表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十三章 設定公開中
890/933

890 ベリーべりーハード

 いやはや、新情報や歴史の裏話が目白押しなスラットさんとの会話だったけれど、ここにきて死霊化の秘術と『天空都市』の浮遊機能が連動しているという、特大に有用でなおかつ厄介な情報が飛び出してきた。


 いや、知らないうちに墜落全滅ルートを爆走していた可能性もあったと考えれば、厄介だけれど有用といった方が正しいかしらん。とんでもないデストラップを仕込んでくれているものだよ……。


「あらかじめ脱出方法を選定しておかないと危険だわね。時間制限があるとなれば、道順も頭に叩き込んでおく必要があるか……」


 ゲームシステムのオートマッピングとそれを反映したミニマップがあれば何とかなるとは思うのだけれど、反対に言えばそれらがもしも働いてくれなければ呆気なく詰んでしまうということでもある。これまでにもイベントの演出等で停止していた時もあるし、当てにし過ぎるのは危険だ。


「こうなると『天空都市』内部の地図が欲しいところだなあ……」

「ですが、建物が倒壊するなどして道がふさがれているというケースも考えられますわよ。仮に地図を手に入れられたとしても、それに頼りきっていては思わぬ所で足をすくわれかねませんわ」


 ミルファの言い分も一理ある。あそこの住人たちは自我をなくして久しい死霊たちだ。傷んだ建物や道の補修に植物の手入れなどができているとは考え辛い。荒れ放題で建物の基礎部分だけが残った遺跡のような状態になっている箇所があったとしても不思議ではない。


 加えて、ワイバーンのような強くて空飛ぶ魔物がいつの間にか住み着いていて……、なんてこともないとは言い切れないのだよね。


 クンビーラ近郊の地下遺跡で発見したミルファのご先祖様こと数代前の公主様が残した石板には死霊のことしか書かれていなかったけれど、そもそも彼らは『天空都市』をほとんど探索できていなかった。

 さらに今から少なくとも百年は昔のことだから、その間にも状況や環境が変化した可能性だってある。


「すまない。無理を言うつもりはなかったんだ。危険なら拒否してくれても構わない」


 悩む僕たちに気を遣ったのか、スラットさんが申し訳なさそうに言う。対してボクたちは、首を横に振ることで彼への答えとした。


「危険なのは間違いないだろうけど、死霊たちを消すことができるのだからやるだけの価値があることだよ」


 そもそもボクたちが死霊たちに面と向かって事を構えようとはせず、『転移装置』を破壊して孤立化させるという消極的な対策を行っていたのは、戦ったところで勝ち目がないと判断していたからだ。

 旅立つ前に比べれば大きくレベルが上がって、ステータスも技能の熟練度も増したとはいえ、この考えは(くつがえ)ってはいない。


「あ、スラットさんなら分かるかな?正面から死霊たちと戦うとして、ボクたちが勝てる見込みはあると思う?」

「また、唐突な問いかけだね。……君たち三人でということなら、良くて数十体というところかな。これ以上ないというくらいそれぞれの動きが嚙み合ったとしても、三桁には届かないと思う」

「おおう!思った以上に多かった。……ちなみに、死霊の総数は何体ほどでございましょうか?」

「長い年月の間に擦り切れて消えていった者たちもいるだろうから……。まあ、少なく見積もって千、かな。最大ならその十倍以上にはなるだろう」


 うわお!この圧倒的な物量差よ!

 なお、千人というのは国家の要職に就いていた人たちプラス兵士といった戦闘系の人たちの総数なのだとか。


 ここで少し本題から外れるね。

 前にも書いたけれど、『天空都市』の住人になるということは国家の権力の中枢にまで上り詰めたことと同義だった。要するに権力大好きっ子たちの集まりなのだ。

 とはいえ、そんな人たちばかりではなく、その家族もいれば従者もいる訳で、中にはそうした方面に興味を持たない人や関心が薄かった人たちもいただろう。


 『天空都市』に居た以上は全員が秘術の対象となり、挙句自我を失って死霊となってしまった。やつらは最も強かったのだろうアンクゥワー大陸の支配をという妄執に取りつかれてしまったのだが、さて、生前にその執念が弱かった人たちはどうなってしまうのか?

 その答えがさっきのスラットさんの言葉の中にあった、「長い年月の間に擦り切れて消えていった者たちもいる」だ。


 これからそこに乗り込んで秘術を解いて墜落する前に逃げだすという超高難易度ミッションに挑もうとするボクたちにとっては、この数が少しでも多い方がありがたいというのが本当のところだ。

 ただ、世界設定的にはあまり好ましくはないらしい。 ニポンのメーカーが作りニポン在住者をメインターゲットにしているためか、『OAW』の世界ではいわゆる輪廻転生が採用されているのだ。


「肉体から離れてしまった死霊という存在は、いわば魂がむき出しになっているようなものです。そしてそれが擦り切れて消えるということは、すなわち魂が消滅していることを意味します」


 ネイトの言葉はいつになくひっ迫していた。


「一度消えてしまった魂は二度と生まれ変わることはありません。つまり、この世界から生命の数が減ってしまっている、ということなのです」


 世界がなければ生命は生きてはいけないが、反対に生命がなければ世界が存在することもできないのだ。何やら哲学的だけれど、とりあえずそういうものだと思っておけば問題ないです。

 結論、死霊が消えていくのを放置するのは世界的にもよろしくない。


「ということらしいので、秘術を止めるのは既定路線になるね」


 ベリーハードモード決定ですね。


「わたくしたちが無事に逃げ延びることも大切ですけれど、天空都市の落下先のことも考えておかないと大変なことになりますわよ」

「『大陸統一国家』時代の技術が流出するようなことになるのも問題ですが、街に落下するようなことがあれば未曽有うの大災害になってしまいます」


 ……ベリーべりーハードモードだったようです。おにょれ、責任者出てこい。


「誰もいない上に簡単には手出しができないような場所かあ……」


 そんな都合のいい所が本当にあるのだろうか?強いて挙げるならボクたちが今いる『神々の塔』周辺ということになるかしら。


 だけど、大都市一個分だから落下しているところは絶対に目撃されてしまうだろうし、そうなれば各国が国を挙げて調査に乗り出してくるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ