858 リュカリュカの技能
アイテムを探しに行ったら旅の仲間が増えました。つくづく何を言っているのか以下略な展開ですが、以外にも仲間たちは驚いた様子を見せなかった。
以下、琥珀プラント君を連れ帰った時の反応ね。
「あら、また可愛らしい子を連れてきましたわね」
「ふふふ。これでまた『ファーム』の中が賑やかになりますね」
もう少し困ってみるとか驚いてみるとかしてもいいと思うのはボクだけ?うちの子たちも歓迎ムード一色だったからねえ。一番リアクションが大きかったのが同族?になる宝石の子どもたちだったとかどういうことよ。座敷童ちゃんのバンザイポーズには癒されました。
意外だったのは翡翠ひよこだね。いつも飄々、というかのんべんだらりとしているのに、喜びの感情丸出しでボクたちの頭上を飛び回っていた。まあ、運動不足でまん丸ちゃんになりつつあったから、ちょうど良かったのかもしれないね。
そんなこんなで和やかムードになったいたボクたち一行だけれど、状況はあまり改善されているとは言えなかった。
「明日の出発までに体調の方は何とか回復できそうだね。だけど、薬の材料が全滅だったのはキッツいなあ……」
古き良きゲームを踏襲しているという訳ではないが、『OAW』では宿泊を伴う休憩をするとHPにMP、状態異常のほとんどが回復するようになっていた。もっとも、空腹度の上昇で発生する飢餓状態といった例外もあれば、テント等の設備がない状態だと回復量が割り引かれたりしてしまうのだけれど。
「代わりに取れるのが香辛料の類なのが救いですわね。おかげで食事が美味しいですわ」
そうだね。最悪は生活魔法の【湧水】で作り出した水にカレー粉の実を入れてカレースープを作れば、とりあえず空腹度の心配をする必要はなさそうだわ。……みんなカレー好き過ぎじゃない?
「すぐに破損の心配をするほどではありませんが、装備品の耐久度にもそろそろ気を遣わなくてはいけませんよ」
森に入って早数日、相次ぐ魔物たちとの戦いで地味に耐久度が減らされていたところに、あの番のレッサーヒュドラ戦があったからね。危険域にまで落ち込んではいないけれど、普段以上に丁寧な扱いを心がけなくてはいけないだろう。
「用心が必要なのは魔除けのお香の効果が切れてから、つまりは出発してから朝日が出るまでの数時間ですね。視界が悪いこともさることながら、夜間ですから強い魔物と出会いやすくなっているでしょうから」
やっぱり問題はそこだよね……。ここは〈警戒〉に〈気配遮断〉、ついでに〈軽業〉の技能を持っているボクが先行偵察に出る展開も考えておくべきかも。
……こうして改めて見てみると、ボクの技能構成は結構<シーカー>や<シーフ>向きなのかな?ゲーム開始当初はNPCとパーティーを組むことなんて想像もしていなかったから、単独行動ができるようにとアウラロウラさんに相談に乗ってもらったのよね、
まあ、今ではうちの子たちと別れるつもりはないので、テイマー以外の職に就く気はないけれどさ。
「リュカリュカが先行偵察ですの?」
「……技能的には向いていますね。物怖じしませんし、そういう意味では性格的にも向いているでしょうか」
試しに相談してみると、ネイトからは意外と好感触な雰囲気が。
ミルファはまだちょっとよく分かっていない感じかな。ボクたちとパーティーを組んで行動しているのでそれほど表立ってはいないけれど、クンビーラ領主の血筋のお嬢様な上に剣の腕を鍛えていたのは騎士団でだからなのか、戦いは基本的に正々堂々と行うものと考えている節があるのだ。
「残る側にネイトが居れば〈警戒〉で周囲の様子を探れるし、不意打ちされる心配は少ないと思うんだ」
「提案の意味は分かりましたわ。回復薬等の補充ができない今、魔物と遭遇しないことが一番であるということも。けれどこのやり方ではネイトと何よりもリュカリュカ、あなたの負担が大きすぎるのではなくて?」
まあ、軽くはないよね。ボクの行動いかんでは魔物を呼び寄せる危険性もあるから、負担だけでなく責任も重く圧し掛かってくると言っていい。
「これまでにやったことがないことだから、ミルファの心配は分かるよ。でも今はできることは全部しなくちゃいけない時なんだ」
天才肌の従姉妹様こと里っちゃんではあるまいし、リアルでならぶっつけ本番なんて怖くてできなかったと思う。そもそも、仲間の命運を左右するような立場になっていないだろうね。このあたりは中学の時に里っちゃんたち生徒会のお手伝いと称して好き勝手やっていた弊害かもしれない。
……そうか。だからリュカリュカでいる時くらいはリーダーとしてみんなの前を歩いていこうとしていたのか。
そういうことなら話は早い。不安そうな二人、特にミルファに向かってニヤリと不敵に笑って見せる。
「大丈夫だって。こう見えてかくれんぼは得意なんだ」
「かくれんぼ……。魔物から発見されないという意味ではその通りですけれど。……はあ。仕方がありませんわね。決して無理はしないこと。これが条件ですわ」
「もちろんそのつもり。無謀なことは絶対にしないから安心して」
念押ししてくるミルファにしっかりと頷いてあげる。……少しばかり無茶はするかもしれないけれどねー。
「それじゃあ明日に備えて休む、前にごはんにしようか。みんな何食べ――」
「カレーですわ!」
「カレーがいいです」
いや、そんな食い気味に答えなくても……。ちなみにうちの子たちも二人に賛同するように激しく首を縦に振っていました。やっぱりみんなカレー好き過ぎじゃない?
そして今日の夕飯も大鍋一杯のカレーになりました。そろそろ身体からカレー臭がしてきそう……。
ちなみに新たに同行者に加わった琥珀プラント君も。目を見開いてがっつり食べていた。もしかしてカレー中毒者がまた一人増えてしまったのでは……。
そして翌日の夜が明けきらない中、ボクたちはついに出発の時を迎えていた。生い茂る木々の隙間から月明りが差し込んではいたが、辛うじて足元が見えるだけの視界の悪さだ。
【光源】で明かりと作りたいところだけれど、それをやってしまうと一発で魔物に居場所がバレてしまう。すさまじく動きづらいけれど我慢がまんです。
「それじゃあ、先行偵察に行ってくるよ」