632 報告会 1
アコの献身的な協力のお陰で、一カ月を超えるかもしれない旅路をショートカットして無事にクンビーラに帰り着いたボクたちだったのだが……。そこからもまた大変だった。
あ、余談ですが、転移した先はボクとエッ君が数多のブレードラビットたちとの死闘を繰り広げた、クンビーラの街の東にある林でした。リーヴと出会った場所、とも言えるね。
街に入るために東門へと到着、までは良かったのだが、そこで見覚えのある衛兵さんたちと遭遇したのが運の尽き?
身柄を確保、いや捕獲されてあれよあれよという間に公主様たちのいるお城へとアラホラサッサと運び込まれてしまったのだった。
随分な扱いのようにも見えるけれど、考えてみればボクたちがクンビーラを旅立ったのはゲーム内時間でもおよそ四十日も前のことであり、ドワーフの里を出て音信不通の行方知れずになってから二十日近くの時間が流れていたのだ。
そんな折にひょっこりと現れたのだから、何はともあれ保護を優先しようと行動に出てもおかしくはない。……まあ、本音を言えばもう少しくらいは丁寧に扱って欲しかったけれどね。
一時間後、お城へと連行されただけでなく、メイドさんたちによって身を清められた挙句に綺麗なおべべを着せられる羽目になっていた。
その際、
「ちょっ!?そこは自分でやりますから!?」
「あ、あの、わたしも自分で洗えますので!」
「二人とも何をやっていますの。大人しく彼女たちにお任せなさいな」
などというやり取りがあったとかなかったとか。
ちなみに、うちの子たちはさっさと『ファーム』へと避難していた。いつもながら高い危機管理能力をもっているようで、マスターのボクとしては鼻が高いよ!
そして、いつかに使用した大会議室のような場所で公主様たちと対面していた。
あの時と異なるのは官僚でもある男爵位の貴族たちなどがおらず、その代わりに公主妃のカストリア様、さらにはお二人のお子様のハインリッヒ様と、公主一家がそろい踏みをしていたことかな。あと、宰相様も当然いるよ。
「色々と言いたいことも聞きたいこともあるが、まずは三人とも無事に帰ってきたことを喜ぶとしよう」
「温かいお言葉に心より感謝を申し上げます。そしてご心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
緊急召集されたのだろう高位貴族の人たちもいたので、公主様の言葉には臣下というかそれっぽい調子で答えるようにする。
「ふむ……。よし、堅苦しいのはここまでにするぞ」
「公主様……。まあ、仕方がありませんか。ミルファシア様もいらっしゃいますし、リュカリュカ殿たちはクンビーラの家臣という訳でもありませんからな」
公主様の「堅苦しいのは面倒臭い」発言に、顔をしかめつつもコムステア侯爵がそれらしい言葉で追従する。
遠回しに気を遣って頂いてありがとうございます。
あれ?そういえば侯爵の息子でミルファの婚約者でもあるロイさんことバルバロイさんがいないね?
「愚息であれば東の町で代官を務めさせているよ。このままではミルファシア様と釣り合いが取れなくなるやもしれないのでな」
「焦る必要はないと言ったのだがのう……。かえって逆効果だったようだ」
「本人が相当やる気になっていたから悪い方には転がらないだろうとは思うぞ。まあ、補佐と監視は付けてあるから、やつのことは心配いらない」
侯爵に宰相、公主様とロイさんの状況について続けて語られる。質問した訳でもないのに、的確に回答されるとちょっぴり怖いのですが……。
でも、まあ、ロイさんも頑張っているようで何よりです。
ボクの右隣でミルファが真っ赤になって俯いているのが可愛い。思わず逆側の左隣りに座っているネイトと、楕円の机越しの真向かいに座っているカストリア様との三人で、ニッコリ笑顔で頷きあってしまったよ。
「さて、そろそろ本題へと入るとしよう。『土卿王国』での件については冒険者協会のデュランから大まかには聞き及んでいる。問題はその後だ。リュカリュカよ、ドワーフの里を最後に連絡が途絶えて以降、お前たちはどこで何をしていたのだ?」
場が温まったと判断したのか、公主様は一気に切り込んできた。本音を言えばディランたちの安否だけでも先に聞いておきたかったのだが、クンビーラのお偉いさんたちへの報告の場として整えられてしまっている以上、折れるより他はなさそうだ。
何と言ってもクンビーラの貴人であるミルファを連れ回しているからね。あちらを立てない訳にはいかないのだ。
もっともミルファの場合、「貴人」という言葉の前に、枕としてそろそろ「一応」という二文字が付いてしまいそうな気もするけれど。
それと公主様の性格上、本当に不味いことは誰からの有無も言わさずに真っ先に話してくれるように思う。
それがなかったということは、彼らは無事である可能性が高いということではないだろうか。
もちろん、ボクの願望が多分に含まれていることは否めないが、深刻になったところで話題の順番が変わることはない。
それならば気持ちを穏やかにして話せるように仕向けた方がいい。
「最初に確認なんですけど、ドワーフの里を出発した後、山中のとある洞窟でボクたちが『ジオグランド』の部隊と鉢合わせたことはご存知ですか?」
いきなりの質問に気を題した様子もなく頷いて見せる公主様たち。なるほど。やはり彼らはおじいちゃんたちの安否についても知っていると見て間違いなさそうだ。
それならばあの時の顛末から話していけばいいかな。
「あちらの調査部隊と鉢合わせたボクたちは、多勢に無勢のため洞窟内を逃げ回ることになったんですけど、一室で事故がおきまして……。保管されていた天然の蓄魔石の魔力が壊れかけていた魔法陣に流れ込んで暴走、その影響で見ず知らずの場所へと転移させられてしまいました」
「なんと!どこにも姿が見当たらなかったというのは、そういうことだったのか。……しかし、一体どこへ転移させられたというのだ?『転移門』が使えず、『冒険者協会』経由で連絡の一つもできない場所など、アンクゥワー大陸がいくら広いと言っても、そうそうあるものではないぞ?」
そうだよね。知らなければそう思うよね。
「ボクたちが転移させられたのは『火卿帝国フレイムタン』、その中央付近にある領地でした。そして『フレイムタン』では現在、帝都や一部の街を除いて、『転移門』が使用できず、『冒険者協会』もまともに機能しなくなっていました」
ボクの言葉に、その場にいた人たちのざわめきが一気に大きくなったのだった。




