676 派手な魔物たち
三日後のお別れ会は盛況のうちに幕を閉じ、翌日にはボッターさんは元気にクンビーラへと戻っていった。ネックだった護衛の冒険者も無事にベテランで優秀な人たちが見つかっていたし、ボクたちが一緒だった往路よりも安全安心な復路となっているのではないかな。
まあ、その冒険者たちもお別れ会に参加することになるとは思わなかったけれど。
おかげで余った料理は全てボッターさんのアイテムボックス――プレイヤーのいわゆるインベントリではなく、ゲーム内に存在するマジックアイテムです――行きとなってしまった。
とはいえ、それで冒険者たちがやる気になって彼の身の安全が守られるのであれば安いものだ。
余談ですが、ボクの料理を食べた冒険者たちがクンビーラでソイソースなどを買い込んだことがきっかけとなり、ソース類が『水卿公国アキューエリオス』へと輸出されることになっていくのだけれど、それはまた別のお話。
そんなこんなで今日もボクたちは元気にクエスト、討伐依頼をこなしていた。
なぜ討伐依頼なのかというと、それしか受けることができなかったからだ。比較的簡単なものが多い街中の依頼は低等級者向けという暗黙の了解がある。そのため、もうすぐ六等級に届こうかというボクたち『エッグヘルム』では受けることができなかった。薬草などの採取も右に同じだね。
次に、エルからのお願いだったこともあり、基本的にジェミを離れるつもりがないため他所の街へと移動する護衛系の依頼も受けられない。
中には魔物の生態調査や植生調査といった変わり種もあったのだが、それらは必然的に強力な魔物が出現する区域へと赴くため、今度は等級が足りないと判断されてしまったのだった。
確かに依頼者を守りながら強い魔物を相手にできるほどの実力を持っていると言えるだけの自信はないから仕方がないね
という訳で、消去法的に街から少し離れたフィールド上に出現する魔物を倒すという依頼ばかりを受けることになっていたのだった。
「リーヴとエッ君は無理に攻撃しようとしないで、視界を奪うまではトレアが狙い易いようにカブキワニの動きを止めることを最優先にして!」
うちの子たちが相手にしているのは、ここ数日で狩ることにも慣れてきた大型の鰐、カブキワニだ。鰐らしく巨大で強靭な顎による噛み付きもさることながら頑丈かつしなやかな尻尾の振り回しも致命傷となる恐ろしい魔物と言える。
カラフルな色彩の市松模様柄の皮を持つ、傾奇者も真っ青なド派手な鰐です。加工された革は目立ってなんぼの貴族様たちに愛用者が多いのだとか。
趣味悪くない?と思ったのはここだけの話。
しかし、ボクたちの一番の狙いは皮ではなく、お肉の方だったりする。ボクはそんな機会がなかったけれど、リアルでも結構食べられているそうだからおかしくはない、かな。
冒険者協会の職員さんいわく、「外見はからは想像がつかないくらい美味い」そうです。
そんなカブキワニだが、狙い通り動きが止まったところでトレアの矢が目を貫き失明し、以降は危なげもなくトレアとエッ君によって経験値アンド皮とお肉へと変化させられたのでした。
一方のミルファとネイトが相手取っていたのは、これまた派手な見た目のファッショナ・ブルだ。真っ赤な地毛だけでも目立つところなのだが、それに加えて白や黒で「版権大丈夫?」と見ているこちらが心配になるくらいに多種多様な作品のイラストが描かれているという、別の意味で心臓に悪い魔物でもあるね。
某機動戦士とかプリティでキュアな女の子とかが描かれていたことには突っ込まないですよ!
こちらはその巨体を生かした突進や鋭い角でのかち上げがメインの攻撃方法だ。正面からぶつかればリーヴの【ハイブロック】すら打ち破るだけの威力をもっていた。
もっとも、スピードに乗るまでに時間がかかる、進路変更ができないなど巨体であることが弱点にもなっており、それらを上手く突いてやれば、彼女たち二人でも十分倒し切れる相手となる。
「ブッフゥオオオオオ!?」
突進を避けられて急制動をかけようとしたファッショナ・ブルがおかしな体勢で転がっていく。さんざんネイトの魔法やミルファの切り付けによってダメージを蓄積させられていた左前足が、ついに自重を支えきれなくなってしまったのだ。
こうなってしまえばもう、巨大な的でしかない。急所である腹側や首筋を狙われ、こちらも大量のお肉を残してその姿を消してしまうのだった。
「こんぐらっちゅれーしょん、だね。今日もお肉が大量だ!」
「毎日のように狩っているのですし、このくらいはできるようになって当然ですわね」
「二人とも油断は禁物ですよ。……とはいえ、一度にたくさんの魔物と戦闘にでもならない限りは苦戦することもなさそうですが」
圧勝したことで得意になるボクとミルファをネイトが窘める。まあ、半分ほどは既に様式美と化していたけれどね。
先ほどの戦闘も、お伝えしたのはカブキワニ一体とファッショナ・ブル一体だったが実はその直前にひたすら魔法や弓などの遠距離攻撃を打ち込んで弱らせておいて、接近してきたところで一気に叩くという戦法でもう一体カブキワニを倒していたりする。
MPや矢の消耗が激しいから、あまり良いやり方とは言えないのが難点かな。だけどそのお陰で残る二体を安全に倒すことができたのだから、全体としてみれば正しい戦略だったと思う。
さて、なにゆえボクたちが連日大量の魔物肉を集めているのかというと、ボクたちが美味しく頂くため、ではなく、そういう依頼であるからだ。
おっと、これでは身も蓋もなさすぎるから、もう少し詳しく説明をするね。
依頼自体はカブキワニやファッショナ・ブルの討伐なのだが、これらの魔物肉を納品することがサブクエストというか追加で依頼されていたのだ。
何故そんなことになっているのか?原因はタフ要塞にあった。
件の要塞にタカ派の貴族たちの領出身者を中心に多くの兵士たちが集まってきているのは、これまでにも説明したとおりだ。で、大勢の人がいると当然、その分の食糧が必要になってくる。
正直な話、勝手に押しかけて来たのだからそのくらい自分たちで何とかすればいいのにと思わなくはなかったのだけれど、それをやられてしまうと要塞付近の魔物を好き勝手に倒しまくって生態系や自然環境を滅茶苦茶にしてしまうらしい。
居るだけで迷惑とか、疫病神か。
そうした事情もあって、利敵行為になってしまうとは分かっていながらも、ジェミの冒険者協会では渋々魔物のお肉を集めているのだった。




