669 イベントやクエストのネタは各地に仕込まれている
「どうしてこうなった!?」
足元にすり寄ってきたりその場でころころと転がってみたりとフリーダムな動きをするストレイキャッツを前に、巻き込まれ系主人公もしくはやらかし系主人公のような台詞を口走りながら、ボクは事の起こりを思い出していた。
冬休み明け初日から体育――寒空の下ひたすら運動場を走る長距離走だったよ……――を含む授業をしっかり丸一日受けて帰ってきたボクは宿題に予習、晩ご飯やお風呂を終えてからゲームにログインしていた。
ボッターさんにロナード代官との対談について大雑把に説明する、という追加のお仕事はあったものの、予定通り翌朝にはニミの街を出発してジェミニ領の領都であるジェミを目指して街道をてくてくと歩き始めたのだった。
解放された別エリアに入っているとはいっても、スタート地点から数日分の距離しか離れていないこともあって、街道沿いに出現するのは雑魚ばかりとなっていた。
この調子で行けば問題なさそうだと判断したボクは、スキップ機能を使って移動を早めることにする。
途中、タフ要塞へと向かう脇道を横切る際など緊張する部分もあったのだが、タカ派からの襲撃を受けることもなく時折街道へと迷い出てきた魔物を倒す程度で足止めを受けることなく北上を続けたのだった。
お昼ご飯を食べたり、うちの子たちを含めて交代で荷馬車に乗って休憩したりしながら先へ進む。
ホームグラウンドであるクンビーラならともかく、他所の街や村ではエッ君たちを『ファーム』から出してあげることはできない。
よって、旅路の最中はうちの子たちとの触れ合いの時間でもあるのだ。
異変があったのはそろそろ本日のお宿である村が見えてくるかな?という頃合いだった。
ボクとネイトの〔警戒〕技能に反応があったのだ。
「ネイト」
熟練度の高い彼女の方がより多くの情報を得られている可能性が高い。
よって、詳しい説明はネイトにしてもらうことにする。
「はい。三百メートルほど前方、道の右手側の茂みに複数が潜んでいます。ですが、魔物にしては様子がおかしいですね……」
その言葉に従って前方を注視してみると、街道のすぐ脇に背丈の長い草が生い茂っていた。いかにも不埒者や魔物が潜んでいそうなのに放置されていることや、それを避けるように緩やかに「くの字」に折れ曲がっていることから、何かしらの事情があるのかな。
ニミの街で活動していたなら、いずれ関連したイベントやクエストが発生するのかもしれない。
「例のタカ派やそれに協力している第三者が潜んでいるかもしれませんのね」
「人間だけじゃなくて魔物も潜んでいる可能性があるから油断しないで。ボッターさんはいざという時には、馬車で先に逃げられるようにしておいてください」
「護衛と別れると碌なことがないんだがな。まあ、村にまで逃げ込めれば何とかなるか」
もちろんそれは最悪の場合の最後の手段というやつだ。
護衛のいない荷馬車なんて野党などの襲う側からすれば体の良い獲物にしか見えないため、まさに襲ってくれと言っているようなものだからね。ボッターさんが言ったように、間違いなく碌なことにはならないだろう。
「多分、最接近したところを横から襲うつもりだと思うから、みんなしっかり準備しておいて。安全地帯が近づくことで気が緩みがちなタイミングを狙ったのだとすれば、かなり場慣れしている可能性もあるから。座敷童ちゃんも危ないと感じたらすぐに『ファーム』に逃げ込むこと」
ボクの言葉に荷台に腰かけていた座敷童ちゃんは神妙な顔でこくこくと頷いていた。
まあ、これまでの魔物との戦闘の時にも早めの避難をしていたので、よほど気を抜いたりしない限りは大丈夫だとは思うのだけれどね。
話している最中にも足は動いているので、当然のように不審者らしき存在が潜んでいる茂みにどんどんと近付いていた。
「……こっちから魔法を撃ち込んだりしちゃダメかな?」
「止めとけ。魔物だけならともかく人間がいるとなると、逆に付け込む隙を与えることになるかもしれん」
特にボクたちの仮想的であるタカ派に所属する連中は、曲がりなりにも兵士などの公的な身分を持っている確率が高い。
そのため調査や確認もせずに攻撃をする危険人物として、身柄を拘束するための格好の口実となってしまうかもしれないのだとか。
「土地勘があり伝手やコネがある地元の人間の方が有利なのは世の常ですよ。冒険者のほとんどが拠点を定めて、そこを中心に活動しているのもそのためです」
この中では最も冒険者歴の長いネイトからの説明に、ボクとミルファの新米冒険者組はなるほどと頷いていた。
そんなボクたちの雑談交じりの態度が都合良く緊張感に欠けただらけたものに見えたのだろう。
まだ少しの距離があったにもかかわらず、「や、やるぞ!」という掛け声?を追いかけるようにして、四人の男たちが茂みから飛び出してきたのだった。
距離があるということは、すなわち接触するまでの時間があるということに他ならない。その貴重な時間を、ボクは〔鑑定〕技能で相手の情報を得ることにした。
とはいえ、全員に仕えるほどの余裕はない。そこでリーダーじゃないかなと思われなくもないと言えなくもないだろう先頭を走る男をターゲットにする。その鑑定結果がこちら。
『デンス。二十四レベル。水卿公国軍兵士。スコルピオス領出身。HP減少継続中』
ゲームバランスさんが仕事をしてくれたのか、レベル的にはボクたちでも十分対処が可能な強さだと思われます。
人数的にもボク、ミルファ、エッ君、リーヴがそれぞれ一人を受け持ちながら、ネイトとトレアの援護を受けながら各個撃破していくという流れがベストかな。
この時、彼の『HP減少継続中』と文字にもっと気を配っていれば、後の展開も少しは違ったものになっていたのかもしれない。
しかしボクは、単に有利な情報だと一瞥しただけで深く考えようとはしなかった。
「や、やれえ!」
かすれた声が張り上げられたかと思えば、四人はその場に立ち止まりこちらへと何かを投げてくる。
すわ攻撃か!?と見まがえたボクたちの足元に転がってきたのは、手作りだと思われる布製のボールだった。どうしてそんなあいまいな言い方なのかというと、どれもこれもボロボロになっていていたからだ。
そして数秒後、ボクたちはお手製ボールを追いかけるようにして茂みから飛び出してきた小さなものたちに取り囲まれていたのだった。




