772 くるっくーにビーンズピストルふぁいやー!
いやあ、鳩が豆鉄砲を食らった時の顔というのは、きっとああいうのを言うのだろうね。
まあ、鳩を豆鉄砲で撃ったことなんてないから、実際はどんなものなのかよく分からないですけれど!
「ぶっ壊……!?って、『大陸統一国家』時代に作られた物がそんな簡単に破壊できるのかよ!?」
「大将、それ以前に歴史的な価値?とかそういうのもあるんじゃないの?」
「そういう部分がないとは言いません。でも、今の世界にとって争いの火種になるくらいなら、ボクは迷わず消滅させることを選ぶよ。どんなに進んでいて利用価値があろうとも、それを巡って戦争が起こってしまえば本末転倒だもの」
実際、『三国戦争』が起きた原因の一つがそういうことらしいからねえ。だけど、リアルでも同じ判断が下せるのかと問われると、仮にそれで正解なのだと後押しされたとしても正直なところ自信はない。
これだけ思い切った決断ができるのは、ゲームの中だからなのは間違いないだろう。
それはこの世界を軽んじているためなのか?
今のボクには結論を出すことはできなかったのだった。
おっと、哲学っぽい小難しい問題について思い悩むのはまた今度だ。今は目前に差し迫った出来事に集中しないと。
「なんだかんだ言って。破壊するのは何とかなると思います」
例えできなくても、ウィスシーの底、湖の主がいるという中央付近に沈めてしまうという手だってある。要は誰の目にも触れないようにさえすればいいのだ。
「領主様や国に任せるって訳にはいかないのか?」
「ついこの間まで国防を牛耳るタカ派貴族に好き勝手やられていた国に、危険な兵器が眠るかもしれない遺跡の調査と発掘を任せろと?戦争強硬論者を勢いづかせて、大陸全土を巻き込んだ『三国戦争』並みの被害をもたらす争いを引き起こすのがオチですよ。っていうかヴェンジさん、分かってて言ってますよね」
その問いかけにはニヤリと笑って返すだけだったが、だからこそ予想が間違ったものではないと確信できる。
粗野だったり社員の皆にいじられたりしているが、この人は決して世間知らずのお山の大将ではない。
もちろんバーゴの街を拠点していてそこからほとんど動くことがない分交易貨客船のスウィフ船長よりは最新情報に疎いところはあるが、逆に言えば最新情報を入手するための伝手があるということでもある。
その上、それらをしっかり吟味できる頭も持っている。多分、彼らの置かれている環境によって、自然とそうした部分が鍛えられたのではないかな。
軍のような場所はある意味その身一つで成り上がることができる。冒険者にも同じようなことが言えるが、あちらが基本すべて自己責任であるのに対して、軍部では上官の命令には絶対服従だったり集団生活が強制されていたりと不自由な面もある一方で、衣食住がある程度は保証されていることが多い。
社会からはみ出しかけた者や孤児院出身者が一旗揚げようと門を叩くこともあれば、逆に勧誘されることもあったと思う。
平素でしっかりとした組織運営がされていたならば問題なかっただろうね。
しかし、現在ではその軍部を牛耳っていた主にタカ派貴族たちの腐敗が進んでおり、先日の大改革を見ても分かる通りそれが全体へと広がっていた。
本人の気が付かない間に窃盗や横領の片棒を担がされていただとか実行犯にされていたということも、以前から相当な頻度で発生していたらしい。
そうした事態に巻き込まれないように、つまりは自衛のためにヴェンジ社長たちは情報を集めては吟味することを繰り返してきたと考えられるのだった。
そんな彼が権力の座に就いている者だからという理由で、遺跡の調査や管理を国などに任せようとするはずがないのだ。
「それで結局ボクは、ボクたちは社長のお眼鏡にかなうことができましたか?」
要するに、遺跡の調査を任せるに値するのか、このまま協力しても大丈夫なのか、と値踏みされていたのだろう。
あまり気分の良いものではないけれど、この地に根を張る彼らの立場を考えれば仕方がないところではあるのかしらね。
対してボクたちはどこから来たのかも定かではない風来坊だ。最悪、失敗したら逃げ出すことだってできてしまう。こればっかりはどんなに言葉を尽くして否定しても否定しきれるものではない。
つまりはどうしようもない部分であり、それを含めて納得するために値踏みは必要不可欠だったのだ。
それでもやっぱり気分の良いものではないけれどね!
大事なことなので二回言いました!
「ああ。そうだな。実力のほどが分からんっていう不安要素が残っちゃいるが、そこらに居る自分の利権のことばかり考えてる連中に比べりゃ、はるかに信用できそうだぜ」
「大将がそう判断したなら、私らはそれに従うだけだよ」
はふー……。何とか信用は取り付けられたみたい。後は実力、腕っぷしの強さを見せつけられれば万事解決なのかな?
脳筋思考と笑うなかれ。魔物という天敵が存在している世界であるからして、人々の根底には安全イコール強さという認識があるのだ。
「腕に自信がある社員の人たちと模擬戦でもしましょうか?」
「止めてくれ。その後でうちの連中が使い物にならなくなっちまう」
そうかな?いい勝負になりそうな人も結構いたように思えたのだけれど。
「いい勝負に持ち込まれた時点であいつらにとっちゃ負けと同じなのよ。男所帯で古い考えのやつも多くて、おまけにガキの頃の刷り込みで「女は守るもの」だと強迫観念にまでなっちまってるからねえ」
かくいうカーシーさんも今の立場になるまではたくさんの仲間とぶつかり合ったらしい。
主に拳で。
「あの時は主力連中が三日以上使い物にならなくて参ったぜ……」
後始末に相当苦労したのか、ヴェンジ社長の頬は引きつっており、顔色も悪くなっているような気がした。
それにしても、認められるように力を見せつけて、だけど相手の男としてのプライドを傷つけないように配慮しなくちゃいけないのか……。
いや、これかなり面倒くさいね!?
しかし、意外と身近なところに解決策は用意されていた。
「リュカリュカ?何を悩んでいますの?」
「私たちが参加できないのであれば、あなたのテイムモンスターたちにお願いすればよいのではありませんか?」
いやはや、目から鱗とはこのことだね。ボクはテイマーなのだから、テイムモンスターであるうちの子たちの力もまた、ボクの実力の一部とされるのだ。
「……ハトが豆鉄砲を食らったような顔になっていますわよ」
違うから!
目から鱗が落ちて開明しただけだから!