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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十四章 ポートル学園での闘争
729/933

729 大集合

 魔改造ドレス集団を相手にした時にも思ったことだけれど、真剣に隠れているのが丸見えになっているというのは何だかこう、無性に申し訳なく感じてしまうところがあるね。

 だからと言って手心を加えてやる気はさらさらないけれど。


 ただし、魔物とは違ってこいつらは「何もしていないのにいきなり攻撃された!」と下手な言い訳をもっともらしく訴えるという厄介さを備えている可能性があるため、問答無用で先手必勝!とはいかないのが面倒なところだ。

 まあ、逆に言えばそこさえクリアすればどうとでもなる連中なのよね。


 いや、だって〔鑑定〕技能によると最も高い人でも十五レベルだよ。最低値は八と、なんと驚きのローガーと同じレベルで、平均すると十レベルでしかない。

 それなら数で圧倒してくる戦法かと言えばそうでもなく、ミニマップに記された点は六つだけと、本気で勝つつもりがあるのだろうか?と疑問に思えてしまう布陣だった。


 だけど一方で、『OAW』にはボクも取得している〔気配遮断〕の技能――最近特に使う機会が減っているなあ……――が存在している。明らかに弱いやつらを配置しておいて、油断したところで高レベルの敵が襲いかかってくるという展開も考えられなくはないのよね。


 しかし、ボクは別に戦略に明るい訳でもなければ、戦術論に詳しい訳でもない。仮に強い敵が現れた時には臨機応変に対応するしかない、というのが本音のところだ。

 割と行き当たりばったりの計画?こちらが仕掛けた罠にあちらが乗ってくるかどうかすら未知数だったのだから、そんなことは今さらな話というやつですよ。


 さてさて、それでは予定通りに事を進めるとしましょうか。

 ……おっと、その前にもう少し詳しく今の状況を説明する必要があるかな。


 現在ボクが歩いているのは、本校舎と独立した離れの建物となっている図書館を結ぶ廊下となる。廊下と一口に言っても壁はなく、柱と雨に濡れることがないよう屋根があるだけの空間だ。

 学生の人には「渡り廊下」と言った方がイメージしやすいかな。その柱と屋根に豪華かつ綺麗な装飾を施したものへと脳内変換してもらえれば、当たらずとも遠からずといった感じです。

 要するに外――と言ってもポートル学園の敷地内ではあるのだけれど――から直接入り込める場所なのだ。


 一方、敵の皆様が潜んでいるのはその周囲に植えられた木々や、休憩場所として建てられている小ぶりな東屋(あずまや)の陰だった。

 距離は当然バラバラで、最も廊下から近い場所にいる人は五メートルほどだったが、遠くにいる連中は二十メートル以上も離れている。

 一斉に襲いかかってこられたとしても包囲するのは難しいのではないかしらん。数少ない利点である人数差をまるで活かせていない気がするよ。


 どうにも穴だらけに見えてしまう待ち伏せに、薄気味悪いものを感じながらも行動を開始する。


「隠れている六名に警告します。そのままそこに居るつもりならば、敵対する意思があるとみなして攻撃を行います」


 立ち止まってぐるりと見渡しながら宣告すると、半数の三人が身動(みじろ)ぎをして木の葉を揺らしたり物音を立てたりしていた。……素人か。

 一瞬、実は学園生なのではないか?という考えが脳裏をよぎるが、彼らでは潜伏者たちのレベルにすら到達していないのだったと思い直す。


 よくもまあこんな有様で、貴族の子女が通う国内でも有数の重要施設であるポートル学園へと潜入できたものだ。

 徐々に粛清が行われているとはいえ、まだまだ騎士団や軍部といった武官系へのタカ派の影響力は強い。ジーナちゃんが怪我をさせられた時も含めて、警備の者たちが手引きした可能性は高そうだ。


「冗談かハッタリだと思っているようですね。いいでしょう。それでは……」


 と、隠れている場所を次々に言い当てていく。

 こちらから見たものだから潜伏者たちの認識とは微妙に違っている箇所もあったかもしれないが、少なくともボクが隠れ場所を把握している証明にはなっただろう。


 これで、「気付かれていたなら仕方がない。てめえら、やっちまえ!」と飛び出してきてくれれば簡単だったのだが、驚きすぎて思考が停止してしまったのか、それとも絶対にこちらの言うことには従わないように言い含められているのか、さっぱり動きがない。

 それならそれで警告した通りにするだけだ。


「みんな、出ておいで」


 呼びかけるとすぐに、うちの子たちが『ファーム』から次々と飛び出してくる。〔共闘〕技能も使用しているから、まさに全員集合状態です。

 まあ、アコ本人はさすがに出てきてはいないが、代わりに配下のイフリートの幻影(・・)を出現させているので、ある意味一番目立っていた。


 さすがにこれは想像の外だったようで、あちらこちらから動揺の気配が感じられる。

 が、もう遅い。


「チーミルとリーネイとアコは逃げようとするやつの足止めを。他の子たちは好きに遊んじゃってもいいよ」


 言うや否やそれぞれが行動を開始する。

 先手を切ったのは弓矢という遠距離攻撃手段を持つトレア、かと思いきや意外なことにもリーヴだった。


「ぎゃあ!?」


 普段は壁役に徹することが多くて使用を控えめにしている〔聖属性魔法〕の【ホーリーボール】を撃ち込んだのだ。

 しかも直撃はさせずに着弾時の破裂で攻撃している辺り、あちらの弱さもしっかりと考慮しているもようです。


「ひっ!ひいっ!ふううう!?」


 ……おかしな悲鳴を上げているのは、比較的距離のある場所に隠れていた人物だ。

 トレアの放った矢が連続でかすめたのだろう、彼の背後の木の幹には顔の輪郭を描くように幾本もの矢が突き立っていた。遊んでいるなあ。


 遊んでいると言えばエッ君とタマちゃんズだ。

 潜伏者数名を巻き込んで追いかけっこをしておりますよ。


「く、くるなあああ!」

「嫌だああああああ!」

「死にたくないいい!」


 ストレイキャッツのことを知っている者がいたのか、巻き込まれた彼ら的には遊びどころか生死の境目をさまよっている気分だったようだけれど。


 いやはや。レベル差からある程度予想はしていたけれど、あっという間に大半が戦闘不能や制御不能に陥っているね。

 もはや大勢は決したと言っても過言ではないだろう。


「それにもかかわらず隠れ続けるなど、並大抵の精神力では成しえることではありません。レベルの低い存在に擬態するのであれば、その点も考慮しておくべきでしたね」


 潜伏者の内最低の八レベルだった残る一人に向けて話しかける。と、憎々しげな表情で大柄な男がのそりと木々の裏から現れたのだった。

 すぐに〔鑑定〕を使ってみると表示されたレベルは二十八。


 やっぱりか。なにやら特殊な方法でレベルを偽っていたようだ。


 彼だけは警告を発した時からこれまで、少しも動じていなかったのだ。そこで鎌を掛けてみたところ、見事に大当たりだったという訳。


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