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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十四章 『天空都市』へ
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898 ただ突き進むのみ

 移動しようと半壊した建物から飛び出した瞬間、目の前に落ちてきたものは死霊だった。呆れた顔で「何言ってんだお前?」と言われてしまいそうだが、これが現実――ゲームだけど――なのだから仕方がない。

 なお、個人的には「あなた疲れているのよ……」と優しくされる方がダメージが大きいように思う。異論は認める。


 いや、そんな呑気なことを考えている場合じゃないと我に返り、慌てて元いた建物の内側へと避難する。

 出て行った直後に舞い戻ってきたボクに驚くミルファたちを、唇に人差し指を当てるゼスチャーで静かにさせる。鬼気迫った雰囲気にただ事ではないと察した二人は、素直に従ってくれた。


 そして幸か不幸か落ちてきた死霊はボクに対して背を向けるような恰好であったために、この一連の動きに気付かれることはなく、何事もなかったかのように立ち去って行ったのだった。


「うへえ……。助かったあ……」

「はあ……」

「ふう……」


 突然の不意打ちに大きく精神を削られ、へたり込みそうになりながら息を吐き出すボクたち。


 あ、危なかった……。やつらの五感が低下していなければアウトだったね。さらに言えば、もしも「んっきゃーーーー!?」と悲鳴を上げていても同じことになっていたはずだ。ゾンビ系ホラーパニック映画の途中退場者よろしく、バッドエンドどころかデッドエンド直行便となっていただろう。


 割と間一髪でギリギリの展開だったのではないかしらん。いくら敵の本拠地とはいえ、このトラップはえげつなさ過ぎやしませんかねえ?


 それにしても、まさか上からくるとは思わなかった。これは後から分かったことなのだけれど、死霊化したことで『天空都市』の住人たちは五感と同じかそれ以上にお(つむ)の中身が退化してしまっているらしく、基本的には真っ直ぐ進むことしかできなくなっていた。

 さすがに壁に向かって延々その場で足踏みしているようなものはいなかったけれど、壁面をゴリゴリとこするようにして動く個体はいくつも目にすることになった。


 ここからが本題。前に進むことが最優先されるアルゴリズムに突き動かされるように、死霊たちは障害物を乗り越えることもあった。つまり、半壊した建物をよじ登ることもできたりしてしまったのだ。

 ボクたちが隠れていた場所は奥の方が崩れて階段状になっていた反面、残った屋根でしっかりと上部が覆われていたため、運悪く外に出た瞬間に落下してきた死霊と鉢合わせしてしまったのだった。


 百五十センチほどの高さが、よじ登るか迂回するかのボーダーになっているみたいです。

 ちなみに体重はゼロという扱いなのか、死霊が乗ったことで建物が倒壊したり、元建物が崩壊したりするようなことはないみたい。死霊が徘徊することで物理的に廃墟になった都市だなんて、笑い話にもならないからねえ。


 と、仕掛けさえ分かれば何というものでもなかったのだが、いかんせんいきなりのことだったので焦ってしまいプチパニックを引き起こしそうになってしまったのだった。

 その後、何度か移動を繰り返して比較的頑丈そうな建物跡に身を隠し、ようやく一息を突くことができた。


「これからは上にも気を配らないといけないね」


 通路を移動中は、建物から離れた位置で情報にも注意することで不意を突かれるようなことはなくなると思う。が、問題は先ほどのような建物への出入りの際と潜んでいる時だね。

 屋根に穴が開いていたら、最悪の場合隠れているすぐそばにボトッと死霊が落ちてくるかもしれないのだ。


「言うのは簡単ですが、気配もなく足音すらしないとなると屋根の上のことなど探りようがないのではありませんか?」


 ネイトが五問を投げかけてくる。あ、ミルファには入り口で見張りをしてもらっています。

 体重ゼロの設定からも分かるように足はあってなきようなもので、まさに飾りみたいなものなのだ。なお、当時の偉い人も死霊化しているもよう。


「うーん、思いつく対策方法としては二つかなあ。一つは隠れる先を壊れていない建物に限定すること。これなら突然落ちてくることもないし、そもそも屋根に上がれないだろうからね」


 一見するとこれ以上ないくらいにベストな方法のように思えるかもしれないが、これにも欠点というか問題はある。それが何かというと、きちんと形が残っている建物が少ないということだ。

 そうなると一回に移動する距離も増えてしまい、死霊と出くわしたり気付かれたりする危険性が高くなってしまう。


「あとは中が見えないのもマイナスかな」


 隠れようと入った途端、死霊の一団とご対面!という展開がないとは言い切れない。まあ、入る前に中を覗くなりしてしっかりと確認をすればいいだけのことではあるのだけれど。


「向かう先にそうした建物があれば優先的に利用できるように動く、くらいに考えておく方が良さそうですね」

「そうだね。で、二つ目の対策だけど、これはもう頻繁に上を見て用心するしかないかな」

「普通と言っては申し訳ないですが、当たり前のことですよね」


 冒険者としての探索の基本といってもいいだろう。だけど基本に忠実に行動することで、意外と何とかなったりするものなのだ。基礎基本が大切なのは、なにも勉強やスポーツに限ったことではないのです。


「なるほど。一理ありますか。それでは今後の方針としては警戒注視する方向に上を加え、しっかりと形が残った建物を優先して隠れる、ということですね」


 確認の言葉にコクリを頷く。現状すぐにできることとなるとこのくらいなものだろう。


「どう、ミルファ?おかしな動きはなさそう?」

「動きも何も、ここから見える範囲に死霊はおりませんわよ」


 連中が彷徨(さまよ)っているルートから外れたのかな?それならそれで好都合だ。ボクたちが目指している場所はまだまだ遠いため、楽に移動できる箇所があるならそれに越したことはない。

 巨大な都市が一個分だからねえ。端から中枢の向かうだけでも一苦労だわ。


「次の移動先はあの隅のところとかどうかな?」


 屋根どころか壁のほとんども崩れていたが、しゃがみこめばちょうど上手い具合に隠れられそう。


「その手前にしっかりとした建物がありますよ?」

「あそこはほら、金属製なのか扉も残っているでしょ。覗けそうな高さの窓もないし、中の様子を確認するのが難しそうかなと思って」


 重厚なたたずまいのそれは、崩壊がすすむ街の中で一種の異様な圧迫感を醸し出していた。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「どう、ミルファ?おかしな動きはなさそう?」 >「動きも何も、ここから見える範囲に死霊はおりませんわよ」  霊まみれな場所で周囲に霊が居ないって、それ絶対に何か有るヤツぅ!  重要なナニ…
[一言] 上から来るぞ。気をつけろぉ(棒
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