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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十五章 元凶たち
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911 対悪霊後半戦開始

 渦を巻く黒い光が消えた時、悪霊は既に形態変化を完了させていた。その肝心の何がどう変わったのかという点だが、ニョロニョロした触手のようなものが何本も生えてきていた。


「う、うわあ……」


 まあ、うねうねと(うごめ)くさまは見ていてあまり気持ちの良いものではないし、魔物らしい変化と言えなくはないだろうね。

 ただ、生えてきた場所が問題だった。先に言っておくと卑猥な方面の話ではありませんのことよ。もともとこの悪霊の体自体、腹部から上しかないからね。下半身が触手になって蛸のようにうねうねと動けるようになったりはしていないのだ。


 しかし仮にそうなっていたとしたら、間違いなく苦戦することになっていたことだろう。ここまで順調に敵のHPを削ることができていたのは、方向転換すらままならないほど悪霊がその場から動かない、動けないことに大きく起因していたのだから。

 複数の触手の足――手なのか足なのか混乱してきそう……――で多方向を同時に相手取ることができるようになれば、ボクたちの利点はほとんど消失していたと思うよ。


 おっと、仮のことをいつまでものんびりとしていられるほどの余裕はないのでした。話を戻しますと触手の生えてきたその箇所とは、頭部、しかも顔に該当する前面ではなくその上、頭頂部だった……。

 えーと、ゆで卵みたいだと表現したように、ツルツルだったことを気にしていたの、かな?


 いや、もうホントにこの微妙な空気をどうしてくれるのよ!?髪の毛が蛇になっている某三姉妹みたいならそれなりに不気味で恐ろしかったのだろうとおもう。が、それこそ無数のそちらとは違って悪霊の場合は何本か(・・・)でしかない。

 じっくり見ていたいものではないのではっきりとは言えないが、多分多くても二桁には届いていないのではないかしらん。


「精一杯譲歩しても、頭の上にイソギンチャクが乗っているようにしか見えないわ……」


 繰り返すけれど最大限好意的に見てそれだからね。つまり実際にはミルファやネイトたちのようにコメントのしようがない、という意味で言葉をなくしてしまう状態だった。

 だけどそこで止まってしまっては司令塔としては失格だ。例えあんな変なものでも考察して脅威度を予測しなくてはいけない。何せ元になった死霊のそのまた大元は『大陸統一国家』最後の王様だし、とんでもない隠し玉を持っているやもしれない。


 さて、楽観的プラス思考で今の状況を考えるならば、ボクたちの攻撃によって完全な妨害とまではいかなかったものの形態変化を一部に押し止めることができた、ということになるだろうか。さすがに頭の上でニョロニョロしているだけということはないと思うが、完全体と比べれば著しく能力は低下しているはずだ。


 高い位置にあることを利用して、ボクたちの視界の外から奇襲をしかけてくるのでは?悪霊から生えてきた触手だし、伸びるくらいは朝飯前ではないかな。槍のように真っ直ぐ伸びて貫いてきたり、鞭のようにしなりながら伸びて打ち据えてきたりしそうだ。


「ということで接近する人は上からの攻撃にも注意して!離れている人もここなら安全と高をくくらずにいつ攻撃が来ても避けられるように用心しておくこと!」


 いざ戦いが始まってしまえばどこまで徹底できるか分からないけれどね。それでも心構えさえしておけばいきなり致命傷を受けるようなことはないと思う。


「ネイトとリーネイはしばらく回復優先でお願い」


 実はボクの勘違いで、これこそが完全体という可能性も残っている。頭に思い描いた攻撃と同じであっても、段違いの威力と速さを兼ね備えているかもしれないし、はたまた予想だにしない手を打ってくるかもしれない。

 ここは臆病なくらい慎重になっておくほうがいい。


 頭部の触手の動きに対するボクの予想の正解率は五十パーセントといったところだった。当たっていたのはその攻撃方法で、槍のように直線的に突いてきたかと思えば鞭のように曲線的な動きもあるという、分かっていても対処が難しい代物だった。


「くっ!固いですわね!?」


 加えて数本が絡まり合って強靭な攻撃を繰り出すという芸当まで披露してくる始末だ。こうなるとカウンターでやり返してもミルファの細剣では弾かれてしまい、ほとんどダメージが通らなくなってしまった。


「ああなったらボクがやり返すからミルファは回避に専念して!」


 幸いにも龍爪剣斧の斧刃であれば通るので、役割分担とばかりに彼女の背後からするりと抜け出してはどっせい!と力任せの一撃を叩き込んでいった。

 そして攻撃が終わればすぐに後退する。敵の反撃を受けないため?確かにそれもあるのだけれど、一番の理由はある物を視界に入れないためだった。


 この合体触手の攻撃なのだけれど、一本の時とは異なり伸縮自在という訳ではなかった。その足りない距離を稼ぐために悪霊がとった行動が、体を倒すという方法だった。


 その上これ自体も侮れないほどの危険な攻撃になるのよね……。ほとんど予備動作もなくいきなり倒れ込んでくるので、押し潰されてしまいそうになるのだ。背面(あちら)側では逃げ遅れたチーミルを助けるため、リーヴが【ハイブロック】で受け止める――それでも二人ともダメージなしとはいかなかった――ということも起きていた。

 それにしても躊躇(ちゅうちょ)なく背中から倒れていくとか、受け身を取り慣れている人でもなければできることじゃない。ある意味これもゲームならではの演出と言えそうだ。


 話を戻すと、そうやって倒れ込んでくると当然頭部も近くにやってくることになる。これが曲者だったのだ。

 想像してみて欲しい。ツルツルの頭から生えた触手が数本ずつ寄り集まって、三つ編み状態になっている様子を……。最初にそれを至近距離のドアップで見た時には、戦闘中にもかかわらずふき出してしまいそうになったわよ。しかも笑うのを耐えようとして、乙女が出してはいけない類の音を口から発してしまったのだった。


 正直、これは本当に偶然の産物だったのだと思いたい。これを狙ってやったのだとすれば運営は性格の歪んだひねくれ者の集まりなのだと軽蔑してしまいそうだもの。 

 そんな切実?な事情もあって合体触手への攻撃はヒットアンドアウェイにならざるを得なかったのだった。


〇本編ではもう機会がなさそうなので、ここで対悪霊戦について少し補足しておきます。


 まず、正規ルートというか正面から『空の玉座』へとやって来た場合、近衛兵とかの死霊が追加されることになっていました。

 入口近くに吹っ飛ばされたリュカリュカちゃんが聞いたうめき声はその名残みたいなものです。


 次に元凶の魔法使いを放置していた場合、やつも乱入してきて悪霊二体との戦いになるところでした。なんて迷惑なやつ……。


 どちらにしても背面側に回り込むような余裕はなく、もっと苦戦することになっていたはずです。

 結果的にリュカリュカちゃんたちはバトルが一番楽になる選択をしていた、ということになります。ご都合主義?後付けっぽい?……それは言わない約束だよ、お父っつあん!

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[一言] >想像してみて欲しい。ツルツルの頭から生えた触手が数本ずつ寄り集まって、三つ編み状態になっている様子を…… >どちらにしても背面側に回り込むような余裕はなく、もっと苦戦することになっていたは…
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