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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十五章 混迷する学園
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749 頭の中には花壇を作るべきではない

「は、離せ!何をする!」


 ぶっ飛ばした男はともかく、残る三人は怪我の一つもしていないこともあって、捕らえられてからも活きのいい魚のようにビチビチと抵抗していた。

 うーむ……。このまま暴れられるのも危険だわね。


 叩いて黙らせるという脳筋な対策が頭をよぎったが、当人たちよりも改善の余地がある本命の子たちが委縮して(びびって)しまう可能性が高い。

 それどころか「武力で脅された」的な言い訳を与えてしまうことにもなりかねない。

 そこでボクは一計を案じることにした。捕えられている四人のところへスススッと近付いていき、彼らにだけ聞こえる声量でボソッと呟く。


「ここに居たのは偽物だけど、果たしてあなたたちが連行された先に居るのはどうでしょうね?」


 何が、を明確にしないところがミソだ。

 そうすれば彼らのように勝手に誤解してくれるから。


 血の気が失せた顔でパクパクと口を動かしている辺り、とっても怖いものを想像してしまったみたいだね。

 そんな彼らに向かってニタリと笑うボクは、我ながら悪役令嬢っぽいのではないでしょうか。

 今年の助演女優賞はいただきだね!


「あ、た、助け……」

「救いの手は何度も差し伸べられていたよ。それを無視していたのはあなたたち自身だ。……連行してください」


 せめてもう少し前に気が付いてくれていれば、大公様に助命の嘆願くらいはできたものを……。

 公子殿下へと凶器を向けていた可能性がある以上、あの四人は厳刑を免れることはできないだろう。先ほどとは打って変わってやるせない気持ちで彼らが出て行った扉を見つめてしまうのだった。

 引き取り不可能な連中の分別と不穏分子の処分はボクたちではどうにもならない。まだ舞台の幕は上がったばかりなのだから気持ちを切り替えないと。


 振りむいた先ではジャグ公子がこの集まりの趣旨を説明したらしく、ざわついた雰囲気となっていた。

 いきなり始まった捕り物で令嬢たちがパニックにでもなりかけたのだろう。落ち着かせようと無理矢理話を進めたといったところかな。

 家名を捨て去る――本当ははく奪となるのだが、温情として子どもたちの方から縁を切ったという形にしてあげるのだ――ことが確定事項だと知って驚いているみたい。


「とにかく!あの四人とお前たちでは立場は異なる。少なくともいきなり捕えるような真似はしないと私の名において誓おう。これから私が言うことをよく考えて吟味し、後悔のない道を選ぶように」


 もったいつけたというか責任回避をしたようなやり方だが、それも仕方のない話でして。

 あ、責任回避の思惑があるのは間違いないです。


 今回集められた連中は貴族の中でも高位の家の子どもたちだ。もっとも、もうすぐ『元』の字が枕につくことが決定している訳でもあるのだけれど。

 要するに大抵の我儘は叶えられる立場にいた。ここからが厄介で、こういう手合いは義務とか責任をとことん嫌う傾向があるのよね。

 だから問題が発生したり自分が不利になる出来事に遭遇したりすると、すぐに自分以外に責任の在りかを求めてしまう。


 まあ、誰かから何かを教わることもなく、自分の我儘が通るのが当たり前な生活を続けていればそうなってもおかしくはない話だ。だからある意味彼らも被害者と言えなくはないのだけれど、現在の状況的に悠長なことはやっていられない。


 理解できなくても、これから先の自分の身に降りかかることは全て自分の責任となることを頭に叩き込んでやらなくてはいけないのだ。

 そのための第一歩として、誰にも責任を押し付けることができないように確実に彼ら自身でその進む先(みらい)を決めさせること事が必要となる。


 それでも諦め悪く文句を垂れるやつもいれば、こんな世の中が悪いと言い出すやつだって出てくるだろうけれど、その時は騒動の元凶になったスコルピオスとサジタリウスの二伯爵のせいにしておけばいいでしょう。


「お前たちに選ぶことができる道は二つだ。一つは私の庇護下に入ること。ただし、将来的に我が傘下に入るならばポートル学園を優秀な成績で卒業することが条件となる」


 要は「その才が優秀で失うのは惜しいと囲い込んだ」と思われるようにしろ、ということだね。やる気がない者やダメだった人は去ってもらうことになるだろう。

 まあ、後者の場合それまでの頑張り次第では拾い上げてくれる部署があるかもしれない。


「もう一つは学園を辞めてその身一つで生きていくことだ。こちらを選んだ者に我らが何かを指図することはない。一人につき金貨十枚(十万デナー)を渡すので、後は自由に生きていくがいい」


 わーお、公子様ってば太っ腹!リアル換算だと約百万円ですか。大金だわねえ……。

 もっとも、ポートル学園で必要な諸費用を肩代わりすることに比べれば安いものなのだろう。


「つまらない冗談もいい加減にしてほしいですわね!」


 ガタン!と音を立ててテニーレ嬢が立ち上がる。捕り物のショックからようやく立ち直ったのか、それとも我慢の限界となったのか。


「この私が誰かの下に着くなどあってはならないこと!そもそも家名を捨てて平民になれなど、到底承服できませんわ!そのような愚かな道を選ぶくらいなら、死んだ方がマシというものですわね」

「そうだ!貴族の誇りを奪われるくらいなら死を選ぶぞ!」


 威勢のいい啖呵(たんか)に、未だに状況が見えていないおバカたちが騒ぎ始める。

 あ、ジャグ公子たちが頭を抱えている。この場には城から派遣してもらった人たちもいるからね。彼らは表向きはボクたちのお手伝い兼公子たちの護衛だが、その実大公様たちからタカ派高位貴族の子どもたちを見極める命を受けているのは明白だった。

 つまり、テニーレ嬢たちは自分で自分の首を絞めているのだ。


 それにしても大人しく聞くことも素直に従うこともないだろう、とあらかじめ予想はしていたけれど、彼らの中ではさっきの捕り物は幻覚か何かとして処理されているのでしょうかね?

 どうして自分たちも同じ扱いを受けるかもしれないと思えないのやら。


 ……ああ、そうか。この子たちは未だに自分の身に価値があると思っているのか。「いきなり捕えたりはしない」とジャグ公子が明言したこともあって、なんだかんだ言っても命を取るような真似はできないと高をくくっているのだろう。


 実際には、国からは命を散らすことにしか価値がないと判断されているというのにねえ……。

 とんだ皮肉だよ。


 仕方がない。そのお花畑な頭に現実というものを突き付けてあげるとしますか。


 アイテムボックスから初心者用ナイフを取り出すと、高く高く放り投げたのだった。


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