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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十一章 『水卿エリア』での冒険
661/933

661 代官、ロナード・マクスウェル

 通されたのはその部屋の(ぬし)――プレートに書かれてあった通りであれば――には似つかわしくない質素な一室だった。

 いや、むしろ殺風景?

 必要最低限の物だけしか置かれていないという感じだ。


 さすがに掃除はしっかりとしてあったようで、埃臭さなどは感じないものの、生活感をまったくない空間だった。

 別に執務室のような場所があって、ここは普段使いはしていないということなのかな?他人に聞かれたくない話をする時などにしか使用していないのかもしれない。

 いずれにしても、歓迎されているという雰囲気は皆無だった。


「クンビーラより来られた冒険者の方々をお連れしました」


 ……ふむ。ミルファのこともクンビーラ公主一族の娘ではなく、冒険者として扱うみたいだね。

 仮に詳しい事情を知らされていないとしても、途中でお嬢様モードとかやらかした――仕方がなかったことなんです!――から、彼女の身分が高いことは理解できているはずだ。

 それにもかかわらず「冒険者の方々」と言ったのだから、こちらもそのつもりで心構えをしておくべきだろう。


「ご苦労。それでは市中の警備に戻れ」

「はっ!」


 部屋の主と極めて業務的なやり取りを交わすと、警備兵団の人たちは順次部屋から出て行ってしまう。

 おーい、ボクたちに挨拶はなしですか?と思っていたら、最後にリーダーっぽい人が代表でボクたちに向かって小さく目礼をしてから去っていった。

 少なくともこの人は、ボクたちにいくつもの借りができてしまったことにも気が付いているようだね。

 取り立ての際には、まあ、できるだけ手加減してあげるとしようと思わなくもない。実際は状況次第だから、その時になってみないと分からないけれどね。


 警備兵団の面々がいなくなったことで広くなった部屋の中――半数は扉の外で待機となっていたのだけれど、残る五人が一緒に入室していたのだ――で、ボクたちは主だと思われるニミの街の代官と改めて向かい合っていた。


 ああ、もちろんボクたちだけということはなく、暫定代官の後ろには護衛なのだろう鎧を着込んで腰には剣まで佩いている完全武装の男女のペアがいるし、片方の壁際には執事っぽい人やメイドっぽい人も控えていた。

 さらに外にも見張りの人が数名いるし、部屋に入る直前に使用した〔警戒〕技能によれば、隣接する隠し空間らしき場所にも潜んでいる人がいるらしい。忍者か。


「ほう……。私を前にして臆した様子を見せないとはな。見た目によらず修羅場をくぐってきているのか」


 初手から口撃(・・)してくる暫定代官さん。ボクたちだけでなく自分の外見ですらネタにしているから、失礼だとも返せない。

 やれやれ。背後に立つ護衛の人にも負けない度合いの筋骨隆々さなのに、頭の中は運動ではなく知識でしっかりと鍛え上げられているもよう。


 お顔は醜い訳でも大きな傷跡がある訳でもなく、むしろハンサムに分類される方だった。

 しかし、なまじ整っている分冷ややかな眼差しと冷笑するような口元が強調されていて、控えめに言ってもかなり怖い。

 威圧するような雰囲気と相まって、初対面の相手であれば委縮してしまうケースも多いことだろう。

 まあ、わざとそう仕向けているのだろうけれど。


「お初にお目にかかります。ニミの街を治める代官様とお見受けいたします。冒険者パーティー『エッグヘルム』を代表して私、リュカリュカ・ミミルがご挨拶をさせていただきます」


 ちらりと一瞬仲間たちと視線を交わし、一応リーダーとなっているボクが挨拶の口上を述べる。

 ちなみにこれ、副音声では「教えてもらっていないから間違ってたらごめんねー。というか初対面なのに挨拶もなし?しょうがないからこっちから名乗るわ」と流れていたりします。


 ぺこりと頭を下げてからニコリと笑みを浮かべてやれば、暫定代官の彼はヒクリと頬を引きつらせていた。

 他にも護衛の二人は明確な敵意が漏れ出しているし、執事とメイドのコンビからも射殺さんばかりの鋭い視線を感じられた。

 執事さんたちはともかく、護衛の二人にもしっかり嫌味が通じたのは驚きだった。部下もしっかりと鍛え上げているみたいだね。


 そうなると挨拶や名乗りがなかったのは、こちらがどういった対応を取るのかを確認するためにわざとやらかしたことだったのだろう。

 ミルファを冒険者として扱ったことも、不敬だとボクたちが言い出せないようにするための布石だったのかもしれない。


「で、いつまでやらせておくつもりですか?女の子に向ける態度としてはまるでなっていないように思うのですが。……それとも、これが『水卿公国』流の歓待のやり方なんでしょうか?あ、ついでにお名前やお役どころも教えてもらいたいですねえ」


 正直なところ、ブラックドラゴンどころかこれまでに戦ってきたボス級の魔物たちの方がよほど恐ろしかったのだが、だからと言っていつまでも悪感情を向けられているというのも気分がよくない。

 いきなり連行された恨みもあったので、ついつい言葉が刺々しくなってしまう。


「……揶揄(からか)うには相手が悪過ぎたようだな。部下たちと、そして私自身の非礼を詫びよう。そして改めて、ようこそニミの街へ。代官を務めているロナード・マクスウェルだ」


 詫びようとか言いながらも、ロナード代官からは反省した様子は全くなかった。しかも部下たちを(たしな)めようともしていない。

 一筋縄ではいきそうにない相手だとは思っていたが、これは相当な食わせ物かもしれない。

 まあ、それならそれで応対するだけだ。


「歓待の言葉だけは受け取りますが、口だけの詫びは結構です。それよりも部下の方々のしつけをちゃんとしておいて欲しいものですね」

「人材の育成すらもままならないほどに緊急の訪問があったものでな」

「へえ。それは非常識な人ですね。きっと逆の立場でも同じように、相手の意向を無視して挨拶に来させることでしょう」


 うふふ、あはは、と時折笑い声を交えながら、ボクとロナード代官は白々しい会話を続けていく。

 うーむ……。まさかこんな場所で里っちゃん直伝の毒のある話術についてこられる人と出会うとは思ってもみなかったよ。


 しかし、それだけにこの人を抱き込むことができれば、ブラックドラゴンが本当にクンビーラの守護竜となっていることをジェミニ領だけでなく、『水卿公国』全体に知らしめることだって可能になる気がする。


 ここは一つ、頑張ってみることにしましょうか。


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