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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第九章 そして二人目
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93 お問い合わせ

「うーむ……。むむむむむ」


 その日の夜、自分の部屋でボクは一人唸っていた。

 理由はお昼頃に『OAW』運営から贈られてきたメールだ。二件送られてきたうちの一件は学校で確認した通り公式イベント開催のお知らせだった。

 そしてもう一件、中身を見るのを後回しにしたそれこそが、唸っている原因だった。


 簡単に言うと、それは公式イベントへの参加のお願いだ。

 元々運営への報告から始まった『テイマーちゃんの冒険日記』の配信によって、ボクは新米アンド低レベルながらそこそこに有名なプレイヤーとなってしまっているらしい。

 そのため、イベントを盛り上げるためにもぜひとも参加して欲しいという申し出だったという訳。


 と、ここまでは最も表向きの話です。

 件のメールにはまだ続きがあったのだ。『OAW』は基本的に一人用のRPGロールプレイングゲームだからMMO(多人数同時参加型)とは異なり、個人的に攻略動画をネットにアップしているような人以外は有名プレイヤーという存在はいないに等しい。


 ここで問題となってくるのが先ほど挙げたボクの「そこそこに有名」という立場だ。

 プレイヤー同士が交流できる『異次元都市メイション』では、ボクがテスト期間のためにお休みしていた間に、なんと「テイマーちゃん」を名乗る偽物が登場していたそうなのだ。

 理由としては「ちやほやされてみたい」だとか、「レアアイテムを譲ってもらえることを期待した」とか、何とも微妙なものばかりだったらしい。

 しかし、このままでは街の治安や雰囲気が悪くなってしまいそうなため、公式イベントの開催を機にボクという存在を公表しようとしているみたい。


 いっその事、自分のワールドから出ないようにすればいいような気がするけど、高い没入性への対策として、運営が率先して他のプレイヤーとの交流を勧めてきたという背景があるため、引きこもり宣言は色々と別の問題へと発展してしまいかねないのだとか。


 と、ここまでもまだ表向きの話だったり。

 ここからはボクの勝手な予想になるのだけれど、どうにもまだプレイヤーには公表されていないことがあるような気がするのだ。

 それが一体何なのかは、ゲームのプレイ経験が少ないボクには分からないのがもどかしいところ。

 おぼろげながらもそれが見えないと、公式イベントへの参加を表明することは難しいと思う。下手なことをしてリアルの身バレに繋がりでもしたら目も当てられないし。


「まあ、このまま一人で悩んでいても解決できるようなことじゃないのは分かってるんだけどね……」


 ここは一つ、直接聞いてみちゃいましょうか。

 そう決めたボクはヘッドギアを装着してベッドに横になる。冷房を入れているので冷えすぎないように薄手のタオルケットを体にかけることも忘れない。

 そしてヘッドギアを起動させ、もう一つの世界へとダイブ!……すると見せかけて『OAW』のヘルプを呼び出したのでした。


 ………………。

 …………。

 ……。


 とてつもなく長いようで、それでいて一瞬のようでもあった時間が過ぎた後、ボクは一辺五十センチほどのパネルが延々と地平線の彼方まで敷き詰められた不思議空間に立っていた。

 懐かしのキャラクターメイキングを行った場所だ。


「お久しぶりですね、リュカリュカさん。リアルの方の用事というのは終わったのですか?」

「アウラロウラさんもお久しぶり。うん、まあ、何とか無難に終わらせられたかな、っていうところですかね」


 現れたのはキャラクターメイキングの時などにお世話になった、にゃんこ人間のアウラロウラさんだった。

 今日は真面目モードなのか、トレードマーク化していた変装はないもよう。ちょっと残念。


「今日はヘルプからの呼び出しということですが、何か問題がありましたでしょうか?」

「問題というよりは、少し話を詰めておきたいことができたというべきかな」


 ということで、さっそく公式イベント関連で発生した疑問などを尋ねていくことにしました。


「……そこまで察せられてしまっていましたか。少々勧誘の文言が露骨過ぎたでしょうか?」

「その点はボクの方からは何も言えませんね。同じ文章でも気にしない人もいるでしょうから」


 裏事情や秘密があると感じたのは、あくまでも偶然の部分が大きい。

 再び同じ状況になったとして勘付けるかと問われれば、絶対にできるとは到底答えられないだろう。


「まあ、気付かれてしまったのならば仕方がありません。確かに公式イベントについて、プレイヤーの方々には公表していない秘密があるのは間違いありません」

「あらら?すんなりと教えてくれちゃうんですね」

「曖昧に対処した結果、不確かな情報を垂れ流される方が危険ですので。ああ、それと秘密であることには変わりありませんから、他のプレイヤーの方々には話さないでくださいね。「ここだけの話なんだけど……」というのもなしでお願いします」


 釘を刺されてしまったけれど、それも納得の話だ。「ここだけの話」ほど、拡散しやすいものはないからね……。


「それと秘密の詳しい内容については、今のワタクシにはお話しできる権限がございません。上の者に問い合わせてまいりますので、少しばかりお時間を頂きたく思います」

「分かりました。それじゃあ公式イベントへの参加への回答については一旦保留させてもらっておいていいですか?」


 さすがにその辺りの事情が聞けないままでは決定する事はできない。


「はい。それでお願いします。……この他に困ったことや気になる点などはございませんか?」

「うーん……。今のところはないですね」

「それでは引き続き『OAW』の世界をお楽しみください。失礼します」

「うわあ!?」


 綺麗に斜め四十五度でお辞儀をしたかと思うと、アウラロウラさんの体は一瞬で液体になったように崩れて消えていってしまったのだった。


「さ、最後の最後で見事にやられてしまった……」


 真面目モードでも悪戯好きなのは変わらないままだったみたい。

 それにしてもゲームならでは、仮想空間ならではの凝った演出だった。アウラロウラさんに搭載されているAIが学習した結果なのか、それとも運営の開発陣が考え付いたことなのかは分からないけれど、こうしたことの積み重ねが広大な『OAW』の世界を形成していっているのではないか、そんな風に感じたのだった。


「なんて、考え過ぎかもね」


 くすりと笑いながら改めて『OAW』の本編を起動させる。

 さあ、久しぶりの冒険の世界だ。気持ちを入れ替えて思いっきり楽しむことにしよう。


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