699 ビックリ箱
本日三話目です。前話などを読んでいない人は注意。
しかし、それでひるむ忍者カッコカリではなかった。
「はあっ!」
「ぐっ!」
忍者刀をイメージしたものなのか片刃の直剣でもって切り込んでくる。ミルファはそれを左手の件でしっかりと受けるが、予想以上に重たかったようで苦悶の声が漏れ出てしまっていた。
「ミルファ!」
リーヴが出てこられない今、〔防御用短剣技〕を取得していて【パリィ】や【ブロック】といった防御系の闘技を使用することができる彼女はボクたちパーティーの守りの要だ。
さらに攻撃を加えようとする忍者カッコカリ――長いね。……以降は『仮忍者』と呼ぶよ――を食い止めるべく体ごと間に割って入る。
「助かりましたわ」
「たっぷり感謝するように」
さっきの近距離での魔法発射という意表を突いた行動が功を奏したのか、仮忍者はすぐに追撃をあきらめて距離を取ることを優先したのだった。
目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、唯一あらわになっているそこからは様々な負の感情が放出されているね。大方、思い通りに動けないことへの苛立ちだろう。
あいつの頭の中でボクは、ビックリ箱のように何が飛び出してくるのか分からないうっとうしい存在として認識されつつあるのではないかな。
実際は単発の使い切りでしかないのだけれど。急に飛び出してきた張りぼてのお化けに驚いてしまい、まだ細工が残されているのではないかと疑って見ているような状態という訳。
とはいえ、こちらに有利であることに違いはない。簡単に壊されてしまわないように、張りぼてにメッキ加工を施すとしましょうか。
「えーい!とう、やあ!」
ぶんぶんと風切り音がするくらいに牙龍槌杖を振り回しながら、仮忍者に続けざまに攻撃していく。大振りである分威力は上がっている上に相手は忍び装束的な紙装甲な見た目だ。当たればただではすまないダメージ量となるはず。
もっとも『OAW』には見た目詐欺な頑丈さを誇る魔物素材などがあるので、実は金属製の全身鎧よりもよほど防御力が高いということもあり得るのだけれど。
それ以前に、当たらなければどうということはない訳でして。
分かりやすい予備動作の大振りだし、直線的な軌道で読みやすいということもあったのだろうが、物の見事に全部避けられていますな。
むう……。さすがにここまで当たらないというかかすりもしないとなると、ちょっと腹立たしくなってくるね。
「くっ、このお!」
「ちょっ!?リュカリュカ!?そんなやり方では体力を消耗するだけですわ!」
「止まって、一度落ち着いて!」
ムキになって武器を振るうボクに背後から仲間たちの制止を求める声が投げつけられる。
そんな様子に好機を見出す者がいた。言わずと知れた仮忍者だ。それまでは避けながらもこちらを探るようにしていたのだが、ミルファたちの声が聞こえた途端回避に専念し始めた。
しかもこちら攻撃をあざ笑うかのように紙一重でかわすという挑発行為付きだ。
「うがー!むかつくう!」
苛立つごとに大振りは度合いを増し、力むことで制御も悪くなっていく。それある一点を超えたところで、
「あっ!?」
左から右への薙ぎ払いの動きを止められず、ほんの少しだけ体が傾いてしまう。
「でやっ!」
それを待っていた!と言わんばかりにひとっ飛びで距離を詰めてきたかと思えば、右手に持つ片刃の剣を振り下ろしてきた。
避けられない!?
……でもまだできることはある。
「ぐうっ!」
振り下ろし始めの勢いがまだ乗っていない剣へと左手を延ばし、その根元をがっちりと掴んだ。
動く物体を受け止めた衝撃とゲーム用の処理として痛みの代わりに発生した衝撃が重なって、左腕が押しつぶされたような感覚に陥ってしまう。
吹き飛びそうになる意識を懸命につなぎとめて、大丈夫だと自分に言い聞かせていく。
こちらから受け止めに言ったことでダメージは大幅に減少されている。かすり傷と言えるほど軽くはないにしても、行動に支障が出るようなものでもなかった。
だからボクは目の前にある頭巾に覆われた顔に向かって、笑顔で言ってやった。
「左手に傷を負わせたことで御相子だと思った?残念、こちらの方が一歩上手だよ」
言い切るや否や右手に持つ牙龍槌杖を、普通のハルバードであれば斧刃に当たる槌部分を片刃の剣の側面へとぶち当てる!
左手で掴んで固定していたこともあってまともに衝撃が伝わることになった剣は、ぶつかった直後に、パキーン!と甲高い音を残してへし折れていた。
さて、剣と刀に違いは色々あるけれど、この時のボクは刀の持つ二つの特色を利用するように行動している。
一つは斬るという動作が必要になること。一般的に勘違いされやすいのだけれど、刃物というものは刃の部分に触れただけでは切れたりはしない。刃が動くことによってはじめて切り裂くことができるのだ。
気になる人はお肉などを切っている動画を見てみるといいよ。包丁を動かすことで初めて肉や魚が切れていくのが分かるはずだ。
刀も同様で対象に刃を当てた状態で引く、つまりは斬ることで初めて深い傷を負わせることができるようになる。
だから反対に言えば動かなければ斬ることができないということでもあるのね。
仮忍者の片刃の剣が忍者刀に似通っているというのは以前説明した通りで、それならば同じ特性があるだろうと思っていた。
予想は見事的中し、剣の根元を掴んだ固定したため素手だったにもかかわらず、深手の傷を負うことはなかったのだった。
二つ目は、斬ることに特化しているため薄く細いという点。武器なので荒っぽい扱われ方をされることが前提になっており、その分丈夫に作られていることを差し引いても、刀は細くて薄いものが多い。
これはそのまま破壊されやすいという弱点となる。
まあ、持ち主が達人級ともなれば話は変わってくるのだろうけれど、幸いにも今回の適役となった仮忍者にそこまでの腕はなかったようだ。
無事に思惑通りその得物を壊すことができたのだった。
「よい、しょお!」
ボクよりも半分ほどの小柄な体を強引に押し返す。この一連の流れは完全に想定外のことだったらしく、へたりこむことこそなかったものの、仮忍者はされるがままとなっていた。
これ幸いと回復アイテムを取り出して左手の治療を行う。
「一応言っておこうか。降参するなら今の内だよ」
明日と明後日は、6:00と18:00の一日二回更新です。




