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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ
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627 ボクたちのことを信じなさいな

 高位貴族(いいところ)のお坊ちゃんどころではないのだろうとは予想していたけれど、本人のあずかり知らないところで勝手に担ぎ上げられるまでのレベルの立場だったとは、あれでいてリシウさんもなかなかに苦労をしていたみたいだね。


 とはいえ、これはあくまでも本題に付属したちょっとした雑談的なものでしかなかったりする。

 で、肝心の本題の方ですが……。


「タブーのはずの依頼人の情報まで開けっ広げにしてくるなんて、エルーニもえげつないやり方するなあ」

「はっはっは。先手必勝やいうて散々リュカリュカから思い知らされたからな!」


 何をおっしゃいますやら。確かにこちらの内情を(つまび)らかに暴露することで、「胸襟きょうきん開いて語り合いましょうか」とニッコリ笑顔で迫るのがリュカリュカちゃんの常套(じょうとう)手段ではあった。

 が、実はこれそれ以外に取れる方法がなかったとも言い換えることができるのよね。


 どうあがいたところでリュカリュカも優華(中の人)もミドルティーンの小娘ですから。高度な交渉術なんて知らないし使うこともできないのだ。

 まあ、だからこそエルーニが言ったように先手必勝でこちらの情報をぶつけてやることで、うまい具合にこちらの土俵へと引きずり込むことができていたという側面もあるのだけれど。


 加えてもう一点。エルーニをえげつないと評した理由として、彼我の戦力差がある。

 ただ、正直なところボクに相手の強さを正確に読み取る(スカ〇ター)は備わってはいない。リアルで武術の経験がある訳でもなければ、こちらでそれらしい技能を取得もしくは習得している訳でもないのである意味当然の結果だと言えるでしょう。

 なので、ここは頼りになる仲間に聞いてみることにします。


「ねえ、全力で戦ったら今のボクたちでもエルーニの一匹くらいをけちょんけちょんにできちゃったりはしないかな?」

「ちょっ!?言い方!」


 はい、けちょんけちょん――できるかな?――予定の部外者は黙っているように。


「無理ですわね」

「ええ。わたしたちが万全の体制でなおかつ奇襲が上手くはまって、ようやく相打ちに持ち込めるかもしれない程度でしょう」


 即答したミルファに続き、ネイトがその差を詳しく説明してくれる。


「そうかー。やっぱり無理かー」


 分かっていたこととはいえ、これでボクたちが取ることのできる選択肢は実質一つになってしまったといえる。

 つまりですね、エルーニはボクの真似をしながらも、話し合いの求めとそれに続くだろう要求を、その武力を持って強制的に押し付けることができる立場にあるのだ。弱々なボクたちでは到底真似できないやり方ですな。

 もっとも、真似したいとは思わない可能性が大だったりしますけれども。


「仕方ない。とにかく話を聞きましょうか。死にたくないしエルーニにはお世話になったし死にたくないからね。あ、大事なことなので二回言いました」

「いやいや、別にデッドオアアライブを迫っとるつもりはないんやけど……」

「可愛い女の子たちを相手に拒否権を奪って無理矢理迫ってる時点でアウトでしょう」

「せやから言い方な!?」

「はいはい。そろそろ本題に入りましょうねー」


 まあ、そこまでせざるを得ないほどあちらも追い詰められているのだと考えればそう悪い気もしない、と言えなくもないかな?


「ぐぬぬ……。相変わらず人のペースを乱すのが上手いやつやで。……こっちから確認したいことは一つだけや。リュカリュカ、お前らは皇帝派、いや、帝国に向かって弓引くつもりか?」


 ほほう。これはまたストライクど真ん中に剛速球ストレートを投げ込んできましたね。


「ボクたちの方から喧嘩を売るつもりはないよ。……ただし、そっちからちょっかいを出してくる分には全力で抵抗させてもらうけどね」


 こちらの答えとしてはリシウさんに告げたことと変わらない。そもそも一都市国家と衰退したとはいえ大陸屈指の大国では、国力でも戦力でも差があり過ぎる。

 それは今回手に入れることができた大量の緋晶玉だけで引っ繰り返せるほど容易(たやす)いものではないのだ。


「この状況で手を出すだなんて自殺行為以外のなにものでもないから」

「単独ではそうでも『土卿王国』を巻き込んだら、また話は変わってくるで。あちらさん、例の物をのどから手が出るほど欲しがっとったんやろ?」

「だから、大国相手に交渉をするには自力が違い過ぎるんだってば。『土卿王国』を相手にするくらいなら、まだ『風卿』の他の都市国家と話を付けて回る方が現実味があるよ。……って、本当にやるつもりはないからね!『三国戦争』を再び引き起こす引き金になってたまるもんですか!」

「い、今のはさすがに焦ったわ。『風卿』地域の都市国家群が一つになるやなんてことになったら、どこも介入せん訳にはいかんやろうからな……」


 大国三つの間にある緩衝地帯という役割があるからこそ、『風卿エリア』の都市国家群は存続を見逃されているのだ。

 同等規模の大国が生まれそうとなれば、間違いなく潰されてしまうはずだ。

 そうなれば今度こそ戦禍によって完全に人の住めない不毛の地となってしまうか、それとも大国三つの支配下になるかの二つに一つとなるだろう。


「ということで、しっかりと現実は見えているからさ。心配しないで。ちょっとばかり強い力を手に入れたからって、調子に乗ったりはしないよ」

「……はあ。しゃあないか。商人として儲けさせてもろた分くらいは信じたるわ」

「あっはっは。それならこの先一生ボクたちには逆らえないね」

「あほう。自分らからの儲けやなんて、この小指の先ほどもないわ」

「なんだとう!小指分はあるでしょうに!」

「少なっ!?そこはせめて片腕分くらいはいうて大口叩く所やで!」

「夢見がちなはぐれエルフと違って、現実が見えてますのでー」

「腹立つ!フォロー入れたったのにバカにされるとかほんま腹立つ!!」

「どうどう。ほら、飴ちゃんでも食べて少し落ち着きなよ。まあ、ボクは持ってないんだけど」

「持っとらんのかい!?」


 別れを惜しむように、それからしばらくボクとエルーニは漫才を繰り広げたのだった。


「リュカリュカが好き勝手ボケているように見えるのはわたくしだけなのかしら?」

「間違いなく思いっきり遊んでいますよね」


 はい、そこのお二人さん。いくら本当のことだとしても人聞きの悪いことを軽々しく口にしないように!


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