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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十七章 バーゴ遺跡その内部へ
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794 最初の攻防、そして……

 ボクたちが避けた【ファイヤードリル】の魔法は、後ろにいるミルファたちへと突き進んでいた。


「リーヴ、頼みます!【マジックアップ】!」


 ネイトの魔法によって補強されたリーヴが一歩前に出て盾を構えると、鈍色(にびいろ)の波動を放ち始める。〔守護盾技〕の闘技【ハイブロック】だ。物理系の攻撃に対処する方が適正は高いものの、実は魔法攻撃もしっかり抑えることができるのよね。

 その上今回はネイトの強化魔法によって魔力が上がっているので、魔法に対する防御力はマシマシの状態となっていた。


 ファイヤードリル君もまさかそんな万全の態勢で待ち構えられているとは思ってもみなかったことだろう。接触した直後こそ徐々に押し込む様子を見せていたのだが、すぐに拮抗へと変化し、数秒の押し合いの後に押し出された盾に蹴散らされるように消え去ってしまったのだった。


 と、こう書くとこちらの完全勝利のようだけれど実際は違う。あの攻防でリーヴのHPは大きく削られており、ネイトが慌てて回復魔法をかけて何とか事なきを得ていたのだ。

 もしも武具の破損設定がシビアであれば、リーヴの盾は溶けて闘技は突破され、後衛陣は壊滅していたかもしれない。


 学園では他人をけしかけて裏でコソコソしているイメージだったけれど、その実力は本物だったということか。盤面を引っ繰り返せるほどの強さだから足を引っ張られて出し惜しみをさせられたのかも。

 あちらも一枚岩とは言い難い様子だったみたいだし、派閥内の争いでキューズには活躍してほしくない連中も多かっただろうからね。


 まあ、そんな事情はともかくとして。ボクたちだってやられてばかりではない。ミルファのライトボールで目をくらませた隙に、ボクとエッ君の突撃組はキューズを挟み込む位置にまで迫っていた。


「エッ君やっちゃえ!」

「させぬ!」


 ボクの指示に反応して、キューズが咄嗟(とっさ)に反対側へと体を向ける。まさかこちらの気配を読むことまでできてしまうなんて。上級冒険者とでも渡り合える力量かもしれない。

 しかし、この場に限ってはそれは悪手となる。だって、そんな隙だらけの状況をボクが黙って見ているはずがないでしょう。


「【スラッシュ】!」


 狙うは手に持つ杖、ではなくその二の腕だ。


「グアアア!?」


 龍爪剣斧の剣先で斬り付けられ、切断された腕が宙を舞う。『OAW』は基本的には四肢の欠損といった残酷な描写は行われないようになっているのだけれど、演出上必要な場合はその限りではなく、今のようにずんばらりんと腕が飛ぶこともあるのだ。

 一応、脳波を測定したりそれとなく残酷表現への耐性があるかを調べたりした上でのことらしく、これまでにパニックを起こした人などはいないとのことです。閑話休題。


「おのれ、貴様――」

「余所見するなんて余裕だね」


 エッ君への攻撃の指示は取り下げてはいない、つまりこちらのターンはまだ続いていたのだから。


「な?ゲッハアアアア!?」


 うわあ……。飛び蹴り風味の一撃で腰を中心にくの字に体が下り曲がっているわ。ただし、横から曲がってはいけない方向に向かってだけれど。腕を斬った時よりも悲鳴も大きかったような気もする。


 このまま一気に押し切ってしまいたいところだが、この手の策謀にも秀でた連中は隠し玉の一つか二つは常に持ち歩いているというのが定番で、深追いすると手痛い反撃を受けてしまったりするものなのだ。それに、はっきりとさせておきたいこともあるしね。


「下がるよ!」


 視界の隅でテッテケとエッ君が離脱していくのを確認しながら、ボクもまたみんながいる方へと向かいキューズから距離を取る。

 あ、その途中で腕と一緒に飛んだやつの杖を部屋の隅っこへと蹴飛ばしておきました。杖系の装備は魔力の増幅器(ブースター)を兼ねていることが多いからね。少しくらいはあちらの戦力を下げることになるはずだ。

 格上が相手の時には特に、こうした地道な努力の積み重ねが大事になってくるのですよ。

 さらに、


「〔鑑定〕」


 を行う。その対象に選んだのはキューズ本人ではなく斬り飛ばした腕だった。彼自身はレベルが高くても、そこから切り離された一部であればボクの拙い技能でも通るだろうと踏んだのだ。

 果たしてその予想通り、いくつかの重大な情報をもたらしてくれることとなった。


《キューズの腕。ホムンクルスのため切断された状態でも傷みにくく、切断面を押し付けて回復魔法を使用することで容易に修復もできる。完全に使用できなくするためには、修復できないくらいに細切れにするか叩き潰すしかない》


 ……えー、なにやら生々しい表現があったのはひとまず置いておくとして。


「なるほど。ホムンクルスだったのね。道理でそっくりなやつが何人もいる訳だ。バーゴの遺跡の基準に一部適応したということは、『大陸統一国家』が滅亡してからそれほど経たない頃に造られたのかしらね」


 時代的にはクンビーラ近郊の地下遺跡が作られた頃、名前に火水風土を冠した四つの有力貴族家がそのまま各エリアを支配していた時分だと思われる。

 辛うじて残されていた技術をかき集めて、何とか形にしたというところだろう。


「リュカリュカ、どういうことですの?あの男は人間種ではありませんの?」

「違うみたいだね。〔鑑定〕によるとあれはホムンクルス。造られた存在だよ。多分、これまでにボクたちが出会ってきたローブの連中も同じだと思う」


 むしろ、あそこまで似通った外見をしていたのだから、同じ施設で同時期に造られたと考える方が適当ではないかな。

 衰退して散逸していたとしても、今と比べれば十二分に高度な技術レベルを保持していたことはあの地下遺跡からもよく分かる。

 見ただけでは人間と区別がつかないものを作り出すくらいはできたのだろう。


「緋晶玉について詳しくて、さらにそれを集めようとしていたのも、『大陸統一国家』で使用されていたことを知っていたから、という訳ですか」

「うん。多分そういうことなんだろうねえ」


 製造時に情報をインプットされていたのか、それとも起動後に自分たちで学んだのか、という違いはあるかな。

 些細な問題だと思われるかもしれないが、意外と重要なことだ。自分たちで学んだとなれば、その施設はまだ生きている可能性がある。

 さすがに新しいホムンクルスを造ることはできないだろうが、知られては不味い情報が山盛り、という可能性は十分に考えられるので。


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