表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十一章 香辛料の森、その向こう
852/933

852 森越え前の大勝負

 買い込んでいた野菜を煮込んでいる大鍋に、途中で採取したカレー粉の実を入れる。今日も今日とて夕食はカレーです。なんなら朝食もカレーです。そんな毎日が続いています。

 森の中からこんにちは、現場のリュカリュカちゃんです。


「あのさあ、今日で五日続けてのカレーなんだけど……。みんな飽きないの?」


 黙々とそしてモグモグと食事を口へと運んでいるみんなに尋ねると、ぶんぶんぶんとすごい勢いで首を横に振られてしまった。あら、そう。飽きてないのね。それならいいのだけれど。

 まあ、これまでにない味わいだものね。はまってしまうのも分からないではないかな。

 でもね、首を振る直前に「なに言ってるの、こいつ?」みたいな目で見るのは止めて。


 ところでさ、しれっとうちの子たちに混じって見知らぬわんこがいるのですが何者なのでせうか?当然のようにごはんも食べております。


リュカリュカ(テイマー)が知らないことをわたくしたちが知っているはずがありませんの」


 いや、確かにテイマーはそっち方面の専門家だけれどね。そのことを加味してもカレーに夢中で返事がおざなりになっているように聞こえたのですが!?適当なことを言っていると、お代わりあげないわよ。


「〈警戒〉に反応もありませんし、特段敵意もないようですね」


 そこも不思議なところだよね。そもそもの話、魔除けのお香を使用しているから魔物は近寄れないはずなのだ。それはさておきネイトさんや、(スプーン)の往復速度は変わらないまま、よどみなくお話しできるとかどういう能力ですか?


 謎のワンコの正体は〈鑑定〉ですぐに判明することになった。何と『ファーム』の中にある迷宮に生み出された魔物の一体であり、ダンジョンコアであるアコが感覚を共有して外に出してきたらしい。


「アコも一緒に食事がしたかったのですね」

「え?そういうことなの!?」


 うちの子、食欲が旺盛(おうせい)過ぎなのでは?

 後で聞いてみたところ、そういう部分もなくはなかったのだけれど、それ以上にみんなと一緒の時間を過ごして、同じものを食べるということがしたかったのだそうです。

 ちなみに、カレーだったのは偶然とのこと。本当?ほんとにホント?


 そしてそれを聞いたミルファが、「気が付いてあげられなくてごめんなさいですわー!」と大泣きしていた。微妙にそれ、テイマーでご主人様なボクのセリフのような気もするのだけれど、それだけ仲が良い証拠だと思うことにしましょうか。


 こんな調子でカレーの日々は続いていく。……ではなくて。時に苦戦することがありながらも、順調に森を進んでいた。

 さて、『OAW』ではいわゆるエリアボスが配置されているフィールドもあるにはあるのだが、基本的にそれらを撃破しなくても次のエリアへの移動は可能となっている。このあたりも他のゲームに比べて「ぬるい」と言われている所以(ゆえん)の一つらしいのだけれど、ボクのようなゲーム初心者にとっては悪くない仕様だと思っている。


 もっとも、ランダムイベントでブラックドラゴンに喧嘩を売られるだとか、先日鉢合わせをした長寿ウロコタイルのような強い個体と普通にエンカウントする可能性があるので、総合的に見れば「ぬるい」というのは的外れな気がしないでもないです。

 本当にプレイしてみての感想ですか?


 いきなりどうしてこんなことを言い出したのかというと、ついにこの湿地帯の森を抜けそうな所までたどり着いていたからだ。まあ、ミニマップの隅にそれらしい箇所が見えたという段階でしかなく、足元は未だに湿地帯だし、頭上の木々は元気よく枝葉を伸ばしていて木漏れ日どころか薄暗いままだ。

 とてもではないが、ゴールが近いようには感じられなかった。


 だけど、それがプラスに働くこともあるものなのね。予定の使用時間ではないけれど、何気なく〈警戒〉を使用してみたところ、魔物の接近を感知することができたのだから。


「右前方と左後方の水中から魔物が接近中だよ。数はどちらも一体かな」

「配置的に挟みうちにされそうですね……」

「間違いなくそれを狙ってのことでしょう。リュカリュカ、魔物の種別はできまして?」

「ダメ。ボクの〈鑑定〉の熟練度ではまだ遠すぎて判別できないよ」


 ここでボクたちが取れる選択肢は二つ。このままこの場で迎え撃つ準備を進めるか、それとも前進もしくは後退して戦闘開始のタイミングをずらすことだ。

 前者はしっかりと準備ができる反面、完全な挟みうちとなってしまう。後者は敵の合流を防ぐことができるけれど、移動にタスクを割り振らなくてはいけないからその分準備はおざなりとなってしまう。


 どちらもまさしく一長一短だ。さて、どうするべきか。悩んだ分だけ準備にあてる時間が減少していくのだ。のんびり考えてはいられない。

 こういう時は……、よし!たまには勘に頼ってみるのもアリかもね。


「全員前方方向にダッシュ!敵が判別できたところで攻撃もしくは戦闘準備スタートだよ」

「アバウトですわね!?」

「臨機応変と言ってちょうだい!」


 ミルファと軽口でやり取りしながら走り出す。魔物側にとって僕たちの子の行動は予想外だったようで、前後共に途端に動きがぎこちなくなっていた。このシンクロ具合から察するに、同一種の魔物である可能性が高そうだ。

 さらに一体ずつの登場からレッサーヒュドラかウロコタイルだと思われます。


 うへえ……。比較的大型の魔物を二体同時に相手にしないといけないとかきっついなあ……。そして走りながら目を凝らしていると水面に複数の影が浮かび上がってくる。


「魔物の種類判明!敵はレッサーヒュドラ!後ろからくるやつも同じ可能性が高いよ!」

「なんて気に違いはありませんけれど、攻撃が通用する分ウロコタイルよりはやり易いですわね」

「解毒薬で弱体化できるとリュカリュカが見つけ出したことも幸運でしたね」


 ミルファもネイトも前向きだなー。運営の良心だったのかそれとも単に足場の悪さとの兼ね合いだったのか、大型のレッサーヒュドラとウロコタイルはこれまで常に一回の戦闘で一体しか登場していなかったのですけど。

 まあ、リトルスネークやウォータースライムを引き連れていることはあったのでパーティーを分けて戦うのは手慣れたものではある。


「多分これが今日一番の大勝負になるだろうから、手加減抜きの全力で行くよ!〈共闘〉!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ