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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第六章 美味しい仕返し
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62 リアルのフレンド

 ここで少し時間を巻き戻すね。

 衛兵隊の隊長に騎士団の千人隊長、冒険者協会のデュラン支部長と続けざまにお説教を受けて、『猟犬のあくび亭』にふらふらになりながら帰り着いたのだけど、そこでもまさかのステレオ式お説教を受ける羽目になったことで、おじさんに対して復讐(いやがらせ)を決意したのはご存知の通りだと思う。


 留置所や拘置所といえば『臭い飯』と例えられるように不味いご飯が定番な所。

 いやまあ、リアルではとうの昔に改善されているっていうし、ボクの独断と偏見によるものだということは分かっているけどね。

 ともかく、美味しいご飯を目の前で食べたりすれば、十二分に嫌がらせになると考えた訳です。


「でも、どんな料理にするかが問題かな……」


 ヘッドギアを外しただけで、ログアウト時とほぼ同じベッドに横たわったままの体勢で呟く。

 時刻はもうすぐ午後一時になろうかというところ。あちらでは夕方になっていたから、まるで時間が巻き戻ったかのように感じてしまう。

 人によって引っ掛かりを覚える部分は異なるそうだけど、ボクはこの時間の不一致がどうやら苦手に感じる部類の人間だったみたいだ。


 梅雨の合間の晴れた空に陣取った太陽からは容赦のない光が降り注ぎ、レースカーテンを通り抜けてボクの部屋にも入り込んでいた。

 見慣れたを通り越して見飽きたの域に入りつつある天井をぼんやりと見続けながら、何かいいものはないかと思案する。


 と、ボクの携帯端末が動き始めたのはそんな時だった。

 着信メロディーに設定している一昔前の有名アニソンのオーケストラバージョンが部屋の中に鳴り響く。


「よっと」


 軽く掛け声を出しながらベッドから起き上がると、勉強机の上に置きっぱなしになっていた端末を手に取る。液晶画面に表示されていたのは、クラスメイトの(せっ)ちゃんの名前だった。

 そういえば最近この曲をゆっくり聞いたことがなかったな、なんてことを考えながら通話機能をオンにする。


「ただいまおかけになった電話番号は、現在使用されております」

「もしもし、私!わたし、ワタシ、私!」

「…………」

「…………」


 通話開始早々お互いにネタを投入してしまい、何となく気まずくなってしまう。ちなみに前者がボク、後者が雪ちゃんです。


「くっ!「私」の言い方微妙に変えてくるなんて、腕を上げたわね!」

「いやごめん。ネタを振っておいてなんだけど、続けられるのは結構辛いわ」

「あはは。雪ちゃんは相変わらずこういう方面のいぢりには弱いみたいね」

「いじられて喜ぶような性癖を持ちたくはないわよ」

「それは私も同感」


 そんな他愛もない会話をしばらく続けた後で、御用向きがあったのではないかと尋ねてみることにした。


「ところで土曜日の昼間から電話を掛けてくるなんて、何かあった?」


 雪ちゃんはスポーツ少女で、土曜日や日曜日、祝日などは基本的に部活尽くしとなる生活を送っていた。今日だって確か、他校のチームを招いて練習試合があるとか言っていたはずだ。


「それがね、あちらの都合で急にキャンセルになっちゃったのよ」


 それでも午前中は練習をしていたそうだ。


「で、ぽっかり空いて時間をどうしようかなと考えていたら、最近ちょっとばかり様子がおかしい友人のことを思い出したという訳なのよね」


 探りを入れるような物言いに、ゾクリと肌が粟立つ。別にやましいことは何もしていないにもかかわらず、こういう言い方をされるとなぜだか後ろめたいような気がしてしまうから不思議だ。


「な、なんのことかなあ……。ぴーひゅるー」


 とはいえ、こちらが嫌がることまで聞き出すつもりがないのは分かっている。下手な口笛を吹く真似を装ったわざとらしく誤魔化すふりは、もう少しこの話題に付き合ってもいいよという意味となる。


 回りくどい?

 年頃の女の子には色々あるのですよ。


「有耶無耶にしようとしても無駄よ。こっちにはちゃんと証拠が揃っているんだから」

「も、黙秘するわ!弁護士が来るまでは何も喋らないんだから!」

「……ねえ、優。強情を張っても良いことなんて何もないのよ」


 付き合っているボクが言うのもなんだけど、二時間サスペンスドラマ好きの雪ちゃんの面目躍如といった感じになってるね。


「け、刑事さん、実は……」


 いつまでも遊んでいては話が進まないので、この辺りで基本的な情報、『OAW』を始めたことを教えてあげる。


「……何かを始めたみたいだってことは予想が付いていたけど、VR型のRPGとはね」

「雪ちゃん、何か嫌なことでもあった?」


 思わずそう尋ねてしまったのは、彼女の言葉に感情の揺れのようなものを感じたからかもしれない。


「優は相変わらずそういうところには敏感よね。里香が頼りにするわけだ」

「そうなの?自分ではよく分からないかな」

「……優は相変わらずそういうところには鈍感よね」

「一文字変わっただけで残念な結果に!?」


 その後も何度かそれとなく話を振ってみたのだけど、結局、雪ちゃんが詳細を語ることはなかったのだった。


「役に立つかどうかはともかくとして、相談には乗るから」

「はいはい。その時にはお願いするわ。それにしても優がVRゲームね……」

「意外だった?」

「優と話していて、それ系の話題が出てきたことがなかったからね。どういった心変わり?」

「その辺りの事情は黙秘させてもらおうかな」


 一応、ボクだけのことじゃなくなるし。


「ほほう、この期に及んでまだ抵抗すると?素直に喋るなら学食のカツ丼を奢ってあげようと思ったのだけど?」

「いやいや。雪ちゃんたちみたいなスポーツ少女ならともかく、私みたいな帰宅部の暢気(のんき)さんにはカロリー過多になるから」


 うちの学校は現在部活動に、特に運動系に力を入れており、その一環なのか学食の料理はボリューム満点のものばかりとなっていた。

 その中でもカツ丼は縁起担ぎの意味合いも込められているらしく、一際量が多いことで有名だったのだ。


 しかし、カツ丼ね……。

 場所が場所だし、これはアリかもしれない。そんなことを考えながら雪ちゃんとの会話を続ける。


「まあ、元凶となった人物の予測は付いているけど。ズバリ、里香でしょう?」


 あらら。あっさりと的中されてしまった。


「どうしてそう思ったの?」

「あの子がゲーム好きなのは中学の生徒会メンバーなら知っていたことだから。というか頻繁に誘っていたし。男子の何人かは見事に乗せられていたはずよ」


 うああ……。里っちゃんのあの無邪気な笑顔で誘われたら、思春期の男の子が太刀打ちできるはずなんてない。何というかご愁傷様です。

 あの時のメンバーで志望校から脱落した人はいなかったはずなのが救いかな。


「さてと。優の秘密も聞き出せたことだし、今日はこのくらいで終わりにするとしましょうか。これ以上話していると私の方が色々と聞きだされそうだし」

「うわあ、聞くだけ聞いておいて逃げる気満々ですよ、この人」

「ふふふ。私は逃げ時もちゃんと弁えているのよ。あ、今日のことは誰にも言わないから心配しないで」

「そこは元から信用してるよ」

「そっか。……それじゃあ、また月曜に学校で」

「はいはい、またね。…………うわっ!?」


 そう言って通話を切ったボクは、画面に表示された二時間オーバーという通話時間を見て凍り付くことになる。

 そして端末の料金設定を定額制にしておいて良かったと心の底から安堵したのでした。


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