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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十五章 元凶たち
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917 最後の王の最期

 炎の巨人――いやもう、ぶっちゃけてしまうとアコの操るイフリート君な訳ですが――の羽交い絞めアンド継続ダメージによって悪霊のHPは全損、ボクたちは全員無事に戦いを乗り切ることができたのだった。


「それなのに、この釈然としない気持ちはなんだろう……」


 結果を見れば最後の最後まで参戦を我慢していたアコの作戦勝ちということになるだろう。そのタイミングをあの子自身に任せていたのは他ならぬボクだし、事実あれがなければ最後の最後で悪霊に大逆転を許していた可能性は高い。

 うん。気持ちはさておき、どう考えても褒めてあげなくてはいけない場面だね。


「アコ、ありがとうね。おかげで誰もやられることなく悪霊を倒すことができたよ」


 ねぎらいの言葉にニカッと笑いサムズアップしながら消えていくイフリート君。うーむ……。アコの本体ではないとはいえ、暑苦しいアンド濃ゆいなあ。


 と、勝利の余韻に(ひた)れていたのもここまでだった。悪霊が消えたかと思えば、玉座に再び王の死霊が現れたのだ。一瞬身構えそうになるが、弱弱しいその様子から危険はないと判断する。

 それでも用心は怠らずに、うちの子たちは引き続き『ファーム』から出てきたままだ。まあ、〔共闘〕の効果が切れてしまったためにチーミルとリーネイの姿は見えなくなっていたけれど。


「お、おおお……。このような者どもの手によって我らが千年王国が潰えるというのか……。輝かしい永遠なる栄光が消え失せてしまうというのか……」


 嘆き節に見せかけておいて実は挑発だったというオチですか?乗っちゃうよ?そこはかとなくイラッとしたから乗ってあげようじゃないのさ。


「一つ教えておいてあげる。栄光なんてものはね、掴んだその瞬間から過去のものになっているの。あなたたちは現在と未来をないがしろにして、過去ばかりを見ていたんだね。立ち行かなくなって当然だよ。『大陸統一国家』は滅ぶべくして滅んだんだ。後、このような者どもで悪かったわね」


 もちろん過去も大事だ。成功も失敗も大事な財産だもの。だけどそれを活かせなければ、それを活かそうとしなければ意味がない。

 そして彼の言う栄光とは国家としての繁栄というよりも、彼個人や一握りの者たちがもっていただろう強大な権力を指しているように思う。要は民衆やら市民やらを従わせて「俺様偉い!」と感じていたかったのではないかしら。

 だからこそ永遠にこだわり、死霊になるという悪魔の提案に食いついてしまった。


「あなたはもっと身近にいた人の言葉に耳を傾けるべきだった」

「身近な……。まさかスラットの方が正しかったというのか?」


 さて、ね。正しさの定義なんてその時その状況その立場でコロコロと変わってしまうものだから、安易に断定できるようなものでもないし。ただ、周囲から疎まれて孤立してしまうくらい辛辣で不愉快な意見だったということは、判断材料の一つとしての価値はあったと思う。

 国の滅亡という結末は変わらなくても、『天空都市』に居た人々を道連れに死霊になるという救いようのない展開は避けられたのではないのかな。


「さあ、悪い夢の時間はこれでお終い。今度はちゃんと眠りにつくといいよ」

「ああぁぁ……、また、われは、なにもつかめぬまま……。すべてが、きえて、ゆ、く……」


 こうして、『大陸統一国家』最後の王は消滅した。


「再びめぐるその時まで、彼の魂に安らかなる休息を」


 ネイトが静かに死者を送るための聖句を口ずさむ。敵対していたし文字通り死闘を演じることになった相手ではあるが、それを止める気にはならなかった。あの外道魔法使いに利用されたという一面があるのもまた事実だからね。

 そしてその直後、その認識が間違いではなかったことを実感させられる羽目になる。


「どういうことですの!?」


 苛立ちと困惑に彩られたミルファの声に驚き振り返ってみれば、彼女は厳しい表情で一点を凝視していた。それはつい先ほどまでボクたちも目向けていた場所、すなわち王の死霊がいた玉座だった。


「彼はたった今、消え果てたはずですわよ!」


 叫ぶのも無理はない。今しがた見送ったばかりの王が何食わぬ顔で座していたのだから。ボクもさすがにこれは驚き過ぎて声も出ないよ。ミルファに至っては聖句まで唱えていた訳で、色々と台無しにされた気分なのではないだろうか。


 ふと、小さくない違和感に気が付く。まず、先ほどは何食わぬ顔と表現したけれど、どちらかと言えば表情が抜け落ちているという方が適当な感じだ。感情やら生気やら何もかもなくしてしまっているかのようだった。

 いやまあ、後者の方は既に死んでいるのだから持ち合わせているはずがない、と言われればそれまでのことなのだけれどさ……。


 そしてもう一つ、死霊特有の透けている感が一切ない。なんなら足の先までしっかりくっきり見えている。

 うん?つまりはそういうことなのですかね?


「ねえ、多分あれって王様の肉体(ぬけがら)じゃないかな」


 ボクの言葉にハッとなって見直す二人。そしてそう思い至ってみれば違和感の正体にも納得がいく。


「ですが、何のためでしょうか?他の人たちの肉体は安置されていて……、『天空都市』を支えるために利用されているのですよね?」


 あの魔法使いのことだ、どんなに周りから圧力が掛けられようとも、王様だけそれを免除させるような真似をするとは思えない。逆に言われれば言われるほど、酷使してやろうと企んだような気がする。


「あり得そうですわね。使える資源が少なく例え王と言えども遊ばせておく余裕はない、などと言いくるめていそうですの」

「そうすることで反対意見を封殺する狙いもあったのかもしれません。王自らが先頭に立っているとなると、民はそれに付き従うしかなくなりますから」


 ミルファとネイトそれぞれの意見になるほどと思う。後は利用された目的だが……。

 そういえば戦闘が終わったのに魔法陣を取り囲む障壁は残ったままになっているのだよね。


「いや、これでしょ!」


 術式を維持するためになくてはならない存在だし、説得するにはうってつけだろう。さらに王という守られる側だった者に術式を守らせるという役割を押し付けることで、密かに皮肉を利かせたとも考えられる。

 さっさと気が付こうよボク!?


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  重要な電源である国王が居なくなったら、どの程度まで機能が制限されるんですかね?  浮き続ける機能は残ってる元国民たちでどうにか賄うとして、自動修復機能があるあの転送装置の自動修復機…
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