命の取引
見上げてみた化け物は首に金属の首を付け、手足に鎖付きの手錠と足枷をしていた。
鎖の先は地面に刺さっていた木材とつながってあり、その化け物の体を空中につるされてた。死にそうにもがきながらうなり始め、自分と目が初めて合った。その途端、この暗い部屋からいきなり光が差した。複数の赤い明りが辺りを照らし、部屋全体の構造が見えた。どうやらこの部屋は大きなドームだった。天井は高く、化け物がドームの真ん中に捕らえられていた。
部屋のたった一つの扉が開き、見知らぬ五人が入ってきた。その者たちは黒いフード付きのコートを羽織って、顔が全く見えなかった。
化け物は泣いてなく、怒ってなく、表情が抜けた顔のまま、目で五人を追った。
三人の体がデカい奴らは前に出て、化け物を見上げた。フードを被ったまま、その化け物を鎖から外し、手袋を付けた手で化け物の体を地面に張り付けた。後ろに立っていた二人の中、一人が前に出た。そいつは普通の大人の高さをした人物だった。しかし、彼は腰に携えていた刀を取り出した。
その人は化け物の首を見ながら刀を頭の上に上げた。化け物はもがいたが、体がデカかった三人に完全に押し付けられていた。後ろに立っていた最後の一人は化け物に近づき、手を化け物の頭の上に置いて目を合わせた。
「おやおや、これは邪悪な存在が閉じこもっている。困ったものだ。この子はもう助けようがない。今すぐ始末しなければ。」
その声は男の声だった。そう言った彼は立ち上がり、さっさと部屋の扉を目指して歩いて行った。扉にたどり着いた途端、声を上げた。
「やれ。」
その言葉を聞いた化け物は思いっきりもがいた。
そして死ぬ前に一言を口に通せた。
「俺は悪じゃない!!ただの人間だ!」
その瞬間、刀を持ってた人が腕を下に振った。
遠くから見ていた自分は、目を大きく開けた。化け物だと思い込んでいた自分は間違っていた。地面に抑えられていた物は確かに人間だった。
さらに、その人間の顔はよく知ってる顔だった。
そう、それは自分の顔だった。
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「用意はいいか?」
「オッケー。かかってこい!」
あるビルの周りに十人バラバラで隠れていた。月の光はビルの正面を照らし、皆はそのビルの横や裏に潜んでいた。彼らのミッションは単純の銀行強盗だった。できるだけ多くの金をとり、無事成功することを祈っていた。
「ファイブ、何やってるんだ!?もう三十秒かかってるぞ!」
「すみません。けど僕だって頑張ってできるだけ早くやってます。」
銀行の建物の右側に人が入れるほどの大きさの窓があった。そこに二人隠れていた。
ファイブと言う男は汗を垂らしながら、部品箱をいじくっていた。ぽっちゃりした体を丸めて、一生懸命その窓のロックを開けようとしていた。
「ファイブ、なぜ時間が係っている?」
その声はファイブのベルトにつけていたトランシーバーから喋っていた。
この十人のうち、ボスっと名乗る男が一人いた。彼は体が大きくて、ムキムキの筋肉をコートの下に隠していた。スキーマスクをかぶり、コートとズボンを着て、全身真っ黒の色をしていた。彼はワンと言う人物とビルの反対の右側に隠れて指示を出していた。
「ファイブ、もっと速くできないのか?」
そう言ったのはスリーだった。彼女はファイブの隣でさっきから彼を焦らせていた。彼女はスリムで、短い髪をした美人だった。けど、彼女のせっかちな態度のせいで、チームの皆からあまりよく思われてなかった。
「ごめんなさい、けど僕なりに頑張っています。」
ファイブは汗を垂らしながら、部品箱からいろいろと取り出した。
「『僕なり』とかじゃなく、今、命を懸けてやってるんでしょ。もっとしっかりしなさい。……もういい。」
そう言った彼女はファイブからトランシーバーを取り、ボスに連絡した。
「すみません、ボス。でもファイブが遅いので、即刻にプランの変更を願います。さもないと真上のカメラがこっちに向きます。」
その彼女の願いを聞いたボスは彼女の言う通りにした。
「セブン、聞いているか?予定変更だ。」
「はい。なんでしょうか、ボス?」
セブンと言う人は、銀行の裏に隠れていた。彼は背が小さく、細めの体をした男の人だった。体につけていた防弾ベストはスカスカで、彼が動くたびにベストが体から落ちそうな感じの細い体をしていた。さらに、彼は頭にゴーグルをつけ、ネックカバーのようなもので首と口を隠していた。
「セブンとナイン、そっちの方から侵入できるか?」
「はい。できます。」
銀行の裏の窓の下に立っていたセブンは森の方向を見た。そして彼は手で合図をした。
すぐその後、ぶかぶかの服を着た小さな子供が木の後ろから出てきた。そしてその子はセブンの背中に乗り、双眼鏡みたいな装置を使って窓を覗いてみた。
「大丈夫。中にはカメラが二つ、けどこっちを向いていない。」
そう言った子供はポケットから小さな黒い箱のような装置を取り出した。それを窓に張り付け、スイッチを押した後、装置は動き出した。その装置は高熱のレーザーで窓をあけ、子供が通れるほどの穴を作った。
ナインはセブンの肩の上に立ち、右足からそっと窓の中から入り、次に体を通した。
「ボス、ナインが侵入しました。」
「分かった。このトランシーバーをナインに渡せ。私が直接彼に指示を出す。」
ナインは窓の穴から手を出し、セブンからトランシーバーを受け取った。そして彼は窓から飛び降り、無事銀行の中の床に着地した。
「ボス、僕、入りました。でもカメラが二機あります。」
「解った。では十秒数えた後、ロビーを走り抜け。」
そう言ったボスはリモコンのような装置を取り出し、赤いボタンを押した。この装置はビルのシステムにつながってあり、十分間すべて電気製品をシャットダウンする機能があった。もちろん、発電機も止まり、すべてのセキュリティー用の機械も一時停止した。
十秒後、ナインはその場から走り去った。彼は背負っていたリュックからタブレットを取り出し、このビルの見取り図を見た。ロビーの奥にいた彼は扉を開き、階段を下り、廊下に出た。そして一番奥の部屋まで走り、やっと目的の金庫を見つけ出した。
しかし、金庫にはタッチ用のロックが仕掛けてあった。これはある人物しか開けられないようになっていた。だが、ナインは戸惑いもなく、リュックからジップロックバッグを取り出した。その中身はどうやら人間の指のようだった。
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外で待っていたセブンは心配していた。
「神様、お願いします。息子が無事でいてください。」
手を合わせ、空を見上げながら祈っていた。ビルの周りにいたみんなも、心の中でナインの安全を願っていた。
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ナインは持っていた指を使い、金庫を開けようとした。しかし、指でタッチパネルを振れた途端、バザーがなった。金庫はすべてメイン・システムとつながってなく、ボスのリモコンでは開けることや、電気を切ることは不可能だった。
しかし、ボスがナインに渡した指では金庫が開かなかった。
「ボ……ボス。開けられません!どうしましょうか?次の作戦に変更しますか?」
ボスはナインの声が聞こえ、腕につけていた時計を見た。セキュリティー・システムが復活するまであと四分。ボスの額に汗が一滴流れ落ちた。そして深呼吸をしてから返事を返した。
「やれ。」
ナインはリュックから銀色の筒を取り出し、キャップを開き、金庫の前に置いてその場を去った。
「皆、よく聞け!」
ボスがみんなのトランシーバーに話しかけた。
「いったんその場から離れろ。そして教えた位置につけ!」
ナインは焦りながらリュックを体の前に持ち替え、思いっきり走った。
筒の中からオレンジ色の液体がみるみると出てきて、金庫のあった廊下全体を充満した。
ビルの電気が復活するまで二分残っていた。ナインは階段を必死に登り、ロビーに出て、出口の窓を探した。しかし、彼にとって窓は高すぎて届かなかった。
煙はみるみると階段を上ってきた。
システム復活まであと一分半。
ナインはロビーの中から椅子を引っ張ってきた。それに上ったが、まだ届かなかった。後、頭一個分ほどの高さに窓があった。
煙はロビーにたどり着き、みるみると広がっていった。
システム復活まであと一分しかなかった。
テーブルを持ってきたナインはその上に椅子を乗せた。
外からセブンの声が聞こえた。
「早く!もう時間がないよ!」
ナインは焦りながら登った。まず、リュックを窓から放り投げ、次に自分の体を通した。
最後に窓から飛び降り、セブンが受け止めてくれた。
お互い何も言わずにその場を思いっきり走って離れた。
煙は透き間を通り、ビルの外まで出てきた。
「ボス、ナインが返ってきました。オール・グリーンです!」
ボスの隣にいたワンがボスに報告した。
「よっしゃ!いまだ、ファイブ!」
ボスが命令を出した途端、ファイブは煙を吸わないように右手で鼻をおさえながら、左手を煙の中に突っ込み、叫んだ。
「イグナイト!」
その途端、煙に火が付き、一瞬にしてビルのすべてが爆発した。
「イッケー!」
ボスが皆に叫んだ。
ナインとセブン以外の皆は炎に飲み込まれたビルに向かって走り出し、金庫を目指した。
町の方角からサイレンが鳴りだし、夜中に外を歩いていた人たちは叫び始めた。遠くから消防署が騒ぎ起こされ、銀行の元へ向かってきた。
「皆、早くしろ!ヒーローたちが来る!」
そう叫んだのはスリーだった。彼女は足が速く、皆を導いた。
「金庫はこの地下にある!ファイブ、早く炎を消しなさい!」
そう言われたファイブは遠くから頑張って走ってきた。けど彼の体系のせいで、数秒かかってやっと地下室の入り口にたどり着いた。
ファイブは息切れでも両手を前に出し、炎を吸い上げ始めた。
ボスと一緒に他の四人が後ろから走ってきて、地下室の入り口にたどり着いた。
「よし、ツー、シックス、エイト、君たちはこの下に行ってこい!ファイブ、その調子で頼む。ワン、ナインとセブンの場所へ行き、抜け道を覚悟してこい。スリー、この場を守っててくれ。」
そう言ったボスは辺りを見回した。彼が目にしたのは町の上にもくもくと集まった雲だった。
「クソ。よりによって、アイツか。」
この夜空の中に、遠くから一瞬光が見えた。
「スリー、戦う用意をしろ。ザ・ショックが来るぞ。」
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銀行の周りを警察が囲んだ。皆、銃を構えてボスとスリーを見ていた。しかし、彼らは何もせず、その場を保ったままだった。
その時、地下からツーとエイトが大きな袋を担いで出てきた。
「ボス、シックスもすぐ来るはずです。」
ツーが言った。
「了解だ。君らはいったん下がれ。我らは囲まれてしまった。」
その時、ビルの前に雷が落ちた。その光は眩しく、辺りが一瞬で輝き、目が見えなくなった。
「ビラン、君たちは町の平和を崩し、いろいろと騒ぎを起こしてしまった。しかし、君らは所詮人間。なので私は君たちを傷つけたくない。おとなしく逮捕させてくれるなら無駄な痛みを与える必要はない。」
ザ・ショックが登場するとき、最初に言うセリフだ。ザ・ショックの活動をテレビで見ていた視聴者は必ずここで盛り上がっていた。彼は世間に心が大きなヒーローっと見て欲しかった。
しかし、ザ・ショックはそんな優しい人ではなかった。そんなセリフでビランが戦いを止めることはまず、絶対になかった。だからこそ相手がどんなに弱くても、彼はいつも敵を半殺しにしてからとらえていた。それが毎日の生活となり、いつの間にか彼は敵を圧倒的な力で倒すことが気に入ってしまった。
テレビでは彼の行動がかっこよく見えていたが、彼の本心は狂ったどエスのヒーローだった。そしてそのことを知っていたのは彼と戦って、生きて帰ってこれたビランのみだった。
ブースターや他のヒーローと違って、彼は特にビランから恐れ入れてた。
「ザ・ショック……」
スリーは彼と目があった。
黄色いコスチュームを着て、マントをひらひらさせながら、ザ・ショックは警察の前に立った。
彼は自分の乱れていた髪を上にあげ、スリーに向かって歩いてきた。
「スリー!速く下がれ。こいつは私が戦う。」
ボスはそう言ったが、スリーは命令を聞かなかった。
「ダメです、ボス。彼を敵にしたら全員無事にこの場から逃げられません。ボスは皆の安全を頼みます。その代わり、私がアイツと戦います。」
そう言ったボスは彼女の提案に反対しようと思ったが、一瞬考えた後、彼女の肩を触った。
「解った。ここは君に任せる。ツー、エイト、ファイブ、そしてシックス。私についてこい。」
やっと地下から出てきたシックスはボスの手をつかみ、彼とほかの皆と逃げた。
ザ・ショックは堂々とスリーの前に立ち、腕を組んだ。
「君ら、本当に俺と戦う気か?悪いが君らの力じゃ今時の高校生より弱いと思うぜ。それでもやるのか?」
スリーは何も言い返さず、彼に向って敵意を示した。彼女の目はまるで獣のように敵をじっと見つめていた。
「やれ、やれ、これだからビランは。己の力を知らずに戦ってると、いつか本気で死ぬぞ。でも今回だけ、俺からサービスを与えよう。もし、俺から逃げずに戦った場合、残りのアイツらを逃がしてあげよう。どう?いい取引だと思わないか?別にお前らが金をとったとしても俺には関係ないし、君らが何したって正直、どうでもいいのさ。ただ仕事のため、一人でも捕まえないと、結構面倒なことになるのさ。」
スリーは恐怖を腹の中に感じた。ザ・ショックはとんでもない力を持っていたことを理解した上、彼女はこれから一人で戦う気だった。半殺しにされ、牢屋にぶち込まれる未来がほとんど決まっていた。
「取引を受けても、あなたが約束を果たす保証はあるの?」
「俺はこう見えても約束はきちんと守る人なんだ。信じてくれるかい?」
スリーは手足すべてを地面につけ、戦いの体制を保った。
ザ・ショックは笑い始め、電流が体中から漏れ始めた。
「約束が成立したと思ってもいいのかな?では、パーティーの開始だ。」