81 お友達認定
本年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。
ボクの心境をネタ的な言葉で表すならば、「ついカッとなってやった。今は反省している」ということになるだろうか。
なぜなら、今現在ボクの正面には、金髪縦巻ロールな美少女お嬢様がキラッキラした尊敬の眼差しでこちらを見つめてきていたからだ。
いや、ちょっと待って。
ボクがやったことなんて惚気に似た台詞にイラッときて、説教じみたことを言っただけだよ。
孵化した直後の刷り込みでママン認定した赤ちゃんカルガモや、ご主人様認定したチビわんこのような懐かれ方をする要素なんて一つもなかったはずなんですけれども!?
「あ、あのー……。冷静になってみると随分と失礼なことを言ってしまったと思うんですが……」
下手なことを口にすると、さらに懐かれてしまいそうというよく分からない危機感を感じながら辛うじてそう言うと、ミルファシアさんはブンブンと音がしそうなほど大きく首を横に振った。
「確かに見た目だけであれば、高位の者に対して無礼な物言いをしたということになるのかもしれませんわ。ですが!そのような危険を冒してまで諫言してくれたことにわたくしは感動しているのです!リュカリュカ様のような方こそ、私が常々思い描いていた理想の友ですわ!」
理想の友!?
常々思い描いていた!?
ま、ますいです。どうやらいつの間にか彼女の感激素敵スイッチをポチっとしていたもようです。
「お、お嬢!それはやばいです!」
「バルバロイ様の言う通りです!公式のものではなくともどこで誰が聞いていたかも分かりません!直ちに撤回を!」
何やら危険ワードが混じっていたようで、バルバロイさんと隊長さんが慌てて取り消すように迫っていた。
「なぜそのような真似をしなければいけないのですか!心より尊敬できる相手にお会いできたのですから、その思いを真摯に伝えてしかるべきのはずですわよ」
「気持ちは分からなくもないが、お嬢のような身分のある人間が彼女を様付けで呼ぶのは問題になるんだよ!」
ああ、そういうことね。『様』を付けた呼び方は尊敬を表すものだ。だからミルファシアさんのように公主様に連なる身分の人が、庶民であるボクに対して使うのは問題ありということになるみたい。
それにしてもバルバロイさん、焦っているのかすっかり言葉遣いが砕けてしまっていますね。
「ミルファシア様、ボクもここで面倒ごとになるのは困りますので……」
難癖をつけてくるような鬱陶しい連中が発生するかもしれないので、ここは遠回しに彼らを援護しておこうと思う。
「むう。リュカリュカ様、いえ、リュカリュカさんがそう言うのであれば……ゆ、友人に迷惑を掛けるわけにはまいりませんもの」
おうふ。お友達認定は解除してくれないのね。
何とかしてとバルバロイさんの方を見ると、ゆるゆると首を横に振られてしまった。その顔にはでっかくはっきりくっきりした文字で「諦めてくれ!」と書かれているように見えたのでした……。
結局その後は押し切られる形で、ミルファシアさんとバルバロイさんの二人も付いてくることになってしまった。
「リュカリュカさんと会う予定になっているのは、わたくしのお父様とロイのお父様ですから、私たちが一緒にいても何ら問題はありませんわ」
上機嫌でそんなことをのたまう彼女に、「そんな訳ないだろ!」と言いたいのを懸命に堪えるボクたち。
まあ、控室で侍女さんが入れてくれたお茶を飲む時、マナーを気にしなくて良くなった――それまでは彼女たちの真似をしていた――のは正直ありがたかったけどさ。
ああっ!エッ君、その高そうな調度品に触ろうとするのは止めて!?
あ、隊長さんはここまで案内するのが仕事だったため、既に別れています。街の中から城内への案内という比較的簡単な仕事だったはずなのに、随分と疲れた感じの後姿に悲哀を感じてしまいました。
ここで少しクンビーラの貴族の説明をしておくね。
まず『自由交易都市クンビーラ』の支配者のトップである公主。政治面からも経済面からも独立した国家と言えそうなんだけど、大陸中央部にある都市国家群は全て国という名を持たない。
どうも大陸統一国家だった頃に関係があるとのこと。詳しくはここでは省くけど、そうした事情があるためか、国家元首に当たるリーダーも王という呼び名をしてない。
そして公主はクンビーラ公爵一族から選ばれることになり、公主となったものが公爵家の当主にもなるそうだ。
ちなみに、ミドルネームの『レイン』は当主とその直系の血統であることを意味し、『ハーレイ』は傍系であることを意味しているとのこと。
さてさて、都市国家という言い方をしていても、実際は街一つだけを支配している訳じゃない。大抵は周辺の小規模な町や村を支配圏に置いているのだ。
クンビーラの場合、東に抜け隣接する『武闘都市ヴァジュラ』へと繋がる街道沿いにある少し離れた町と、比較的近い場所にある五つの村が支配圏となる。
そして、そうした町や村を実効支配しているのが侯爵や伯爵の位にある貴族たちだ。
中でもバルバロイさんの実家であるコムステア侯爵家はクンビーラに仕える貴族の筆頭で、先ほど出てきた東にある町やその手前にある村の領主でもある。
残る四つの村の内、北部にある二つを治めているのがオルト伯爵家で、西の村はナーブ伯爵家に、南の村はニウ伯爵家がそれぞれ任されている。
一方、領地を持たずクンビーラの運営に携わっているのが男爵位の貴族たちだ。簡単に言うと、お城勤めの官僚たちのことだね。
ボクが冒険者協会の依頼で知り合った貴族たちというのは全てこの男爵の位を持つ人たちとなる。
そういえば以前発見した冠とティアラ、あれは一体何だったんだろう?
余談だけど、子爵はそれぞれの部局の長になった者に与えられる名誉称号のようなもので、その役職に就いている期間のみ与えられる爵位となっているそうだ。
「ミルファシア様って現公主様の従姉妹に当たるんですか!?」
「ええ。お父様が先代公主様の年の離れた弟に当たるの」
なんとまあ、傍系といっても限りなく直系に近い立ち位置でした。
「で、将来的には筆頭家臣のコムステア侯爵家の嫡男であるバルバロイ様との婚約が確定している、と」
ボクの言葉に顔を見合わせた後、頬を赤らめる二人。
やってらんねー、と思ったボクはきっと悪くないはず。
そんな風にやさぐれているところに、担当の方――ミルファシアさんの言葉通りであるなら、彼女のお父さん――の会見の準備が整ったことを知らせる一報が届けられたのだった。
明日からの更新のおしらせ。
1月1日は、0時、6時、12時、18時の四回、
1月2~4日は、6時と18時の二回更新となります。
1月7日からは平常通り一日一回、18時の更新となる予定です。