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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十八章 二度目のシャンディラにて
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812 行きたくない

 『迷宮都市シャンディラ』へと転移したボクたちは、あちらで待ち構えていたディラン(おじいちゃん)クシア高司祭(おばあちゃん)に捕獲されてあちこちのお店をはしごすることになった。

 もちろん、冒険者御用達の道具屋や武器防具屋ですが何か?


 いやはや、二人のネームバリューというものを思い知らされましたよ。行く先々でサインや握手をねだられるのは当たり前で、入った店のほとんどが値引きをするから名前を貸してもらえないかと言われる始末だったもの。全部丁重にお断りしていたけれどね。

 『土卿王国ジオグランド』に近い場所柄のためか、二人が現在進行中の『土卿王国』の改革に一枚かんでいると知られているのが痛かった。


「やれやれ。『迷宮都市』なんて一等地に店を構えているんだから、俺たちの名前なんぞ必要ないだろうに……」

「それだけ権威に弱くなっているってことかしらねえ。これも平和な時代が続いた代償ってやつかね」


 お高めの食堂に入って一息ついた途端、おじいちゃんたちが愚痴り始める。が、個人的にはもっと別な理由があるように感じられた。


「んー、多分だけど、どこも頭打ちになってるんじゃないかな」

「頭打ちだと?」

「リュカリュカ、そいつはどういう意味だい?」

「お店の商品を〔鑑定〕させてもらったんだけど、どこも同じような性能の品物しか置いてなかったんだよね」


 特に薬などの消耗品類を扱っている道具屋にその傾向が強く見られた。つまりウリになるものがないのだ。


「それは妙ですわね。似通った商品ラインナップとなることはあるでしょうが、これだけの店が乱立しているとなるとそれぞれに強みとなるものがなければ共倒れになりかねませんわよ」


 ミルファの意見に同意なのか、コクコクと頷くネイト。本人は学がないと卑屈になることがあるけれど、こういう話についていけるのだから彼女の頭の回転具合はかなりのものではないかな。ついでに言えばボクたちパーティーの中では随一の旅の経験がある。そうした経験則に裏打ちされた知識は侮れないと思う。


 そしてこれはおじいちゃんたちにも言えることだ。ボクとミルファの言葉ですぐに異常事態だと気が付いたのだった。


「同じような性能だと!?シャンディラの迷宮はいつの頃から攻略が始まったのかも分かっていないほどの歴史があって、その分攻略された階層も多い。当然もたらされる素材は多種多様なはずなんだが……」

「確か、最深の攻略階層はもうすぐ五十階に到達しそうだったはずだねえ。中には水辺どころか水の中なんて階層もあったそうだよ」


 うわー……。ボクたちはバーゴの中の遺跡に入り込むだけでも苦労したというのに、水の中の階層とか一体どうやって攻略したのだろうね。

 そしてそれだけ多様な環境であれば、いろいろな素材が取れても当然のような気がする。これはもう確実に面倒ごとが発生しておりますな!


「だけどボクたちがそれに首を突っ込むと思ったら大間違いだ!」


 すっと立ち上がって、ビシッ!とあらぬ方向を指さしながら叫ぶ。同じ席についている仲間たちだけでなく他のお客さんや店の人たちまで何事なのかと注目してくる。


「い、いきなり言い出しますの!?」

「いやあ、ここでしっかり宣言しておかないと、外堀から埋めるようにしてなし崩し的に巻き込まれちゃう気がして」


 複数イベント、しかも長期に渡しそうなものの同時進行だなんて、どう考えてもキャパシティオーバーする未来しか思い浮かばない。既に『天空の島に至る道』というワールドイベントを抱え込んでいる身としては、明らかに別物と思われるイベントは回避しておきたいのですよ。


「ふむ。言われてみりゃあ道理だな。俺たちも今は『土卿王国』の立て直しにかかわっている。他所の面倒ごとに口を出している暇はないな」

「そうだねえ。街の店にまで影響が出ているんだ。片手間に何とかなるような簡単な話じゃないだろうからねえ。なら、ここの冒険者協会に顔を出すのはやめといた方が良さそうだねえ」

「そうだね。別に用もない、か、ら……?」


 あれ?何か肝心なことを忘れているような?


「……リュカリュカ、すっかりド忘れしているようですが、わたしたちがシャンディラにやってきたのはデュラン様からの指名依頼を受けたから、という名目だったはずですが」

「あ……、そうでした」


 内容自体は「おじいちゃんたちの気分転換に付き合え」という、これアリなの?といったものだったが、正式に依頼されているからには完了を報告する義務が発生するのだ。


「報告をさぼっちゃうというのは――」

「指名依頼の数は優良冒険者の指標の一つとなっていますから、放置はできませんわよ」


 かぶせてくるようなミルファの言葉に思わず渋面になってしまう。

 加えて、指名依頼の中には大まかな条件だけ決められていて、冒険者協会――の職員たち――が依頼主に代わって達成できそうな冒険者たちを指名するといったケースも存在している。つまりその成否には協会の信用にもかかわってくるため、あえて報告しなかった場合には通常の依頼よりも大きなペナルティが課せられるのだとか。


「……冒険者協会に行ったら最後、絶対に面倒ごとを押し付けられると思うのは自意識過剰かな?」

「まあ、そうだな。普通ならレベルが三十にも満たない中堅冒険者ふぜいが何言ってやがる、と鼻で笑われるところだな」

「だけど、あんたたち『エッグヘルム』にはストレイキャッツを無害化する方法を発見した実績があるからねえ。あれはちょっと騒ぎになったから、名前で感づかれるかもしれないよ」


 ストレイキャッツはその名の通り神出鬼没のため、食欲を満たすことで本当に無害化できるのかを試すため、アンクゥワー大陸内外の冒険者協会支部に通達が行われたらしい。その際に発見者としてボクたちの名前も一緒に知らされたのだとか。

 名目的には発見者へのなりすましを防ぐためらしいのだが、これ、もしも失敗した時にはボクたちの責任にするためだったのでは?というのは邪推なのでせうかね?


「ディラン様たちには頼めないでしょうから、都合よく名が知られ始めたわたくしたちに縋り付いてくるやもしれませわね……」


 おじいちゃんたちが『土卿王国』の改革に参加しているのは周知の事実だ。その位置関係からシャンディラは『土卿王国』の影響を受けやすいため、邪魔もなるような真似はしないだろう。

 その分、ボクたちがターゲットにされる可能性は高そうだ。


 どうしよう。割と本気で行きたくないのですが!?


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