85 イベントクエスト発生
「冠の出自や由来は分かりました。だけど、それと宰相さんからの依頼とはどういう関係があるんですか?」
ここまでくればお墓の在り処を探すだとか、盗掘を行った一団の存在を探るだとかしかないと思われるだろうけど、それをこちらから口に出すのはよろしくない。
もしもあちらが全く違うことを考えていた場合、余計な情報を与えてしまうことになるからだ。
ただでさえ面倒そうな依頼になりそうなのに、これ以上厄介事を増やすのはごめんなのです!
「頼みたい内容はいくつかあるのだが、最も重要なことは件の公主の墓の様子について詳しく調べてもらいたいということだな」
前半部分に不穏な台詞があったけど、おおむね予想していた通りの内容と言えるかな。
「墓の存在が噂にでも登ってしまえば、再び良からぬことを考える者がやって来ないとも限らない。クンビーラと周辺の治安維持のためにもこれは絶対に必要なことだ」
「もしも埋葬品が残されていた場合はどうします?」
「可能であれば一旦持ち出して欲しい。報告と入れ違いで盗掘されるということもあり得ない話ではないからな」
世の中「そんなまさか!?」と思うようなことこそ起きてしまうものだ。
しかし、こんな形でトレジャーハントをすることになるとは思わなかったかな。
「それと盗掘された、つまり出入り口が作られてしまったことで魔物が住み着いている可能性もある。いくらおのれの我が儘の結果だとはしても、魔物の住処となっているのは子孫としては忍びない。この時も駆除できるようであればよろしく頼む」
うはあ……。魔物までいるかもしれないのかあ……。これは本格的なダンジョン探索のつもりでいないと痛い目に合ってしまいそうだ。
まあ、それ以前にお墓の在り処を見つけることが先決なのだけど。
それにしても、これだけならば別にボクに、広く言うならば冒険者に依頼しなくてもクンビーラとして動けば良さそうな気もする。
魔物が居着いていたとしても騎士団なら十分に対処可能だろうし、お墓探しだってお抱えの情報収集網を使えばそれほど苦労するようなことはないはずだ。
小国だからこそ精鋭の戦力を誇っていたり、諜報機関が優秀だったりするというのは物語などではお約束な展開だし。
「腑に落ちないことがあるようだな」
「ふえっ!?」
いきなり核心を突かれて、おかしな声が出てしまう。
どうやら内心の疑問が顔に出てしまっていたみたい。
「……そこまで分かっていて、そしてやるべきことが決まっているのにわざわざ冒険者へと依頼するというのは、それ相応な理由がありそうだなと思いまして」
そう言った瞬間、彼の目がギラリと光った。小国ばかりとはいえ付近の中核と位置付けられている国の宰相を務めているだけのことはあると思わせられるだけの眼力でしたよ。
どれだけ凄かったかというと、その圧力に思わずリーヴがボクを守ろうと動いてしまいそうになるところだったほどだ。
「……鋭いな。これは本気で引き込むことを考えるべきか?」
「閣下、公主殿下ですら諦められたのですから、無茶はなさりませぬよう」
「分かっている。冗談だ」
全くもって冗談に聞こえなかったんですが……。
誤魔化したことで反対に重要な情報をうやむやにされてしまう方が怖いと思えたので正直に答えたけど失敗だったかも。
どうにもNPCたちはボクを過大評価している面があるようで困る。
気持ちよくゲームをプレイできるように、実はプレイヤーを持ち上げる機能でも付いているのかもしれない、なんてしょうもないことを考えてしまいそうになるレベルだ。
「その疑問に関わってくるのが、先ほど言った『風卿の証』の件だ。話は変わるが、風卿の血を引くとされている者がどれだけいるか知っておるか?」
本当に一気に話が変わりましたね!
それはともかく、こういう質問のされ方をする場合というのは、基本的に予想外の答えとなることが多い。今回だと全くいないか、逆にとんでもなく多いかのどちらかではないかな。
そしてこれまでの会話からして、いないというのはあり得なさそうだから……。
「建前ではなく、各都市国家の支配者一族辺りは本当に該当していそうですね」
「その程度であれば良かったのだがな……。残念ながら外れだ。正解は各都市国家の貴族の大半だ」
はあ?それはいくら何でも多過ぎってものじゃありませんかね!?
「クンビーラでいえば、新興の三つの男爵家を除く全てだな。つまりこの一点だけで見れば、現公主も私も、そしてコムステア侯爵も等しく同じということになる」
あー、なんとなく理由が見えてきた。
「つまり風卿由来の品が出てきてしまった時に、それを根拠にクンビーラに反旗を翻すとか、この地域の正当な支配者だと言って覇権を唱えようとするかもしれない人がいるっていうことですか」
「そういうことだ。野心を持つことそれ自体は悪いことではないが、それは己の実力にあったものであるべきだ。「風卿の正当な血筋」などという他所から与えられたものに頼るようでは、じきに破綻してしまうことになる。単に自滅するだけなら放置しても良いのだが、そういう輩は大抵悪あがきをするものだ。そんな馬鹿らしいことで被害を受けてはたまったものではない」
まあ、分不相応な野望なんてものは自分と周囲を不幸にして破滅へと至る舞台装置みたいなものだからね。
取り扱いの難しい感情をこじらせて、燃え上がらせる燃料になりそうな危険物質があるならば、さっさと取り除いてしまっておきたいと考えるのも道理だ。
主君を謀殺しては悪政を行った結果敗北してしまった将軍だって、そもそも「王となる人」という予言を受けなければあんな大それたことをしなかったかもしれないのだ。
もっとも、それを言ってしまうとお話自体が成り立たないのだけど。
「さて、他に聞いておきたいことはあるかね?」
「まずは目的についての確認です。第一にお墓の在り処の確定、二番目が内部状況の確認、三番目と四番目が順不同で埋葬品の持ち出しと、巣食っている魔物の討伐ということでよろしいですか?」
「うむ。それで間違いない」
「それでは依頼内容としては第一の目的である「お墓のある場所の確定」にしてください。基本報酬もそれに見合うだけで結構です。残る三つについては成果次第ということでいかがですか?」
どんなに報酬が良くても無理や無謀が強いられるようなクエストに挑むつもりは毛頭ない。
死に戻りという無茶が効くボクとは違って、エッ君やリーヴの復活には時間もお金もかかってしまう。何より疑似的とはいえ二人が死んでしまうということにボクが耐えられそうもないからだ。
「良いだろう。報酬等の細かな内容はこの後で詰めるとして、大筋はそなたの言った通りとする」
《イベントクエスト『墓所探索』が発生しました》
宰相さんが頷いた瞬間、ボクの視界に新たなイベント発生を告げる一文が表示されたのだった。




