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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十九章 学園都市でのひと騒動
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823 突撃!おたくの研究室

 実力行使というか扉をけり込むという破壊行為を行うことで無理矢理ナンナ女史の研究室に押し入ったボクですが、実はこれで終わりにするつもりは毛頭なかった。正直なところ、彼女が泣いてごめんなさいをするまでは、止めるつもりも許すつもりもない。


「調味料の研究をしているあなたが、死霊になる方法を探す?笑えない冗談だね。笑えなさ過ぎてイライラしてくほどだよ」


 握りしめた左手で蝶番の残骸が残る入り口の壁を叩く。ドン!という重低音が響くとともにパラパラとほこりが舞い落ちるのだった。


「な、な、なにもの――」

「黙りなさい!」


 ナンナ女史が叫び出しそうになったところところで、かぶせるようにして怒鳴りつける。あぶないあぶない。あちらは研究者だ。特定の分野ついての高い知識を持っているのと同時に、言葉を用いて相手に打ち勝つ専門家でもあるのだ。

 まあ、中には討論を苦手としている人もいるのだろうが、彼女がそれに該当すると考えるべきではないと思う。ぶっちゃけ、それだとボクたちにとって都合が良過ぎるからね。


 ゲームバランス等のメタ的な方面の想定はこのくらいにしておきまして。怒鳴りつけて萎縮させられれば御の字といった思惑があったことも事実だけれど、相手の得意分野へと移行させないためにも、あのけん制は必要不可欠なものだった。

そう!ただブチ切れていたわけではないのです!


「死霊になりたい?よくもまあ、そんなことが言えたものだね」


 軽蔑する気持ちを込めまくったボクの視線にひるみながらも、なけなしの気持ちで心を奮い立たせようとしたのだろう。ナンナ女史はその瞳に怒りの感情をたたえていた。へえ。負けん気が強い人は嫌いじゃないよ。

 パーイラでいっぱしの研究者となっているくらいだ。これまでエリート街道を突き進んできただろうから、蔑まれるのは相当プライドが傷ついたのではないかしらね。加えて妙齢の女性が男嫌いだと公言

しながら、男性中心の研究者社会を渡ってきたという自負もあっただろう。


 しかし、それはそれこれはこれというやつです。ここで許してやるほどボクは甘くもなければ優しくもない。


「あなたがその研究をしているのは何のためなの?美味しいものをより美味しく、そうじゃないものも美味しく食べられるようにするためじゃないの?」


 ここであえて断定ではなく疑問という形であちらへと会話のボールを投げる。追及の手を緩めたように見せかけるためだ。

 多くの場面で言えることなのだけれど、よほどの力量差がなければ相手の土俵での勝負には勝つことはできない。今回のように向こうの方が格上ともなればなおさらだ。


 ……だけど、ここからが世の中の面倒なところでして。一つもいいところがなく、反撃の糸口さえも見えないまま圧倒的にやられてしまうと、逆に負けを認められない気持ちになってしまうことがあるのだ。

 万全な状態であれば勝てていた!とか、対等で同じ条件ならこちらの方が上だった!とか心の中で言い訳がましいことを考えてしまう訳です。ボクの経験上、と言っても当事者ではなく見物人としてだけれども、プライドが高い人や格下だと侮っていた人にそういう傾向が多かったかな。


 ちなみに、見たくて見ていたのではないからね。生徒会室に入り浸っていた中学生時代、生徒に先生にPTA役員といきなり押しかけてきては文句を言い始める人がぼちぼち居たのだよねえ。

 まあ、先生や役員さんの何割かは、わざとそういう役回りを演じていたらしいのだけれど。後になって里っちゃんから聞いてびっくりすることになったよ。


 はてさて、そうした経験からナンナ女史もまた「負けてないもん!」となってしまう素養がありそうに感じられた。そのためこの辺で一度あちらの言い分を聞く機会を作ったという訳。もちろん、調子づかせないために会話の主導権は渡しませんよ。


「……そうよ。民に回される食材は貴族や役人たちが食しているものに比べて、一段も二段も質が落ちることが少なくないの。調味料の研究が進むことでそれらも問題なく食することができるようになるはずだわ」


 ほうほう。そちらが先に出てきたあたり、彼女はただ研究ができればそれでいいとか、金になることが最優先だとは考えていないようだ。さらに美味しいものをより美味しくという点も否定しなかったところから、パトロンになり得る貴族やお金持ち向けのビジョンも持っているみたいだわね。

 つまり、それなりに真っ当なバランス感覚を持ち合わせていると思われるのだ。


 ……だけど、そこまで頭が回るのであれば先ほどのような失言もしなければいいのに。そう考えてしまうのは理想の押し付けというものかしら。それとも、そんな考えが浮かんできてしまうほど追い詰められているのだろうか。


「ふうん。素晴らしい考えだけど、食事に無頓着な人に言われても説得力なんてないよね」


 こちらの反論に、目を見開いて驚くナンナ女史。いや、本気で気づいてなかったんかい。討論に勝ちさえすれば誰もかれも言う通りに動いてくれるとでも思っていたのかしらん。

 だとすれば似通った生活態度や思考回路の持ち主、つまり同じ研究者とばかり接している弊害かもしれない。


 いずれにしてもここが攻め時だろう。一気に畳みかけてしまいましょうか。


「それと、死霊になれば確かに食事や睡眠の必要はなくなるけれど、すぐに生前の知識や記憶はほとんど失ってしまうよ」

「え?」


 こちらの世界のおとぎ話の一つに、その昔自身の死期を悟ったある高名な魔法使いが死霊となって永遠に魔法の知識を高めていった、というものがある。これに影響されたのか、死霊イコール不死の研究者とする説が広まってしまっていた。それこそナンナ女史のような本職の研究者ですら信じてしまうほどに。


 生きたまま自分自身の意思で死霊化するためには、複雑な条件と希少な媒介となるアイテム類をそろえる必要がある。そのため実例が少なく、死霊化した以降の経過も知られていないために、こうした迷信がまかり通っているのだろう。


 そして実際のところはというと、お空の上の死霊たちの通りだ。現代よりも高度な魔法技術を誇っていた『大陸統一国家』時代の連中でさえも、再び大陸全土を支配するという妄執に取りつかれてしまっているというのだから、その他の事例の結果もお察しというところだ。


 余談ですが、『笑顔』の方でこのおとぎ話の真相を知ることができるイベントがあるらしいのだけれど、プレイしてみた里っちゃんいわく「思ってた以上に暗くてグロくてえぐいお話だった」そうです。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「それと、死霊になれば確かに食事や睡眠の必要はなくなるけれど、すぐに生前の知識や記憶はほとんど失ってしまうよ」  あー、そっち(知識=財産系)で行くんだ。  自分なんかは 食=命をつ…
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