『妄想』
初投稿です。二千字程度の短編です。
『妄想』
信号待ちの交差点。
自転車のカゴに頭を埋める少年。
特にどうした訳でもないのに暗く沈む。
落ち込むどころじゃない。
今にも死んでしまいそうな雰囲気だ。
「だれか俺を刺し殺してくれ。」
ボソッと一言。もちろん、だれの耳にも届かない。
ぶおおおおおおおお
「ちっ。」
赤が青に変わるのを待っていた少年は、右折してきた大型トラックに舌打ちした。
暴走でもしてこちらに突っ込んできたら良かったのに。
ぶおおおおおおおお
「またかよ。」
大型トラックの後ろにはまた大型トラックが走ってる。
二つの連なった大型トラックは交差点を右折していく。
「騒がしい連中だな。」
少年は静かにこうべを垂れた。
次の瞬間だった。
がん!
甲高く、嫌な音が交差点に響いた。
交差点にいた通行人は車同士の接触事故だと思ったことだろう。
だが、違う。
この音は少年と大型トラックが接触した音だ。
少年は今までに感じたことのないような感覚になった。頭がひどく揺れたのだ。クラクラするとでも表現しようか。
「どうやら、俺は死ぬようだ。」
言葉が発することが出来ないのは言うまでもないが頭の中では会話をした。
最も会話といえど、一人しかいないので独り言になる。
「死にたい、という願いは叶ったという訳だ。」
残念ながらこの世は、生きたい、と思ったからといって、必ずしも生きられる訳ではない。生きたくても生きれない人もいる。
その反対も然りだ。
死にたいからといって死ねるほど、この世は優しくない。
それでも、少年の願いは叶ったのだ。
そして、少年は誇った。
「これは奇跡と呼ばずにして何と呼ぶ。」
「……」
「…暇だな。早く成仏しないかな。」
目で何かが見える訳でもなく、鼻で何かが嗅げる訳でもなく、口で何かが喋れる訳でも、耳で何かが聞こえることもない。
そして、痛くもない。
俺が死んでいるという根拠はこの事実だ。
痛みを感じないのだから、死んだに決まっている。少年はそう決めつけた。
「いや、ほんと暇だな。俺はいつまでこうしておけば良いんだ?」
そうだな。と相打ちする相手もいない。
だが、別に悲しくなんてない。一人でいることには慣れてる。
退屈なんて我慢すれば何とでもなる。
生きていても何も楽しくない。
辛いことしか訪れない。
輝かしい過去もないし、未来に希望なんて欠片もない。
「なぁ、一緒にしりとりしないかい?」
「うん、良いよ。」
「じゃあ、しりとり!」
「えっと、りんご!」
いつのまにか少年は少年Aと少年Bに分かれた。
最初のうちは、実に楽しそうに行なっていたのだが、徐々にトーンは下がっていった。
この二人のしりとりは一時間後も続いた。
「えっ、え、えんぴつ。」
「つ、つ、つ、つ、つみき!はもう言ったな。つ、つ、つまようじ。」
「じ、じゃがいも!」
少年は泣きたくなった。
別にじゃがいもが嫌いで泣くのではない。
一時間の間、しりとりなんてメンタルが強くないと出来ない芸当だ。
さすがの少年でも心が折れてしまった。
退屈しのぎも、ここまでか。
そう思った少年はここで冷静になってみた。
そして、
「まさか。」
少年は一つの仮説を立てたのだ。
そう、この物語も、もう終わり。
きっと、物語の最後はこう締めくくられる。
「あぁ、夢か。」
物語は終わらなかった。
さっきと状況はなんら変わってない。
夢というのは夢を認識した時点で夢じゃなくなる。夢というのは寝てる間に無意識に頭の中で起こることであって、夢だと意識して見ている光景は夢ではなく、妄想である。
「そう、これは妄想だ。」
妄想なら合点がいく。胸を張って言えることでもないが俺は妄想が得意だ。
小学生の時からよく妄想をしたものだ。
「無人島で暮らす妄想とか、教室に入ってきた不審者を撃退する妄想とか。」
でも、中学生の時は
「あの子は、俺のことが好きなんだ。」
なんてバカな妄想をしたものだ。優しいあの子は俺だけじゃなく誰に対してでも優しいかった。
どの妄想も人に知られたら恥ずかしいものばかりだ。
ちなみに今はというと
「教室に不審者が入ってきて自分が刺される妄想、授業中に窓から狙撃される妄想。そして、現在はトラックに轢かれる妄想だ。」
少年の中では、いくつかの死ぬパターンが築かれていた。
「妄想のくせに全然、目覚めないな。」
妄想に目覚めるもクソもないだろうが、夢ではない以上、この状況は一刻も早く終わって欲しい。
しかし、無情にも独りぼっちの状況は依然として続いた。
「もし、本当に死んでいたら。」
なんて考えてみた。
「両親は泣くだろうか?」
まぁ、泣くだろうな。
「友達はどうだろう?」
俺が居ても居なくても、アイツらは変わらない。「好きだったあの子は?」
そもそも、俺のことを忘れてるはずだ。
「俺が撃退するはずの不審者は?」
いや、そもそも不審者なんて来ない。
「観たかったあのテレビは?」
来世に再放送があるかな。
「 聞きたかったあの音楽は?」
天国でも聴けるといいな。
「やりたかったあのゲームは?」
親にお供えしてもらおう。
あっ、でも死んでたら、もう頼めないじゃん。
「あぁぁぁぁぁ!!もう、どうでも良いから早く目覚めろ!!」
その時だった。
何も見えなかった視界が突然、開けた。
この場所は病室だった。
鼻で嗅いだのは消毒液の匂い。
口を開けば「あっ」と声が出た。
頭には、まぁまぁ強い痛みがあった。
そして耳からは
「智也!気がついたのね。」
母親の声が聞こえた。
「あぁ、良かった。心配したぞ。」
父親の声。
「良かった。生きてくれて良かった。」
友達の声。柄にもないことを言ってくれた。
「智也くん。大丈夫?」
女の子の声。中学で好きだった子の声だった。
その女の子の顔を見ると泣いていた。
周りを見るとみんな泣いていた。
「……」
少年は思った。
何かがおかしい。この違和感は何だ?
そして、少年は気づいた。
「わはははははは。」
大笑いした少年の頰に滴が垂れた。
これは、少年の最期の妄想だった。
読んでいただきありがとうございます。
手探りの状態で書いてみたので、上手く書けてないかも知れません。出来るだけ良い作品をと奮闘しました。最初ということで二千字程度の作品を投稿してみました。物語のオチを思いついてこの作品を書こうと決めましたが上手く完結させられていたでしょうか?




