788 解釈つかまつる
入力間違いへのデメリットが書かれていなかったのをいいことに、さらには最悪の場合はやり直しできるという強みから、思いついた「1234」の番号を入れてみたところ……。
見事に外れだったよ!ちくせう!
誤入力をしてもペナルティ等がないと判明したことだけが救いかな。
ちなみに、並び替える前の「3214」も違っていた。
「なので根本的に違っているのか、それとももう一捻り以上が必要なのかのどちらかということになりそうだよ」
できれば一捻り半くらいに加減してくれているとありがたいのだが、『OAW』の運営だからなあ。ウルトラQ、もといウルトラC並みの高難易度になっている可能性も否定できないです……。
「あの文章から季節以外のことを読み解かなくてはいけないのですか……」
張りのないネイトの声に、一同揃ってうんざりした顔つきになってしまう。ようやく攻略の糸口が見つかったかな、と思えた矢先の外れだったからね。心も折れそうになるというものだ。
「なんかヒントになるようなものでもないのかよ?このままじゃ俺たち戦力外どころかただの足手まといだぜ」
「そうは言ってもなあ……。俺ら孤児院でもギリギリで読み書きを覚えられたくらいの頭しかないんだぞ。謎解きなんてハードルが高過ぎだぜ」
何やら自分たちを卑下するような会話だけれど、この世界においては本来であればビンスもベンも一般的には高学歴の部類に入っているからね。
大都市でも平民の識字率は低く、大店ですら幹部クラスでないと満足に読み書きできないというケースも決して少なくはない。港湾事業者たちによる社会福祉の一環で、孤児院の教育水準が高いバーゴの街が異様なのだ。
「だよなあ……。水龍様はなんか分かったことあります?」
「うむ!文章が四つだからな!答えも四つとなるだろう!」
自慢げな水龍さんの台詞に、生温かい表情を浮かべる二人。某高地住まいのサンドフォックス風の顔になっていないだけまだマシかしらね。
……しかし、四つというのは悪くない目の付け所かもしれないぞ。季節もそうだし、四つでワンセットになるものを考えてみますか。
そういえばゲームを始めとしたファンタジー界隈では、火水土風を四大元素として取り扱うことも多いよね。
あと、火属性キャラが主人公や仲間の中核メンバーに多いのは何故なのだろう?
熱血漢とか向こう見ずな性格にしやすくて、騒ぎに突撃させやすいからだったりして。
それはともかく『OAW』の場合、魔法は火水土風に加えて光闇雷の合計七属性となっている。だから全く当てはまらないかというと実はそうでもなく。
火・水・土・風の四つの属性はそれぞれ相克の関係があるためだ。
余談だけど光と闇の二つの属性はお互いが弱点同士となり、雷属性は弱点がない代わりに有利になる属性も持っていない。
長々と説明してきたが、要は答えに該当するかもしれないということだ。
「まずはそのまま『木枯らし』のある四番目が風だとして。三番目も『雪解け』なので水かな。ひたすら熱そうな二番目は火になりそうだから、残った一番目は土だね」
「説明されると不思議とそのような気になってくるものですわね」
解釈なんて割とそんなものだったりするのよね。
どんな感動の名演説でも悪意を持って臨めば悪魔のささやきに早変わりしてしまうことだってあるし、逆に好意的に取れば酒の席での四方山話ですら世界の真理になってしまうことだってあるのだから。
さて、ここからが問題だ。今度はこの火水風土を数字へと置き換えなくてはいけない。
これができなければ単なるこじつけとなってしまうので正念場ですよ。
しかしながら取っ掛かりやきっかけの一つもない状態で、というのは無理ゲーが過ぎるというものだと思う。
「まぢでヒントの一つくらいは配置しておいて欲しかったよ」
「もう一度部屋の中を探してみますか?」
ネイトの言葉にみんなが顔をしかめている。まあ、フロッピーディスクを発見した際に相当探し回ったからねえ。
もう一度、いや、今回は探す対象がはっきりしていないから、それ以上の苦労となるのは容易に想像がついてしまう。及び腰になってしまっても仕方がないというものだろう。
「本格的な探索は後回しにして、まずは目についた場所とか、ふと気になった所だけ見て回ろうか」
それくらいならばとぞろぞろ動き始める仲間たち。
密かにキュピーン!と直感という名のゲーム補正が仕事をしてくれるのを期待してみましょうかね?
ネイトとミルファはひときわ大きな残骸の山へと注目したのか、部屋の中央へと向かって行く。
対してビンスとベンのコンビはというと、水龍さんの指示に従って彼が興味を持った物を掘り出しているようだった。
少しばかり目的が違ってきているようにも見えるけれど、何が当たりに繋がるか分からないから、邪魔にならない限りは放置ということで。
うちの子たちはというと、警戒も兼ねているのかトレアはゆっくりとした足取りで部屋の外側を回っていた。ボクたちが通ってきた水中の隠し通路を伝って誰かがやってこないとも限らないし、やっぱり防衛用ゴーレムが隠してあって、突然動き始めるといったことがないとは言い切れないものね。
そんな彼女の背にはちゃっかりエッ君が乗っていたのだが、あの子のサイズでは調度品の残骸でもちょっとした山のようになってしまう。普段とは異なる高い位置から見回してみることも有効だろう。
まあ、若干飽きてきている感も否めないけれど。
その一方で謎解きや推理好きらしいリーヴは、熱心に壁に表示された文言を眺めていた。
この調子だと、そのうち行間に隠されている裏情報まで読み取れてしまいそう。ぜひとも頑張ってもらいたいと思う、他力本願なリュカリュカちゃんです。
「おや?」
リーヴから目を離そうとした瞬間、胸の内から強烈な違和感が沸き上がって来る。
なんだ?
今ボクは何に対して「おかしい」と感じた?
視界に映っているものを次々に検分していき、ついに違和感の正体を突き止めた。
それは電卓に似ていると称した数字を入力する装置だった。
「おうふ……。これだけあからさまなのを見逃してたとか、自分で思ってる以上にテンパってたのかも……」
一度気が付いてしまえばそれがおかしなことは一目瞭然だった。
なぜならそこには『0』がなく、1から9までの九つのボタンしか並んでいなかったのだから。