妹がいるんですけどね、とってもかわいいんですよー!」


「いいですねー!」


 なんでこの二人は意気投合しているんだ? この世界はロリコンだらけなのか?


「じゃあお代は十枚になります」


「足りませんわ......」


「え、た、足りないんですかお客様?」


「九枚しか......」


「それなら九枚で大丈夫です!」


 いいのか? 破産しない?


『またこれかぁ、やっぱり耳は隠した方が......』


 なんかあれだ、猫耳店主さんすごく悲しそうだ。そりゃそうか一年の暮らしがかかってるもんな。


「必ず後で払いますから! そんなに気を落とさないでください」


 気を落とさないで、なんてお金の足りない側が言うセリフじゃないが。


「はい、では枚数確認を、ってえぇぇぇ!」


「どうしました?!」


「これ金貨じゃないですか!」


 見たら分かるけど、金貨だよ。


「金貨なんていただけません!」


「はい? さっきは十枚と......」


 戸惑うクロエさんと俺、慌てふためく猫耳店主さん。収まりがつかねぇ!


「銅貨で十枚です! 一般市民は銀貨だってそこまで持ち合わせませんよ!」


「では金貨二枚で手をうちますわ」


「いえいえいえいえ! 差し上げますから! このような高貴な方からお金なんて取れませんから!」


 なるほど、強面店主さんが言ってたのはこの事か。持ってるだけで強いみたいになれる。


「ダメです! ここが店内である以上は客と店員ですので! 払います!」


「あ、はいでは......」


 クロエさんの押しに負けて金貨を受け取る店主さん。今回はよくやってくれたぞクロエさん!


「こ、今後ともご贔屓にぃ......」


「また寄らせていただきますね!」


 魂の抜けそうな猫耳店主さんに挨拶をしてお店『ケプリ魔道具店』を後にする、美人さんで人柄もいいお店だったな。


 その後は洋服屋にいって金貨二枚で買えるだけ(二年暮らせる代金ほど)の服を購入。後日、家に届けてもらうらしい。


 お昼はお洒落な喫茶店でサンドイッチを食べた。クロエさんは顔だけはかなり美人なのでそれなりに人目を集めていた。

 やめとけ、この物件だけはやめとけ。直接教えてあげる訳にもいかないから察してくれ。


 日が傾いて宿屋に戻る頃には、色んなお店を回りすぎてヘトヘトになっていた。


「おや、偶然だね。リリィ達も今終わったのかい?」


 宿屋の受付のところには、男二人組が帰ってきていた。


「旦那様お疲れ様でした。ジークも」


「ジークを連れて挨拶しに行ったら、まだ戦力を上げるのかって言われてしまってね、娘が仲間にしたんだと言ったら血筋がどうのうこうのう言われたよ」


 さしずめ血は争えないとかだろうが、俺は武力一切無しでジークと契約したからな、お父様には遠く及ばないだろう。 


「フラウロ、全員でご飯にするか?」


「ああ、頼むよ」


 出されたのは揚げ物のオンパレード。


「お嬢ちゃんのげん担ぎだ。食えるだけ食え!」


「はい! いただきますね!」


 せっかくのご好意に応えるべくジークと二人で食べまくってから、いっぱいになったお腹を抱えてベッドにはいる。お父様は強面店主さんと酒盛りだそうだ。混ざりたい。


「明日、緊張しますか?」


「緊張もしますけどそれ以上のワクワクです」


「それならよかったです。明日は私が介入しづらいのですが......いえ無粋ですわね、頑張って下さいねお嬢様」


 介入『しづらい』って......普通できないだろ。


「はい、期待に応えられるように頑張ります」


『そんなことしなくても我も頑張るぞ』


 ジークを腹話術っぽく動かしたら文句言われた。ジークならかわいくて人気でると思うんだけどな。


「おやすみなさい、良い夢を」


 クロエさんはそう言うと部屋の灯りを消した。窓の外には半分以上かけた月がそれでも己の存在を示すように星たちと共に輝いていた。

今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!


次回、いよいよ入試へ!

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