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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五十一章 香辛料の森、その向こう
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849 ハイエンドコンテンツ用もんすたー?

 装備の刷新もできたところで『大霊山』のふもとに向かうため、ボクたちはついに森を越えに挑戦することになった。

 そして懸念だった魔物が出没する地域での寝泊まりだけど、ありましたよ、便利なアイテムが。『異次元都市メイション』にあったのだが、プレイヤーメイドではなく運営の公式ショップで購入することができるようになっていた。


 その名も『魔除けのお香』。一回使いきりの単発アイテムで、使用するとゲーム内時間で丸半日の間――十二時間だね――その場から半径五十メートル以内には魔物が出現しなくなるというものだった。当たり前ですが使用中の移動はできません。


 既に戦闘中もしくは魔物に発見されている状態では使用不可なので、その点だけは注意が必要かな。

 実は販売当初にはこの特徴を利用して、周囲に魔物がいないかどうかを調べるという仕様の隙間をついた小技ができたらしいのだけれど、現在では修正されていて連続で三回使用不可になった時点で壊れるように設定されているそうだ。


 他にもプレイヤーにしか使用できなかったり、パーティーメンバーだけにしか効果がなかったり、使用中は効果範囲内ではNPCとの接触できなかったり等々の制約がいくつか存在しているもよう。便利過ぎるほどのアイテムだから、ゲームバランスが崩れないように配慮されているのだろうね。

 運営が販売元になっているのも、そうした点が関係しているのかもしれない。


 余談ですが、その性能の分だけお値段はお高くなってました。ぐぬぬ……。想定外の痛い出費で懐がさびしいよう。

 まあ、懐がさみし(おカネがな)くなってしまった理由は他にもあるのだけれど、それはまた追々お話しするということで。


「と、思ってたんだけどなあ!」


 森越え二日目、朝ご飯を食べてテントをはじめとした野営道具を撤収して、元気よく歩き始めてからたった三十分後のことだった。


「ここまでくるともはや笑うしかなくなってしまいますわね」

「問題は笑ったところで事態が好転しないことでしょうか。……どこかへ行くような気配はなし。というかこちらの存在に気が付いていますよね」

「真っすぐこっちを見ているものねえ」


 彼我の距離はおおよそで三十メートルといったところか。間に遮るものは何もない。


「いきなり襲い掛かってこないのは強者の余裕ってやつなのかしらん?」


 侮られているとか、なめられているとは思わない。何せ鉢合わせてしまったウロコタイルは尻尾の先までを含めれば十メートルを軽く超えようかという超大物だったからだ。

 口だけでも三メートル以上あるのでは。ボクたちパーティーで一番大きなトレアですら一口でパクリとやられてしまいそうだ。


 どうせ勘付かれているのだからと〈鑑定〉技能を使用してみたところ、魔物の名前欄には「長寿ウロコタイル」と表示されていた。なるほど。シャンディラの冒険者協会で話題に出た通りとってもカラフルな体表だわ。

 レベルや能力値などのパラメータ関連は全く見えなかったが、外見の特徴から察するに相当な高レベルであると推測されます。少なくとも三十レベルのボクたち以上、もしかすると五十レベルの大台を突破しているかもしれない。


 五十レベルが区切りとして扱われているのは、二回目の上位職業へのクラスチェンジができるようになるからです。余談だけど、里っちゃんが遊んでいる『笑顔』の方では現在トップクラスのプレイヤーたちがレベル九十にまで到達していて、百レベルで三回目のクラスチェンジができるようになるのではないか、と噂されているらしい。


 遥か彼方のことはさておきまして。とにかくボクたちの目の前に居る魔物はとんでもなく強敵だということです。もしかしなくても『水卿公国アキューエリオス』の遺跡で戦った怪しいフードのホムンクルスことキューズよりも強いと思う。


 ボスよりも強い一般魔物とか、完全なハイエンドコンテンツだよね。そんな物騒な相手と気軽にエンカウントできるようにしないでいただきたい。運営にクレーム入れてやろうかしら。

 ……プレイ初日の超初心者ですらランダムイベントでブラックドラゴンと遭遇するゲームなのだし、今さらのような気もしないではないけれど。


「……わたくしたちに対して、敵対する意思はありますの?」


 攻撃してこないため、かすかな望みをかけてミルファが尋ねてくる。しかしながら現実――ゲームの中だけど――というやつはいつも無常だ。


「残念ながらあるね。あいつが攻撃してこないのはいつでもボクたちをプチっと倒せると確信しているからだと思う」


 そして多分、その予想は当たっている。まともにやりあっては〈共闘〉技能でうちの子たちの全員を呼び出したとしても一分もかからずにボクたちは全滅してしまうことだろう。


「でも、まともにやりあわないなら、手はあるのよ」

「え?」

「本当ですか?」


 ミルファとネイトが驚くのも当然で、これは「こんなこともあろうかと!」と準備しておいたものではなく、メイションをぶらついていたときにたまたま偶然見かけたから保険くらいにはなるかな、程度の気持ちで買っておいたものだからね。


 はい。お気づきになりましたね。この手の鍵になる物こそが金欠になった本当の理由だ。

 効果は確かだとフレンドさんたちからも太鼓判をもらっていたのだけれど、いかんせん値引き一切なしの強気一辺倒だったために買ったはいいけれどみんなに報告できていなかったのだった。


「取り出したりまするは秘密兵器、『なんでも貫通弾!』」


 脳内で某未来からきたダメ人間製造ロボ、もといダメ人間矯正ロボットなキャラクターが秘密道具を取り出すときの音を鳴り響かせながら、一本の棒状の物を取り出す。


「矢、ですの?」

「見た目はね」


 実際は装備することができない道具のカテゴリーで、泣いても笑っても一回こっきりの単発使い捨ての攻撃用アイテムだ。名前に「弾」とついているのは製作者のプレイヤーさんが元々銃を開発しようとしていて、その名残なのだとか。

 使用方法は簡単で、倒したい相手に向かって投げるだけでオーケー。……なのだが、なにやら背後から視線を感じる。


「……えーと、トレア撃ってみる?」


 聞いてみるととってもいい笑顔で頷いてくれました。かわいい。


「魔法の道具みたいなものだから威力は気にしなくていいから。それじゃあカウントダウンいくよ。五・四・三・二・一、ゼロ!」


 弓の大きさに合わせて作られたものではなかったこともあって、べよんと間の抜けた音を残して放たれた「なんでも貫通弾」だったが、それも束の間のことでカッと輝いたかと思えば残像のように光の尾を残して、長寿ウロコタイルへと吸い込まれるように命中したのだった。


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