773 やっぱりうちの子は凄い
結果的にうちの子たちVSゴーストシップサルベージ社の社員たちによる対戦を行ったことで、ヴェンジ社長を含めて皆のボクたちを見る目が「素性のよく分からないお客さん」から「同等の実力を持った仲間」へと変化したように思う。
まあ、同等という部分には少しばかり疑問を呈したい気持ちになったりもしちゃったのだが。
なぜなら、事実はこんな感じだったのだから。
「ぐはっ!?ば、馬鹿な!?俺は格闘術でならこの街最強といわれる男だぞ!?それがこんな卵の怪しい蹴脚術なんぞに負けるはずが――ぐわっはあ!?」
「おおー!卵とはいえさすがドラゴン。うちでも中の上程度の腕っぷしのジョウジをあっさり撃退したぞ。というか格闘ではこの街最強とか、あいつ調子に乗ってるな」
「ただのケリ技じゃなくて尻尾を上手く使っているからな。普通の足技中心の格闘術だと思っていると痛い目に合うって訳だ。そうだな、後でちょっと絞めておくか」
「ドラゴンと組み手ができる機会なんて二度とないかもしれない!次は俺と戦ってくれ!」
このようにエッ君に挑んではいい感じにコテンパンにされる、という展開が繰り返されていたのだった。なんだかデジャヴを感じるというか懐かしいやり取りだったわ。
「強えな。大陸の各地を渡り歩いてきたんだから弱いはずはねえと思っていたが、ここまでの実力者だったとはなあ……」
感心するヴェンジ社長だったが、そんな彼はつい先ほどまでリーヴと互角の打ち合いをしていた。部下の社員たちが小柄な――小さいことを気にする難しいお年頃になってきたので、オブラートに包んだ表現となっております――エッ君との体格差に翻弄される中、この人だけはしっかりと自分のペースと間合いを保ち続けていた。
そうなると今度は小人種サイズのリーヴの方がリーチ等々で不利になってしまう。
結局その差を覆すことはできずに、この勝負はヴェンジ社長が僅差で勝利をもぎ取ることになったのだった。
「といってもここがホームで、うちのやつらが見てる前でぶさまな姿は見せられねえっていう意地があったからギリギリで勝てたようなもんだ。本当に対等な立場での勝負だったらそれこそどうなったか分からなねえ」
でも負けるとは言わないんですね。まあ、彼も一団の頭領だからそうやすやすと敗北すると口には出せないのだろう。
あと、男としての面子的にもね。
ちなみに、どうしてヴェンジ社長が出張る羽目になったのかというと、彼しかまともに剣というか武器を扱える人がいなかったからだ。
いくらやんちゃしていたとはいえ、その活動範囲はバーゴの街の中だ。
ギャングやヤの付く職業の人たちが勢力争いをしている訳でもないので、当然のように殺しはご法度となる。つまりは相手も含めて素手での喧嘩闘法がメインだった。
対して社長はというと、船乗りとして街の外に出ていた時期があった。あのスウィフ船長に目を掛けられていたことから予想できた流れだわね。
そして街の外での魔物との戦いは殺るか殺られるかの二つに一つで、武器や魔法を用いてのものとなる、という訳だ。
そんな接戦を繰り広げたとあって、リーヴも大人気となっていた。あの子の姿が伝説の勇者アリシア様の鎧のレプリカだということもそれに拍車をかけていたみたい。
何でもボクたちが到着するより数日前に、ある旅の一座が彼女のお話を上演していたのだそうだ。
「本当は別の演目の予定だったらしいんだけどな。北の方での騒ぎが収まりそうにもないんで、無難なアリシア様の話にしたらしいぜ」
急遽演目を変えたということは、今はすっかり肩身が狭くなってしまっている軍部かその関係者が活躍する話をやるつもりだったのかもしれない。
スコルピオスとサジタリウスの二伯爵の領地引きこもりが地味に影響しているのかしらね。
話をリーヴに戻そう。
「指導までしてもらって悪いな」
「いえいえ、あの子も喜んでいるみたいですので気にしないでください。なかなか披露する機会なんてありませんから」
大人気のリーヴの周りには、板切れを持った人たちが数名集まっていた。どうやら盾の扱い方を学んでいるらしい。自分たちは素手が得意だからといって、相手もそれに合わせてくれるとは限らない。
凶器を持った相手と鉢合わせてしまうことだってあるかもしれないということで、基礎的な防御術くらいは学んでおくべきではないか?という話は前々からあったのだそうだ。
そこへ正規?の盾の扱いを知るリーヴが現れたので、「せっかくだから教えてもらおうぜ!」というノリになったのだった。
「勇者様に教わっているような気分になれるしな!」
などと言うミーハーな人もいたけれど、地味な訓練を繰り返す際のモチベーションになるならそれもアリだと思う。
さてさて、残る子たちはといいますと……。
「うおおおお!!まじか、まじなのか!?」
「すっげええええ!!障害物で的が見えないのに当てちまったぞ、この子!?」
歓声がした方へと振り向くと、美少女がテレテレとはにかんでいた。
はい。ご想像の通り先日アルテメアスへと進化したことで習得した〔人化〕の技能で人の姿となったトレアちゃんです。
……それにしても〔人化〕の最中は能力値が激減してしまうはずなのだけれど。動くことのない的を狙うくらいは彼女にとって何の問題もなかったらしい。
「こんな可愛い子たちがあの悪名高いストレイキャッツだとはねえ」
少し離れた灯台の入り口付近では、タマちゃんズが座敷童ちゃんと一緒にカーシーさんたちに甘えていた。撫でまわしてくれた上におやつまで貰っているようで、すっかりご満悦な子猫たちです。
ついでに翡翠ひよこも混ざっているようだが、いつものことなので気にしない気にしない。
うちのエンゲル係数を低下させるためにも、しっかりねだっておきなさいよ。
「この調子でしたら、この場に居る者たちからは信用してもらえそうですわね」
「実力をしっかり見せつけられたことですし、難癖をつけられたり変に絡まれたりすることもないでしょう」
お互いのためにも、是非ともそうであってもらいたいものだよ。
「うちの連中は単純だから心配いらねえよ。それと、遺跡を狙っているっていうやつのことだが、バーゴに来たら分かるように網を仕掛けておくことにするぜ」
件の孤児院の子どもたちに仕事として依頼して、街の各地に散ってもらうつもりだという。
「くれぐれも無茶だけはさせないように言い含めておいてくださいね。相手はまともな倫理観をどぶに捨てているようなやつなので」
「分かった。見つけても後を追うような真似は絶対にするなと釘を刺しておくぜ」
こうして遺跡へと潜入するための準備が着々と整っていくのだった。




