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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十五章 元凶たち
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922 別れ

 謁見の間へと戻るのはボク一人だけ。そう決めた。


「なっ!?どうしてですの!わたくしたちも参りますわ!」

「そうです!リュカリュカ一人になんて任せていられませんよ!」


 相談もなしにいきなり決めたことだから、二人からはそういった非難の声が上がるだろうことは想定済みだ。でも、ネイトさんや。その言い方はどうかと思うのよ。それだと毎度のようにボクが何かしらやらかしているみたいではないですか!?

 まあ、プレイヤーな上にVRゲーム初心者だったから、『OAW』の世界観や常識に疎いところはあったと思うけれどさ……。


 おっと、いけない。想定外の口撃を受けたことで本題から意識がそれてしまった。


「何を言っているのよ。二人とも悪霊との戦いでMPが枯渇寸前になっているでしょうが。いざという時に自分の身も守れないなんて足手まといにしかならないから」


 あれから時間経過による自然回復で多少はマシになっているかもしれないけれど、それでもまだまだ本調子には遠く及ばないギリギリな状態のはずだ。そんな彼女たちをこれ以上危険にさらしたくはないし、言い方は悪いが最悪邪魔になってしまうかもしれない。


 ボクがもっと色々と周囲に気を配れれば何とかできたかもしれないが、今のところそんな便利な技能が生えてくる様子もなければ、プレイヤースキルに目覚める気配もない。

 まあ、自分が天才じゃないのは塔も昔に分かっていたことだ。さらにまことしやかに存在が噂されている円滑なイベント進行のためのプレイヤーへの優遇措置、俗にいう主人公特権が発動する(きざ)しも見られない。二人を連れて行ったところでバッドエンドへの選択肢が増加するばかりだろう。


「確かに万全とは言い難いですが……」


 彼女たちも自分の状態は把握しているため戦力になり得ないと理解できてしまうのか、悔しそうに苦しそうに俯いていた。

 うっ……。罪悪感がひしひしと……。いやいや、ここで流されて危険な目に合わせてはそれこそ後悔することになる。ここは毅然とした態度で拒否しないと!ボクはノーと言えるニポン人なので!


「で、ですが、謁見の間について行くことはできなくても、ここでリュカリュカの帰りを待つくらいはさせて欲しいですわ!」

「そうです!あなた一人を犠牲にして脱出するなんてできません!」


 うん?何か決定的なすれ違いが生じているような……?


「確かにミルファとネイトには先に脱出してもらうつもりだけど、ボクは別に死ぬつもりはないよ。というか脱出するための別の当てもあるし」

「え?」

「は?」


 ボクの答えに目を丸くする二人。……なるほど。命を懸けるつもりで、ではなく命を捨てるつもりで謁見の間に向かうと思っていたのか。この二つは似ているようでいて、主に生き残るという気概が全く違うからねえ。

 それは止めようとするし同行しようとするはずだわ。逆の立場なら間違いなく同じことを言ったと断言できるもの。


「という訳だから安心して脱出しておいてね。あ、変に勘ぐってもいけないから言っておくけど、脱出するための当てがあるのは本当だから。自己犠牲のために適当なことを言っている訳じゃないから」


 ただ、それを悠長に説明している暇はない。既にカウントダウンは始まっているのだ。ファジーだけど。


「し、しかし……」

「だけれど……」

「うがー!もう!それじゃあこれを預かっておいて!」


 歯切れの悪い態度に業を煮やしたボクが取り出したのは、うちの子たちのお家こと『ファーム』だった。


「二人には大事なうちの子たちを預けます。言っておくけどあくまで一時的に預けるだけだからね。後で絶対に返してもらうから!」


 例えパーティーメンバーの二人であっても、うちの子たちはあげません!


「どう?これなら信用できるでしょ?」

「……正直なところまだ不安な部分は残っておりますけれど、そこまでされたからには信用するほかありませんわ」

「同じくです。リュカリュカがこの子たちのことをどんなに大切にしているのかは、わたしたちが一番そばで見てきましたから。この子たちを不幸にするような真似はしないでしょう」


 これで二人の方の説得は完了だね。残るはうちの子たちだけれど、


「みんな、ミルファとネイトのことを守ってあげてね。それでちょっとの間だけお留守番をお願いするうわっとお!?」


 しかし、その台詞を言い切ることはできなかった。なんとエッ君が突撃するかのような勢いでボクの胸に飛び込んできたのだ。


「ちょっ!?エッ君!?いい子だから聞き分けて?」


 言い聞かせようとしてもひたすら「イヤイヤ!」と体を揺するばかり。時折わがままを言ったりこらえ性がなかったりすることはあったけれど、ここまで拒否反応を示してムズがるのは珍しい。


「困ったね……」

「連れて行ってあげればいいじゃないですか。そうなってしまえばもう、梃子でも離れませんよ」

「ええ。それにエッ君が付いていてくれるのであれば、わたくしたちも少しは安心できるというものですわ」


 むう……。先に無理を通したこともあって断り辛い。それに困りつつも嬉しく感じていたことも事実だった。なんだかんだとエッ君とはゲーム初日からの付き合いだからね。ある意味相棒とすら言える子なのだ。


「……ふう。仕方ないか。リーヴとトレアは悪いけど二人を守ってあげてね」


 任せておけとグッと拳を握る二人。頼りにしていることに嘘はないが、いかんせんリーヴはピグミーサイズだしトレアも人化しているので少女姿だということもあって、どうにもほんわかと(なご)んでしまいそうになる。

 いやはや、締まらないなあ。まあ、下手に悲壮感あふれるよりはボクたちらしいのかもしれない。


「先にクンビーラに戻って待っていて」

「分かりましたわ。……必ず、無事に帰ってきてくださいまし」

「もちろん」


 ミルファが付きだした拳にこつんと合わせる。公主家のお嬢様なのだけれどねえ。なんとも勇ましいことで。


「ついでに、『天空都市』もしっかりと片付けてきてくださいね」

「ついででやるには大仕事だなあ」


 苦笑いを浮かべながらネイトともこつん。

 壁の『はっしゃボタン』をポチっとすれば、さっそく射出までのカウントダウンが始まった。ネイトに渡した『ファーム』へとリーヴとトレアが入ったことを確認すると、エッ君とポッドの外へ。どうせすぐに再会するのだ。仰々しい別れの挨拶はいらない。


 そして、脱出ポッドが射出されていくを見送った。


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