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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十六章 港町と遺跡と
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764 ガツンとやります

 倉庫兼たまり場と化している一階を抜けて灯台内部を二階へと進む。

 たむろっていた人たちの大半がチンピラっぽい風貌だったのは、まあ、そういうことなのだろう。カーシーさんのあしらい方も堂に入っていたので、昨日今日こうなったのではないと分かる。

 つまり、慣れ親しんでいつもの光景となるくらい、以前からここははみ出し者やはぐれ者たちの受け皿となっていたということだ。


「あいつらが絡むような真似して悪かったねえ。あれで仕事中は様になってきたんだけど、それ以外の時はどうにもまだまだ子どもっぽくていけないよ」

「カーシーさんが相手をしてくれましたから平気ですよ」


 身内のやんちゃな姿を見せてしまったことで恥ずかしそうにしている彼女に、問題ないと笑顔で返す。

 これがリアルの優華ちゃんであれば怖気づいてしまったかもしれないね。というか用事なんて忘れてすぐにでも回れ右をして一刻も早くこの場から立ち去るべきだ。

 もちろん、いざという時のためにお巡りさんへの緊急直通回線を携帯端末で準備しておくこと。


 一方、『OAW』のリュカリュカちゃんは冒険者であり、恐ろしい外見の凶悪な魔物とも対峙しては打倒してきている。

 そして何より見た目だけなら「衛兵さんこいつです!」と通報待ったなしの荒くれ同業者たちを常日頃から相手にしてきているのだ。今さらチンピラ風味な兄ちゃんたちの十人や二十人がたむろっていたところで恐怖を感じるようなことはないのだった。


「へえ。冒険者だって言うのも本当のことみたいだね」

「あれ?信じてもらえてなかった?」

「そりゃあ、あたしみたいにゴツイなりならともかく、あんたたちみたいは揃いも揃って華奢だからね。見た目があてにならないなんてことはよくあることだけど、それでも鵜呑みにはできないもんさ」


 と悪びれた様子もなく言い放つ。そしてどこまでも堂々とされてしまうと、かえって文句は言い辛くなるものだ。彼女が慕われている理由が垣間見えた気がした瞬間だった。

 後、カーシーさんはゴツイと言うほどの体格ではないと思う。確かに筋肉質ではあるけれどその体さばきはしなやかであり、例えるならカモシカとかネコ科の大型肉食獣かしらね。


 しかし、これはこれそれはそれ、というやつで侮られたままというのはよろしくない。


「負ける見込みのない相手を怖がる道理なんてないですから」


 挑発じみたボクの台詞に、すぐ前を行くカーシーさんの肩がピクリと跳ねる。が、彼女が振り向いたりするよりも先に、低い声で言葉を重ねる。


「なんなら試してみますか?」

「っ!?」


 ついでに努めて友好的にしていた雰囲気を敵対者向けへと切り替える。

 へえ。呑まれて歩調を乱したりしなかったのはさすがだね。だけど動揺を誘うことはできたようなので、こちらとしても成果は十分だ。


「……いつもながらリュカリュカのアレはえげつないですわね」

「気持ちを強く持つくらいしか対策がありませんからね。原理としては理解できますが、できるかどうかは別問題。あれはその典型的な例ですよ」


 背後でミルファたちが何か言っていたが、あえて聞き流しておきます。

 そして二人からの否定の文句が出なかったことから、先の挑発じみた言葉は事実なのだと、少なくともこちらの三人はそれを信じて疑っていないのだとカーシーさんに強く印象付けることになったのだった。


 ちなみに、〔鑑定〕でレベルなどを調べた訳ではないので、実際には蓋を開けてみないことにはどうなるかは分からない。

 ただ、ほとんど全員が酒を飲んでいた――湖上で冷えた体を温める意味合いもあるよ――ようだし、意外と何とかなった気はする。上手く先手を取ることができれば、一方的に勝利することもできるかもしれない。


「まあ、今はもう冒険者だと理解してもらえてるみたいだから、それでいいです」


 そうして再び雰囲気を友好的なものへと切り替える。すると強張っていたカーシーさんの体からゆっくりと余分な力が抜けていくのだった。

 なめられたり侮られたりしなければ十分で、敵対したい訳でもなければ上下関係を叩きこみたい訳でもない。

 よって喧嘩にならないのが一番なのです。


 その後は何もなかったかのように階段を上る。試合が終わればノーサイドの精神だね。

 違う?……あれ?

 それはともかく、二階の出入り口らしき扉を通り過ぎ(スルーし)て、カーシーさんはさらなる上階へと向かっていく。


「……何とかと煙と一緒でさ、うちの大将は高い所が好きなんだ。来客はおろかうちの若い連中にすら不評なんだけど聞く耳を持ちやしない」


 うわー……。それは何と言うかご苦労様です……。しかし、ひたすら好意的に捉えるならば、来客の体力と忍耐力を削っておいて後に控える交渉の本番で有利に立つための布石にしている、と考えられなくはない。

 これまでにカーシーさんの口から飛び出してきた大将さん像からはとてもそういった知略を巡らすような面は見当たらないが、天才の中にはそうしたことを理屈抜きで直感的に感じ取っては、無意識に実行に移しているやからもいるからね。

 まったく凡人は苦労が絶えません。


「申し訳ないけど最上階まで付き合ってちょうだい。その分、窓から見える景色だけは格別だからさ」

「それを楽しみにもうひと頑張りします」


 魔法で中の空間が拡張されていない限り、多くても後二階分までで目的地へと到着するはずだ。その程度であれば精神的に追い詰められることもない。

 そしてその予想通り、階段はじきに終わりを迎えた。最上部は少し広い踊り場状になっていて、正面には頑丈そうな扉があった。


 そこは別にいたって普通のことだから問題ない。

 子犬と肉球マークが描かれたファンシーな『社長室』のネームプレートにも目をつむろう。


 だけどその下に『在室』や『外出中』といった大まかな居場所を書いたプレート――こちらには子猫やウサギ、チビドラゴンも描かれていた――が掛けられているのはお遊びが過ぎるっていうものじゃないかな!?


 分かりやすくていいけど!

 便利だけど!

 思わず「小学校の保健室か!?」と叫びそうになったボクは悪くないはず。


 狙ってやっているのだとすればかなりの曲者だし、そうでないならば相当な天然ということになる。

 いずれにしても一筋縄ではいかないだろう。大将さんなる人物への警戒感がいやがおうにも高まっていくのを実感していた。


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