619 ダンジョンコアの能力
ここで少し迷宮核の技能について説明しておきたいと思う。
まずは一つ目、ダンジョンコアの基本にして存在理由でもある〔迷宮生成〕。生成とあるけれど実際は生み出すだけではなく、管理や成長といった迷宮に関するものを全て含んだ技能となっております。
二つ目が〔ポイント錬成〕で、実際に迷宮を成長させたり魔物や罠、アイテムなどを配置させたりするために必要となるダンジョンポイントを作り出す技能だ。
ダンジョンポイントは一定時間ごとに錬成される以外に、迷宮外のものを取り込むことでも増やすことができる。この『迷宮外のもの』だが、魔物やアイテム類だけでなく人間種、つまりはNPCまで該当するようになっている。
ただし、NPCの場合は身ぐるみを剥がして外に放り出すというのが基本の扱いとなっていて、死亡扱いとなってしまう『吸収』は成人済みのプレイヤーのみ選択できるようになっているのだとか。
逆に言うと、魔物やアイテム類――イベント進行に必須となる一部のキーアイテムは除く――は全てその存在ごと吸収されてポイントに返還されるということになる訳でして……。
迷宮に突撃する前に、レアアイテムを持ち込むかどうかよくよく考えることをお勧めいたします。
そしてレア職業の<ダンジョンマスター>になると、ダンジョンポイントの時間ごとに獲得できる量や外部存在を取り込んだ際の変換率が高くなったり、迷宮を成長させる項目に専用のものが増えたりと、様々な面で優遇されるようになるそうだ。
一方で、テイマーだけが使用できる技能も存在している。それが三つ目の技能の〔捕獲〕である。
その名の通り魔物を捕まえる技能で、捕えた魔物は展開中、つまりは生み出した迷宮に配置することができるという優れものだ。
が、実はこれ、ダンジョンポイントが貯まり難く、ダンジョンの強化がなかなか進まないテイマープレイヤーへの救済措置という側面が強いものなのよね。
生成して設置した直後の最初期の迷宮は、一階層――ダンジョンコアが配置される小部屋が別階層となるので、正確には二階層――しかなくその上狭いため、はっきり言って脆弱だ。
NPCどころか近くに生息する魔物にだって攻略されかねない弱々っぷりなのだ。
しかし、ダンジョンマスターの場合、自分の迷宮であれば居るだけで自動で強化され、さらにダンジョンポイント使用することで、その強化率を更に高めることだってできてしまう。
そのため、プレイヤーが迷宮内で無双するという力技でダンジョンポイントを増やし、迷宮を増築したり強い魔物を配置したり罠を設置したりすることで次の段階に進めるようになる、という訳だ。
ところがテイマーの場合はこうした恩恵が得られないため、この時期を乗り越えるのが非常に難しい。
正確に言えば、ゲーム開始地点近くの出現する魔物が弱い場所に設置して、付近の魔物を迷宮内に引きずり込んで倒す、といった時間さえかければ一応は何とかなる。
だが、いかんせんその事だけに集中しなくてはいけなくなるため、状況によっては発生している別のイベントやクエストを断念しなくてはいけなくなったりするのだ。
そんな危機的状況を回避するために必須となってくるのが、ダンジョンポイントを消費することなく強力な魔物を配置できる〔捕獲〕だった。
もっとも、そのためには魔物が瀕死状態であることや、ダンジョンコアのマスターとなっているテイマーを含んだパーティーが七割以上のHPを削っていることなど、いくつもの条件をクリアする必要がある。
要するに、全く歯の立たないような強い魔物は〔捕獲〕することができなくなっているのだ。
さて、以上のことを踏まえながら、そろそろボクたちの方に話を戻そうか。
アコが捕獲した当時、イフリートは瀕死状態となっていた。そしてそのダメージは全てボクとうちの子たちが与えたものだった。はからずとも捕獲するための条件を満たしていたという訳だね。
ちなみに〔捕獲〕の熟練度が低いため、現在のアコにはゲーム内時間で一日につき一回の使用しかできないという制限も付いていたりします。
あと、迷宮の設置場所から一定の距離以内という条件もあるらしい。……の、ですが!
ちょっとここで待ったをかけさせていただきたい。
「というか、アコってばいつの間に迷宮を生成して設置していたのよ?」
元迷宮出会った場所は完全につぶれてしまっているし、他にそれらしい入口も見当たらないのですが?
アコをテイムして以降はこの迷宮前集落からは出ていないので、どこか離れた地に迷宮を設置したということはあり得ない。その場合、例の一定距離以下という条件に引っ掛かってしまうしね。
何よりもうすぐこの土地からは離れるつもりでいたから、重要施設を残していくつもりなど少しも考えていなかった。
「せめて帝都や一部の町のように『転移門』の利用ができれば違っていたのでしょうが……」
「この調子ですと『火卿帝国』の大半は『転移門』を使用できない日々が続きそうですわね」
ここも当然そんな場所の一つとなる訳で。そんな気軽に顔も出せないような所に、大事なうちの子を残していくなんてできるはずがない。
「そもそもの話、ボクは迷宮を設置する許可なんて出してはいないよ」
「いいえ、それはマスターの勘違いですわ」
「ほえ?」
ボクの言葉に異議を唱えたのはチーミルだった。
「先日の話し合いの際、マスターはこう言いましたわ、「ボクたちと一緒にいる間は好きにするといいよ」と」
あれかー!
「あっちゃー……。あれをそう取っちゃいましたか……」
ボクとしては迷宮を成長させる方針について、自由して構わないと言ったつもりだったのだけれど、アコは迷宮の設置から全てを任されたと捉えていたらしい。
「この点はボクの説明不足だったから仕方がないと諦めるとして、で、肝心の迷宮はどこにあるの?」
場合によってはこの場所を新たに拠点にすることも考えなくてはいけない。
「迷宮の在り処、ですか?それはもちろんアコやわたしたちが普段過ごしている『ファーム』の中ですね」
と、リーネイがさらりと答えてくれたのだったが……。
「え?『ファーム』の中に迷宮って作れるの!?」
ボクとミルファとネイト、疑問を口にした三人の声が綺麗にそろったのも無理からぬことだと思う。
〇瀕死状態について
魔物やイベントで敵対する一部のNPCにだけ設定されている。著しくHPが低下した状態で基本的には若干能力値が低下する。が、一部の魔物などは『激昂』や『狂化』などが併発するため、逆に能力値が上昇する場合もあるので要注意。
瀕死状態になるHPの割合は魔物の種類によって様々で、ブレードラビットのような初期から登場する魔物であれば二割を切った段階で瀕死となるが、ブラックドラゴンのような強力な魔物になると一パーセント以下にする必要がある。




