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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十五章 元凶たち
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918 最後の王の最期(肉体)

 死霊になった王様の精神(なかみ)は消えたが、肉体(いれもの)は玉座に残さてしまった。

 その理由は謁見の間の中央に描かれた魔法陣、つまりは死霊化の術式を守る障壁のエネルギー源にするためだった。

 まあ、ボクたちの予想ではあるのだけれど、大きくは間違っていないと思うよ。


「という訳で、あの王様の体を何とかしないといけない訳なんだけど……」

「必要だと分かっていましても、抵抗感を覚えてしまいますわ……」

「そこまで織り込み済みであったとすれば、彼の魔法使いは人の心をいうものを持ち合わせていなかったのかもしれません」


 いつになく厳しい口調のネイトに、ミルファと二人コクコクと頷くことで同意を告げる。普段温和な人ほど怒らせると怖いと言われる通り、こちらに向けられた訳でもないのにとてもとても怖いです。


 それはともかく、ある意味装置と化しているのだからさっさと解放してあげるのが筋というものなのだろう。そう頭では理解していても、死体蹴りをするようで感情的にはなかなか納得できるものではないのだよねえ……。


 困っていたところ、何と勝手に事態が進み始めた。

 これは後で聞いて知ったことなのだけれど、こうした倫理的や道徳的に判断が難しいことに関しては、プレイヤーの負担になり過ぎないように自動でイベントを進めることもあるのだとか。このシステムはおおむね好意的に受け入れられているそうだ。

 各人ごとにそれぞれのワールドがあり他プレイヤーに影響が出ない『OAW』の強みを生かしたサービスだわね。


 で、王の肉体だけど……。ふいにガクリと項垂れたかと思えば、砂のお城が崩れていくかのように瞬く間に風化していき、あっという間に消失してしまったのだった。

 痕跡と言えば被っていた王冠くらいのもので、それすらも床に転がっていて儚さや呆気なさといったものを助長しているかのようだった。


 さらに、異変はそれだけにとどまらなかった。まず、魔法陣を取り囲んでいた障壁が消えた。これはまあ、予想していた通りなので問題なし。だけど、その次はそうも言っていられなかった。

 何と魔法陣そのものが力を失ったかのように輝きを弱めていったのだ。


「一体何がどうなっていますの?」

「いや、ボクに聞かれても困るんだけど……」


 ミルファさんや、そっくりそのまま同じことをボクも言いたいのだけれど?あくまでも一プレイヤーなのであって運営関係者ではないからね。設定的な部分は何も知りません。


「異次元都市に出入りできるリュカリュカであれば、わたくしたちが知らない事情を聞き及んでいるかもしれないと思っただけですわ」


 基本的にプレイヤーたちがクリアしたイベントの情報はバンバン公開されているので、ミルファの言い分もあながち的外れだとは言えない。

 ちなみに、これに関して運営は「前情報なしで臨場感を楽しむのも良し、攻略情報を入手して華麗に完璧にクリアするのも良し。または心構えが必要な部分に絞るのもアリ」と要はその人次第でご自由に、というスタンスを取っていた。まあ、ゲームに攻略本や攻略サイトはつきものだしね。


「リュカリュカの想像でいいので話してくださいませんか?」

「まあ、それくらいなら。でも、外れていても文句は受け付けないからね」

「もちろんです」


 答えが知りたいというよりも、これからの行動を決めるための判断材料が欲しいというところなのかな。もしかすると、そういう体でプレイヤーに考える時間を取らせようとしているのかもしれない。

 ……ちょっとメタ的な考えが過ぎるかしら。

 そして今さら二人がそんなことで文句を言ってくるとは思えないけれど、こちらの気持ち的に一応予防線を張っておくことに。


「多分、『神々の塔』周辺の結界として使用されていたマジックアイテムにあの二人が組み込まれていたのと同じく、王様も死霊化の術式に組み込まれていたんじゃないかな」


 この『天空都市』の核である『空の玉座』を発見して起動させた一族の末裔ということで、王様にしか使えない何かがあったり、能力を秘めていたりした可能性は大いにあり得ると思うのよね。そうした力に目を付けられて、出力確保のためだとか障壁を張って魔法陣を保持するために術式に組み込まれたのではないかな。以上、理由その一でした。


 理由その二。術式に組み込むことで王の首元に刃物を突き付けた。これは王様本人というより配下や取り巻きへのけん制の意味が大きい。

 権謀術数渦巻く大国の中枢だ。いつ寝首を掛かれるか分かったものではないとすれば、保険の一つや二つは絶対に準備していたはずだ。


「今の三国ですら宮殿内は仮想敵や潜在的な敵がいっぱいいるみたいだしねえ。ミルファはクンビーラの生まれで良かったね」


 それこそ三つの大国であれば旗頭として担ぎあげられたり、縁戚(えんせき)としての力を得るための政略結婚の道具にされていたのではないかしらん。


「想像だけであっても、考えたくない話ですわ……」


 と、本気で嫌そうな顔をするミルファ。婚約者のロイさん大好きっ子だものねえ。さっさとくっつけばいいのに。……あ、婚約していたのでした。


 余談ですがクンビーラは『風卿エリア』の都市国家群の盟主的な扱いをされているけれど、実際は他所に何かを言えるほど力がある訳ではない。それではどうしてそんな立場になっているのかというと、自由交易都市として人とモノが多く集まってくるためだと思う。

 特に『三国戦争』の後は復興のためにどこもたくさんの物資や人材を必要としたことだろう。隣接する『武闘都市ヴァジュラ』にやたらと敵愾心を持たれていることの裏にはこうした事情があったのでは?とか予想しています。


 話を戻そうか。理由その三。本当は否定したいのだけれど、否定しきれないのがこれだ。


「嫌がらせというか、意趣返しのつもりだったように思えてしまうのよね……」

「え?そんな、まさか……」

「あの魔法使いって自分が一番、自分が最高という考えの持ち主だったでしょう。王様相手でも命令されることを内心では腹立たしく感じていたんじゃないかな」

「師にあたる宮廷魔法使いのことも、口汚く罵倒していましたね」

「そう言われると、確かに否定ができませんわ……」


 改めて先に倒しておいて良かったと思う。ああいうやからは生き汚くて――死霊になっていたけれど――しぶといのが定番だ。知らずに通り過ぎていたなら、何故かあいつだけ消滅せずに復讐にやって来る、なんて展開もあったかもしれない。

 粘着質な死霊が付きまとってくるだなんて、死んでもごめんだわ。


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