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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十三章 設定公開中
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889 秘術と『天空都市』

「王宮では随分と前から反乱勢力に対して徹底的な弾圧を行うべきだとする主張一辺倒になっていてね。そんな中で対話と和平を訴えていた僕は『日和見の第二王子』と呼ばれるようになっていたよ」

「……よく生きてこられましたね」


 危険分子としてサクッと殺されてしまうのが定番のやつではないですか!?


「担ごうとする者どころか同調する者すらいなかったからね。殺すまでもないと思われていたのだろうさ。反乱が激化していく中で王となった兄に、婚約者がいなかったことも影響していたんだろう。何せ身分の釣り合う相手はことごとく敵対していたから」


 地水火風の四卿のうち、三卿が反乱勢力側についていたんだものねえ。唯一残っていた風卿とは後ろ盾以前に血縁関係だったようだし、もしも万が一に備えて血を繋いでいくためのスペアとして排除できなかった、というところかな。


 意見を封殺されてずっと飼い殺しにされていたなら、無意識に終幕を望むようになっても仕方がないか。

 そして、あの二人の存在はスラットさんを現実につなぎ留めておくためのかすがいだったのかもしれない。だからこそ彼らが罠に捕らわれているのを放置したまま、死ぬような真似はできなかったのだろう。件の秘術を受けたのも、それが理由な気がする。


 ……ああ、そうか。この人はもう、ここにあるだけで生きてはいないのだ。二人が解放された時点で、彼が生きていく意味はなくなってしまったのだから。


「終わりを望んでいるのは理解したよ。そのためにはどうしたらいい?」

「僕の望みをかなえようと?そんなことをしても君たちに何の得もないだろう?」

「あのね、誰からもかしずかれるのが当然な王族とは違って、平民のボクたちは「人から親切にされたらお礼をしましょう」って教わって育つの。スラットさんは何も知らないボクたちに当時のことや色々なことを教えてくれた。それに対するお礼がしたいだけよ」


 スラットさんと会っていなければ、良くて『天空都市』で死霊の大群と鬼ごっこ、悪ければ『神々の塔』の秘密が分からず右往左往することになっていただろう。まかり間違って内部に侵入して「その後、彼女たちを見た者は誰もいない……」的な行方不明バッドエンドに直行していたかもしれない。

 まだまだ不十分ではあるけれど、ゴールへのかすかな筋道が見えてきたのは彼のおかげだと言っても過言ではないのだ。


「さすがにこの世界に未曽有の危機が生じるようなのは拒否させてもらうけどね」


 何よりも今の世界の平和が大事なのだ。優先順位を間違えてはいけない。とはいえ、これまでの流れ的に相反することなく両立できる気はしているのだけれどね。


「いやいや。そんな無茶を言うつもりはないよ。というか君の中で僕はどんなイメージになっているのかな!?」


 大袈裟に肩をすくめながら苦笑するスラットさん。少しは調子が戻ってきたかな。ちなみに、今の彼の印象は拗らせたひねくれ者かしらね。 


「話を戻すと、僕の望みは終焉だ。そしてそのためには秘術を解除しなくちゃいけない」


 秘術というと『天空都市』の連中が死霊化したりスラットさんが不老不死になっている原因のやつだよね。発動した時点で役目を終えたと思っていたのだけれど、持続タイプだったのか。

 仕様の方はともかく、それがなくなるということは死霊が居なくなるということでもあるよね。


 つまり誰に(はばか)ることなく空き家漁りが、ゴフンゲフン!ではなく『天空都市』の観光、でもなく現在のボクたちにとって危険な代物がないかをじっくり探索することが可能になるということだ。おおう!これは願ったりかなったりの展開ですよ!


「残念だけど、そう上手くはいかないんだ」

「あれ?そうなの?」

「あの秘術のポイントは二つ。一つは言わずと知れた肉体を捨てて精神体となるというもの。これが不完全だったために自我を失い死霊化してしまったのだろう。ここで重要なのはもう一つの方だ。精神体、肉体共に朽ちることがないように永続化させているのさ」

「ほうほう。秘術をストップさせれば永続化も断ち切られるから、死霊をやっつけられるという寸法だね」


 シンプルな設定だから目標も分かり易くていいね。……でも、肉体の方まで永続化させた理由はなぜなのだろう?


「入手困難になっていた燃料の代わりに自分たちの肉体を『天空都市』の動力源にしたという話は覚えているかな?」


 もちろん覚えている。緋晶玉の産地の迷宮や加工所を反乱勢力に押さえられてしまったのだよね。

 ……まさか!?


「今でも彼らの肉体を燃料にして浮かんでいるの!?」

「人が持つ自然から魔力を吸収する力を利用しているそうだよ」


 ゲーム的に言うなら、MPの自然回復力とか自動回復力というやつだ。人を電池か何かのように扱うなんて、もしも世に知られてしまえばどんな災禍が起きるか分かったものじゃないよ。

 犯罪者の刑罰として利用されるならまだマシな方で、暴利な借金のかたに奴隷化して人身売買が盛んになったり、権威主義で階級主義な貴族が税金代わりに民衆を徴収したりと悪事が横行する未来しか見えない、絶対に知られてはいけない技術だわ。


「悪用される危険があることも知ってほしかったことではあるけど、本題はここからさ。秘術を解けば燃料になっている肉体の永続化も消える」

「……『天空都市』が落ちる?ど、どれくらいで!?」

「分からない。秘術を組み上げた者たちは解かれた時のことなど考えてもいなかったからね。その瞬間に精神体ともどもすべてが消えうせてしまうのか、それともしばらくの間肉体だけは残り続けるのか、見当もつかないよ」


 最悪の場合、死霊をやっつけた直後に墜落することもあり得る訳か……。

 だけど、確か『OAW』のイベントは死に戻り前提でクリアできるようにはしていなかったはずだ。つまり攻略法は絶対にあるはず。とはいえ、これってプレイヤーだけの話なのだよね。

 あの二人が死ぬことによって閉鎖空間の罠を解除できたように、NPCが犠牲になるというケースは存在しているのだ。


 避難ルートや脱出方法なども加味しながら慎重に作戦を練っておかないと、ミルファやネイト、もしかしたらうちの子たちが永久退場することになりかねないぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] >ここで重要なのはもう一つの方だ。精神体、肉体共に朽ちることがないように永続化させているのさ  ここの肉体面を建築物などにも当てはめて、それを自動修復機能って言い換えている。  そう見ちゃ…
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