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7部 いざ、帝都へ

 どのくらい魔車に揺られただろうか、空は赤みがかかっていてもう30分もすれば完全に日が暮れるだろうという頃にクロエさんが話しかけてきた。


「今までにお嬢様はどんな景色を見てこられましたか?」


「お屋敷よりも高い建物がそこらじゅうにあって夜でも明かりが綺麗でした。時間のある時に高い部屋から夜景をみるのも好きでしたよ」


 前世ではメガネだったんだけど、外してわざとぼやけさせた光の夜景もなかなかいいものだったな。


「さすがお嬢様ですわ......」


 クロエさんはちょっと残念そうだな、いや別に俺が凄かった訳ではないんだけどな。


「綺麗でしたけれど、時々狭苦しく感じることもあったので今の景色の方が好きです!」


「そうですか! ならばもうすぐたどり着く帝都はお嬢様からすればちょうど良い街かもしれませんね!」


 クロエさんから貰った地図を見ると、もうすぐでクラヴェリ領を抜けて『帝都インラス』と書かれた地域に入るようになっている。


「インラスは3ヶ国内でも有数の大都市ですわ。縦よりも横に広く、学園を囲むようにできていて色んなお店もありますわ。」


「それならクロエと見て回りたいです」


『ぐっはぁぁ! 挨拶回りなんてしたくないなぁ、リリィと街デートしたい......』


 その内容にまたクロエさんの声かと呆れる。


「いいですわよ、明日は時間がありますし少し見て回りましょうか」


 あれ? 回ってくれるの? じゃあ今の心の声ってもしかして、お父様だったりする?

 恐る恐る右を向くとそこには意気消沈した父親の姿があった。クロエさんに視線を送るとやや面倒くさそうにジークを送った。俺のジークなのに......


「旦那様もジークと一緒ならばそこまで寂しくはないでしょう」


「そうだな、ジーク着いてきてくれるか?」


 お父様の呼び掛けに答えるように低く唸った。実の所は俺と行きたかったようだけど。


『はっはっは! これでリィお嬢様と二人きりですわ! どんな事をしましょうかねぇ......!』


 クロエさんは何一つ表情を変えることはないがまた暴走気味になっている。笑い方とか完全に悪徳魔女のそれだった。


「もう10分もすれば検問所で、そこを越えると帝都になりますわ」


「そう言えば目的地まではあと半日以上かかると言っていませんでしたか?」


 もしかして、また変な理由でぶっ飛ばしたんじゃないだろうな?


「まさか旦那様がご同行なさるとは思ってなかったので」


 クロエさんはお父様が屋敷で降りるものだと思っていたらしい。魔車の出力は搭乗者の総魔力量と関係するから、当然魔力が多くなると魔車も速くなるというわけだ。


「大事なことを忘れていないか? 魔車の中で一番魔力があるのはいまは俺じゃないぞ」


 そうか、人間なんかとは比べ物にならない魔力を持ってるやつがいたな。肝心の竜はお父様の膝で寝ていた。


 少しすると視界いっぱいの壁が見えてくる。門らしきところにはローブ姿や鎧を着込んだ人々が多く立っているが、何となく殺気立っているようにも見える。


「これが検問所ですか? 随分と空気が重いですね」


「そうですわね、話してくるので少々お待ち下さい」


 クロエさんは門よりも少し手前で魔車を停めると、青い髪の女騎士のところへと近づいていく。二人はどうやら顔見知りの様なのでジークを起こして降りることにした。


「あのなぁ! どうしてお前は人の心配を聞かないんだ?! もしもがあったらどうするんだよ?」


「だから、護衛は要らないといつも言っているでしょう。どこぞの骨をくっつけて移動するよりも(わたくし)たちだけの方が安全ですわ」


 なんか言い争ってるな。青い人は美しい見た目に反してかなりキツそうな性格だけど、騎士だからおかしくはないか。


「申し訳ございません、お嬢様。こちらの騎士様がどうしても護衛をつけろと言って離してくれませんの」


 俺がクロエさんのところへ行くと騎士さんが跪いた。騎士さんは俺の手をとると(うやうや)しく口付けをした。

 そう言えば俺ってめっちゃ身分高かったっけ。


「じゅるり、」


「クロエ!」


『後でコロさなければ......』


 クロエさんの目が血走っている。あとでハグしてあげないと爆発しそうだな。


「本来、公爵家のお嬢様なんて国賓レベルだからな!」


「国外ではでしょう」


「国内でも! 凱旋パレードとかやろうと思えばできるの! なのに『今から行きます』の手紙だけだとかふざけてんの?!」


「今回は遊びではないので」


「まさか入学?」


「ええ、お嬢様はこれから覇道を歩まれますわ」


 誰が覇道なんか歩むんだよ! そんなに期待しないでください。緊張には弱いんです。


「じゃ、弟によろしく言っとくよ」


「弟がいらっしゃるのですか?」


「はい、愚弟ですが学園の副会長をやっているはずです」


 副会長って絶対すごい人じゃん。クロエさんはその人のお姉さんに覇道がどうたら言ってたの?


「それではこれで失礼しますわ」


「野盗とかに気をつけて」


 それだけ交わして俺たちは魔車にもどる。背中から「竜、を従えて......」なんて驚愕が聞こえた気がするけど気のせいにする。



 門をくぐるとさっきまでの平原とは世界を変えたようなレンガ造りの建物が立ち並んでいた。まるでRPGみたいな、ベッドや剣の看板を下げた建物もある。


「明日が楽しみですね!」


「そうですわね」


『でーとぉぉ!! いちゃいちゃぁぁ!』


 最近は怒りも呆れも軽々しく吹き飛ばして恐怖になったクロエさんの心の声は無視して宿屋に向かうようにする。


 たどり着いた宿屋では目に縦長の古傷の入った強面店主が迎えてくれた。お父様の古くからの友人らしいけど、気をつけろと言われた野盗にもこんな強面は居ないと思う......


 宿屋で出された夕食を食べて、明日の為に早めに寝ることにした。

今回も読んでいただきありがとうございました! 次回も楽しみにしていただけるとありがたいです!

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