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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十三章 今さらジャンル変更とかできません
706/933

706 乙女ゲームですか?

乙女ゲームをプレイしたことはありませんが、なろうで悪役令嬢物をたくさん読んだ私に隙はない!……はず?

「ありがとうございます、兄さま。ご心配をかけてしまってごめんなさい」


 ニコリと、しかしどこか(はかな)げな印象を与えるように微笑みかけると、途端に明後日の方へと向いてしまうトウィン兄さま。

 爪の先で鼻の頭をかいて誤魔化しているけれど、その頬は明らかに紅潮していて照れているのが丸分かりだね。

 まあ、こちとら超が付く美少女のリュカリュカちゃんですので、そうなってしまってもさもありなんというところだ。


「とにかく、無理だけはしないようにね」


 それでもこちらを気遣ってくれるのだから兄さまは本当に優しい人だ。自慢ばかりをしていたどこかの公子とは大違いだよ。


「ぬあっ!?き、貴様は!まさかポートル学園に通うことになったというのは本当だったのか!」


 ……とか考えた瞬間にダメ公子の登場ですよ。どこかで登場のタイミングを見計らっていたのではないかと邪推してしまいそうになるね。

 それはともかくとして、今の台詞はいただけない。だってあの時の謁見は非公式なもので、つまり、ボクと彼とは面識がないということになっていたからだ。


「おや?リュカリュカはジャグ公子と会ったことがあるのかい?」


 ほらみたことか。詳しいいきさつを知らない兄さまから、不思議そうな顔で尋ねられることになってしまった。

 余計なことを言いやがって!という気持ちを込めてギロリと公子を睨みつけてから、兄さまの方へ顔を向ける。もちろん、表情はデフォルトの微笑みへと変化済みです。


「実は、先日の編入試験の際にお会いする機会があったのです。とはいえ、公子殿下だとは知らずに随分と失礼な真似をしてしまったのですが。あの時はご無礼を働いてしまい、誠に申し訳ありませんでした。改めて謝罪いたします」


 再び公子へと向き直り、話を合わせろと圧をかける。

 さすがに失言だったと気が付いたのか、


「あ、ああ。許す。事情が事情だからな。仕方がないことだ」


 とそれらしい言葉を口にしていた。それをきっかけにして、兄さまと公子の会話が始まってしまう。


「もしや、この子(リュカリュカ)の事情をご存じだったのですか」

「ああ。大まかにではあるが父上や宰相、それにそなたの父のジェミニ侯爵からも話を聞いている。ことは私にも深くかかわってくることなのでな」

「なるほど。言われてみれば確かに当事者と言える立場ですね。しかし、だとすると公子にこの子が学園に馴染めるよう取り成しを頼むのは難しいかな……」

「そ、そうだな。立場的に私は誰よりも中立でなければいけないだろうからな」

「ミニスにローガー、スチュアートたちも同様でしょうか?」

「うむ。やつらを足掛かりにそれぞれの父親、さらには父上に取り入ろうと考えていると邪推するやからも出てくるだろう」


 ミニスとスチュアートはあの非公式謁見で会った宰相さんと侍従長の息子で、ローガーが参加を辞退した近衛騎士団長の息子とのこと。

 なんだその地雷感満載なラインナップ……。公子妃候補という立場がなくても、誰か一人とだけでも仲良くなった途端に嫉妬とやっかみから面倒事が発生してしまいそうだわよ。


 だけど、ここで「絶対にかかわらないようにしよう」と計画を立てるのはよろしくない。逆にあちらが興味を抱いてしまい、積極的に接触を図ってこようとする泥沼に陥ってしまうからだ。

 なのでちょっぴり顔馴染みになって適度な距離を保つことが正解ということになる。ボクは詳しいのです。


 ちなみに、ミニスは冷静沈着な頭脳派タイプで、当然のようにメガネ装備。

 ローガーは逆に筋肉万歳な体力系。

 スチュアートはなんでも小器用にこなす反面、これといった得意なものがない器用貧乏な年下子犬(わんこ)種とのこと。

 唯我独尊なジャグ公子も含めて全員キャラが濃いなあ……。苦労性なトウィン兄さまが一服の清涼剤だわ。


 それにしても門の前で話し込んでしまったためか、すっかり人目を引いてしまっている。これはもしかしなくても今の段階で既に嫉妬とやっかみを向けられる対象になってしまっているのでは?

 兄さまと二人だけの時はそうでもなかったというのに、本当にこの公子様が絡むと碌なことにならないなあ。


「あの、兄さま。他の方々のご迷惑になってしまっているのでは……」

「おや、本当だね。それに時間も押してきているようだ」


 くいくいと上着の裾を引っ張り、この場から離れることを提案する。そんなボクの姿を見て、公子が目を見開いて驚いている。かと思えば、次の瞬間には瞳に黒い炎をちらつかせていた。

 どうせ自分の時とはまるで態度が違うと苛立っているとかそんなところだろうね。

 そんな暇があるなら己の態度を改めればいいのに、と思ってしまうが、次期大公として常にちやほやされてきた彼には難しいのかもしれない。


「我々はこれで失礼します。教官室にリュカリュカを送っていかなければならないので」

「あ?ああ、そうだな。……だが、そのものも我が妃候補の一人だ。兄代わりとはいえ節度ある態度を心がけてもらいたい」


 こんのバカ公子!いくら表向きの事情とはいえ、こんな場所で言っていい内容ではないでしょうに!

 あっちのお嬢様やそっちの坊ちゃんが、さっそく敵意むき出しで睨んできているじゃないですか!


「そういうつもりはなかったのですが……。では誤解をされない程度に仲良くやっていくことにします」

「兄さま!?」


 ツッコむところというか、気にしなくちゃいけない部分はそこじゃないです。

 まさかここにきて兄さまが天然体質だったことが判明するとは……。


「それじゃあ行こうか」


 しかもさりげなくボクの手を引いて歩いているし。赤の他人からは完全に誤解されそうな絵面になっていると思う。

 さしものバカ公子も、舌の根も乾かない内のこの行動には呆気に取られてしまったようで、文句を言うこともなく唖然とした表情で見送っていた。

 当然他の人たちはそれに(なら)うしかない訳で。


 これ、時間がたって思考がまともに機能し始めたら大騒ぎになりそう……。

 この予想は的中し、ボクと兄さまが後者の建物に入った瞬間、悲鳴と怒声となぜだか雄叫びが入り混じった、何とも形容しがたい声が響き渡ってくる。


 この騒ぎは教官室にも届いており、初日が始まる前から微妙に居心地の悪い時間を過ごすことになってしまうのだった。


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