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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません
710/933

710 いつからボクがヒロインだと錯覚していた?

 ライレンティアちゃんのリーブラ領は『水卿公国アキューエリオス』の中西部にあり、首都アクエリオスから見ればウィスシーの対岸に位置していることになる。

 とはいえ、ウィスシー沿岸を回る航路――中心付近にはヌシっぽい水棲の巨大魔物が住み着いているため、航行不能とのこと――によって対岸でもおよそ一日あれば到着してしまうらしい。よって、国境のある三領地とは時間的にも心理的にも比べ物にならないくらい近い場所だと言えるだろうね。


 派閥的には強硬(タカ)派でもなければ穏健(ハト)派でもない中立派。

 ボクたちがやってくる以前のジェミニ侯爵と似たような立場だが、中立派は一つの派閥を形成しているというよりは独自路線の少数をまとめてそう呼んでいるだけという面も強いので、主義や主張は結構異なるそうだ。


 リーブラの領主であるライレンティアちゃんのお父さんは積極的中立という考え方になるようで、タカ派による軍部の勝手な利用を禁止して大公に権限を集中させるべきで、一方の穏健派に対してももっと軍事関係のことに人や物、金を出すように訴えているらしい。

 こうした主張だから大公派の官僚貴族たちとはそりが良く、地方領主でありながら中央に太い繋がり(パイプ)を築くことができているのだとか。


 ライレンティアちゃんの名が公子妃候補に挙がったのはそういった事情があってのことのようなのですが、


「ミニス様、スチュアート様、それとついでにローガー様。一見かなり激しい言い合いをしているのに、公子様もライレンティア様もとても生き生きとしているように見えます」


 ジャグ公子が「いつまでも私に挨拶がないというのはどういう了見だ」と割って入ってきたことに対し、ライレンティアちゃんが「先日話しかけた折に馴れ馴れしく話しかけてくるなとおっしゃったのはジャグ様の方ではございませんか」としれっと返したことをきっかけに、ボクたちをそっちのけにして二人での言い合いが始まってしまったのだった。


「あの二人にとってはあれが日常だったからな」

「僕らがいても、いつもすぐに蚊帳の外にされちゃうんですよ」

「俺だけ扱いが悪い気がするがそれは置いておくとして、まあ、振られたところで何を話しているのかよく分からないから、二人だけでやりあってくれるのはありがたい」


 ローガー……。さすがにそれはどうかと思うよ。

 と、残念な子のことは後日また何とかするとして、公子とライレンティアちゃんは幼い頃から付き合いのあるそれなりに親しい関係であるようだ。

 そして仲良く言い争いをするくらいには親密でお互いのことを想い合っている間柄と言えそうだわね。


 そういえばボクを睨みつけていた瞳の中には妬みの感情も込められていたように思う。これはスコルピオスの御令嬢、テニーレにはなかった感情だ。

 加えて国母になる責任感や、どこの誰かも分からない存在が持ち上げられていることへの警戒心や憂慮の気持ちも見え隠れしていた。


「どう考えてもライレンティア様が本命ですよね。今さら私のような者を選定の場に放り込むようなことをしなくても良かったのではないでしょうか」


 正直なところ、彼女相手では当て馬にすらなれないような気がする。

 状況を理解していてあえて道化を演じる(・・・)のであれば構わないが、訳が分からないまま演じさせられる(・・・・・・・)というのは、はっきり言って気分の良いものではない。

 元凶となった大公様にはちょっぴりどころではない怒りを覚えてしまうね。


「リュカリュカ、落ち着きなさい」


 ポンと肩に手を置かれ、窘めるように言われたことでハッと我を取り戻す。

 いつの間にか感情が外へと漏れ出してしまっていたようで、ミニスたち三人だけでなく楽しそうに言い合いを続けていた公子とライレンティアちゃんまで、驚いたようにこちらを見ていた。


「あ……、申し訳ありませんでした」


 やらかした。すぐさま謝罪をしたものの、微妙になってしまった空気が元に戻るには時間がかかりそうだ。


「悪いけれど、私たちはここまでにさせてもらうよ。リュカリュカも学園初日で疲れているだろうからね」


 真っ先に動いたのはトウィン兄さまだった。誰かが何かを言い出すよりも先に、ボクの手を取って部屋の外へと向かい始める。

 空気を読まない天然の面目躍如のようにも見えるが、この時の兄さまの行動は、ボクたち全員に気を遣ったものだった。その証拠に、余計な力が入っていたのだろうボクと繋いだ手が朝の時とは違って少しばかり固くなっていた。


 しかし、いくら何でもこのまま退出したのでは外聞が悪過ぎる。

 特にほとんど言葉を交わすことができていないライレンティアちゃんからは評判が悪くなってしまうだろう。せめて次の機会に繋がるような雰囲気にはしておきたい。

 「兄さま」と呼び止めて扉のすぐそばで振り返る。


「皆様、本日は急にお邪魔したにもかかわらず、心配りをいただきありがとうございました。ライレンティア様、詳しいことは次回の折にでも。その時はお茶を飲みながらゆっくりお話ししたいです」

「え、ええ。分かりました。今度はこちらから招待させていただきますわ」


 さすがは本物の御令嬢、ボクの拙い「逃げも隠れもしないし、呼んでもらえればちゃんと顔を出すよ」という副音声をしっかり理解してくれた。

 これで余計な邪魔が入ることなく彼女と話をすることができるだろう。


 最後にぺこりと頭を下げてから生徒会室を後にする。


「兄さま、ごめんなさい。それと助け船を出してくれてありがとうございました」


 朝と先ほどに続いて、三度兄さまに手を引かれながら校舎を歩いていく。周囲に人気がないのを見計らってから、ボクは半歩先を行く人に感謝の言葉を告げた。


「いや、こっちこそこんなことしかできなくて悪かったね。もっとライレンティア嬢と話したいこともあっただろうに」

「いいえ。ライレンティア様とお話をするには今の私ではまだまだ情報が足りていませんわ」


 せめて彼女の口から語られる物事を吟味できるくらいにはなっておかないと、あちらのいいように使われてしまうことにもなり得てしまう。


「それに、女同士でなければ話せないようなこともありますから」

「女同士の秘密の話か。覗いてみたい気がする反面、知るのが怖くもあるね」


 最後に茶目っ気たっぷりに付け加えてやると、ようやく肩の力が抜けたのか、兄さまが小さくふき出していた。


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