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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません
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717 学園内での攻防、その始まり

 それは三人でのお茶会から数日後の朝のことだった。

 いつものように学園へとやってきたボクは、兄さまと別れて自分のクラスへと足を踏みいれたところで顔をしかめることになった。

 割り当てられた机の上に、ボロボロに破壊されたペンが転がされていたからだ。


 話の腰を折るようで申し訳ないが『OAW』にはリアルには及ばないものの、それなりに高品質なペンが普及している。

 筆記具の改良も異世界物では定番になりつつあるけれど、羽ペンの扱い難さは半端ないらしいからね。冒険者登録を始めとして、なんだかんだ言ってプレイヤーがものを書く機会というのも意外と多い。

 活躍の機会を少しばかり減少させてでも便利さやストレスの軽減を優先させたということなのだろう。


 壊されたペンを前にしたボクの様子に、クスクスとこれ見よがしに笑っている魔改造ドレス集団を除いたクラスメイトたちが気まずそうに目をそらしている。

 まあ、これだけあからさまな態度を取られてしまうとねえ。嫌でも誰が何をしたのかを理解させられてしまったことだろう。

 もっとも、さすがにお嬢様たち自身が手ずから、ということはないだろうけれど。


 そんな居心地の悪い空気が形成されていく中で、ボクはと言えば内心で「あちゃあ……」と呟きながら額に手をあてて天を仰ぐことになっていた。

 なぜなら、完全に判断ミスをやらかしてしまっていたからだ。


 ここ最近、物がなくなる系の嫌がらせが発生していたのは既に述べた通りだ。

 しかし、それらは全てゴミ箱だの廊下だの庭先だのといった場所に、ボクが見つけられるように(・・・・・・・・・)置かれていた。

 あまり気分の良いものではなかったが、〔生活魔法〕の【浄化】で新品かと思えるほど綺麗になることや、なくなってしまっても困らないこと等々から、まあ、いいかと思い放置してしまっていたのだ。

 それどころか、犯人たちのうっぷん晴らしになってより深刻な事態の発生を防げるのであれば、結果的には安上がりだろうとすら考えていた。


 失敗した。ライレンティアちゃんも「引いてばかりでは相手をつけ上がらせるだけになる」と言っていたではないか。

 もしかすると平然としていたボクを見て、一時的に物がなくなる程度では効果が薄いとしびれを切らせたのかもしれない。が、いずれにしても現状が彼女の言った通りの様相を呈しつつあることには間違いなかった。


 さて、どうしたものかと悩んでいたところに、背後から「どうした?」と尋ねる声が。

 振り返るとそこに居たのは、学園屈指のちから極振りアンドかしこさ極振りの凸凹コンビであるローガーとミニスだった。

 いつも思うのだけど、彼らは将来のジャグ公子政権下での幹部最有力候補だよね。いくらクラスが違うとはいえ放置しておいて構わないのかしらん?


「うん?……これは酷いな」

「なんだこれは!?」


 そんな割とどうでもいいことを考えていたのがいけなかった。気が付けば時既に遅しとなってしまっていて、止める暇もなく二人にボクの机の惨状を見られてしまったのだった。


 見る見るうちに二人の機嫌が悪くなっていく。

 それもそうだろう、片や猪突猛進な熱血漢で、片や清濁併せ呑むことの重要さを知っているからこその正義漢。理不尽な暴力や嫌がらせは、二人が最も嫌うものの一つなのだ。

 分かりやすいキャラクターの性格付けといってしまえばそれまでなのだが、そういうところは妙に共通点があるのよね。


「お二人とも、落ち着いて下さい」


 しかしながら、このまま二人に出しゃばられてしまうと、彼らを慕う(ねらう)淑女(ハンター)たちからまで妬まれることにもなりかねない。

 魔改造ドレス集団ことテニーレ嬢たちだけでもお腹いっぱいなのに、これ以上の追加はごめんです!


 それに、判断ミスがあったとはいえ怒っていない訳ではないのだ。壊されたペンは真っ二つに折られた後、執拗に踏み潰されたのか土まみれでボロボロになっていた。

 学園内の購買部――貴族の子女が通う学園に購買とかシュール……――で売っている一番安い物なので懐へのダメージはゼロに近いのだが、物を大事にしない態度はいただけない。


(いきどお)ってくれる気持ちは嬉しいのですが、まだだれかが故意にやったことだと決まった訳でもありません。生徒会役員であるお二人が前面に出られてはことが大きくなってしまいます。いざという時には調停なり何なりをお願いすることになると思いますので、ここはお引きください」


 こういうことは先手必勝だ。余計な手を出したりしないように、あらかじめ極太の釘を打ち込んでおかないとね。

 ちなみに、副音声では「これはボクが売られた喧嘩なのよ。呼ばれてもいないのに部外者が勝手に出張ってくるんじゃないの」という意味合いとなります。


「む……。リュカリュカがそう言うのであれば仕方がないな」

「だが、いざという時には本当に頼ってくれよ」


 うおおーい!?せっかく人が頑張って「この二人とは何でもないんですよー」と周りにアピールしたというのに、その苦労を一瞬で台無しにするような台詞を口走らないでくれませんかねえ!?


 あああ……。ほら、一部のお嬢様型の視線にまた不穏当な感情が混ざり始めてるよ……。

 ぐぬぬ……。これはもうこってりお説教案件だわね!


 凸凹コンビへの復讐はまた後ほどにするとして、時間も押してきているし今はこの騒ぎを鎮めておかないと。

 犯人をとっちめてやれれば一番なのだが残念ながら証拠も何もない。

 ここは次善の策として、彼女たちの行為は無駄なことだったと知らしめるようにしましょうか。


「これまでどうもありがとう。そして、最後まで使ってあげられなくてごめんなさい」


 ボロボロになったペンを破片の一つまで掌の上へと掬い上げて感謝と謝罪の言葉を紡ぐ。

 リアルでは道端の石ころにまで神様が宿るらしいニポンの生まれ育ちだからね。これくらいのことは違和感なく行えてしまうのだ。

 だけど、そんな事情を知らない『OAW』の人たちには異質で不可思議な行動に見えたことだろう。


 それでも真摯(しんし)な感情というものは意外と伝わるものであるらしい。

 呆然とした顔が多数ではあったけれど、一方で少なくない数の人が感動の面持ちとなっていたのだった。


 そしてこのことが引き金となり、ボクはテニーレ嬢たちから本格的に付け狙われることになるのだった。


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