744 命の危機
気になっているだろう結果を先に発表するよ。
ボクの想像は……、外れていた!
ジェミニ侯爵を通じて大公様たちに軍部が所有する施設の調査をお願いしたところ、すぐさま請け負って、と言うか既に行われている最中であり、それによると緋晶玉らしき宝石や鉱石は一切見つからなかったのだそうだ。
しかしながら、これを機に再度調査をやり直した施設のいくつかで隠し部屋や隠し金庫などが発見されたらしい。
ちなみに、ミルファとネイト、さらにうちの子たちのパーティーもこの調査に参加しており、見事に隠し部屋を発見したのだそうな。
ジェミニ侯爵の屋敷に居ないと思ったら、そんな面白そうなことをしていたとは……。
ともあれ、完全な無駄足を踏ませることだけは免れたのだった。ホッと一安心でございます。
……これで事が済めばそうも言っていられたのだろうけれどねえ。発見されたのが禁制品の売買やその取引の証文から裏帳簿までと多岐に渡っており、しかもそのことごとくにタカ派を取りまとめている上位貴族の名が記されていたとあって、騒ぎが沈静化する見通しは一向に立たないという状況に陥ってしまっていたのだった。
大公様は激怒し、レオ領とスコルピオス領にサジタリウス領の領主三名を首都に呼びつけた。
つい先日処罰を与えたばかりだったというのに、またもや悪事の証拠が出てきたのだから当然の反応だよね。
ところがどっこい、この召喚状に応じたのはレオ伯爵ただ一人だった。
残るスコルピオス伯爵とサジタリウス伯爵の二名は沈黙して領地に立てこもってしまったのだ。
「厄介なことになった……」
生徒会室で顔を突き合わせて早々に、ジャグ公子が弱音を吐く。おや、尊大な態度がデフォルトな彼がそんなことを言い出すとは珍しい。
まあ、ようやく男子学園生たちをまとめ上げてグループが形になりかけていたものが、今回の騒ぎで一気に瓦解してしまうかもしれないとあってはさもありなん。
キレられても対応が面倒なので、茶化すような真似はしないでおこうか。
そう、ライレンティアちゃんが苦労していたタカ派学園生の取り込みに、ジャグ公子の方は成功していたのだ。
もっとも、苦戦していたのは「同格であるはずの相手の下につくなど『十一臣』としての矜持が許さない!」という、当人たちにとっては極めて重要なのだろうけれど時流が読めていないなあ、と思わざるを得ない理由が原因となっていたためだった。
この点ジャグ公子は腐っても……、ゴホンゲフン!
大公家の正当な嫡男なので従ったとしても何ら問題ないため、すんなりとグループを形成することができたという訳。
「ジャグ様、お義父……、大公様はどのようにおっしゃられているのですか?」
ライレンティアちゃん、今「お義父様」と言いそうになったね?
そんな場合じゃないと理解していてもニマニマしたくなるのでやめてください。
「こうなってしまってはレオの者はともかくスコルピオスとサジタリウス、特に領主の伯爵に連なる者たちは信用することができないとおおせだ……」
彼らがしでかしたことをつぶさに知っているから、正解かどうかは別としてそんな反応になってしまうのも仕方がないとは思う。
だからこそこの場に集まっている皆からは「厳し過ぎる」という意見が相次ぐことになった。
そうそう、一応タカ派なのに話題に一切出てこないタウロス領の領主さんですが、この時点で魔物を操る薬を購入していたことや、『武闘都市ヴァジュラ』との間でヤバい密約を交わしていたことが判明していたらしく、家族の内で事情を知っていた者ともども領内の館に監禁されていたりします。
まあ、大公様やジェミニ侯爵がやってくれていた上に、現在ポートル学園に通っているのも何も知らされてはいないことが明白な下級貴族の子息や令嬢ばかりだったこともあって、ボクがこれらのことを教えられたのは全てが終わった後になるのだけれどね。
閑話休題。さて、厳し過ぎるという批判ばかりが噴出したのは、皆が詳しいことを知らされていないこと以外にも理由があった。
それは貴族の子どもたちがポートル学園に通うことを義務付けられていることにもかかわってくることだ。
男女問わず、しかも地方の貴族の子どもたちまでもれなく首都に集められている。しかも数は少なく特別優秀だとはいえ、場合によっては平民と席を同じくすることだってある。
身分制度が色濃く残っているこの世界において、これは革新的なことなのだけれど、同時に異様なことでもある。
どうしてこんなことがまかり通っているのか?
答えは簡単、学園生には大公家や国に対しての人質という側面があるからだ。
どんなに卒業条件が緩くなっていても最低一年間は通う必要があるのは、これに由来するものと言えるだろうね。
そして人質である以上、従わない者や裏切り者に向けた見せしめの対象にもなってしまう可能性がある。
「ま、まさか厳罰に処されるなんてことはありませんよね?」
「……残念だが「ない」とは言い切れない。信用できないとまでおっしゃったのだ。手元に置いておく必要すらないと考えられているかもしれない。処刑の可能性まで想定しておくべきだ」
不安に駆られてスチュアートが口にした問いに、ミニスが最悪の展開もあり得ると告げる。
その瞬間、一気に室内の空気が重くなったのを感じた。それはそうだろう。決して仲が良かった訳ではなくとも、ただでさえ多感な思春期真っ只中のミドルティーンの折に、毎日のように顔を合わせてきた者同士なのだ。情の一つや二つ湧いていてもおかしくはない。
既に該当する学園生たちは首都にあるそれぞれの屋敷ごと国の監視下に置かれているという話だ。
一応ポートル学園への登校は認められているそうだが、例の貴族の矜持的に監視役を張り付かせたまま出歩けはしないだろうね。
そしてスコルピオスとサジタリウスの両伯爵がこのまま意向を無視し続けるのならば、最後通牒代わりに彼らの命が散ることになる。
「な、何とかできないのでしょうか?」
ジーナちゃんがすがるようにトウィン兄さまを見つめているが、その視線の先にいる兄さまに加えて、ボクたちの中でも最も権力を持つジャグ公子でさえも、難しい表情を崩すことはなかった。




