表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十九章 次なる戦い
612/933

612 苦悩

現在の時間、17:30……。

ぎ、ギリギリで予約投稿をすることができました……

 無数の細やかな(ひび)割れによって白くなったガラスのように心が傷付いていく。

 さらにそれらが(よじ)れて(ひず)みあうことでキィキィと異音(ひめい)かき鳴らして(なきさけんで)いた。


 冒険者の若者たちは、少年たちを見捨てるどころか近付いてくる魔物への餌にして自分たちだけが助かろうとするような、控えめに言っても外道どもだった。

 処分を受けることが適当であり、真っ当な冒険者協会の支部であっても結局は彼らが命を失うという展開は同様だったかもしれない。


 だが、もしかすると誰かが罰の軽減を申し入れ、彼らが自分たちの罪を自覚、それを償おうと滅私の心で世界へと貢献する偉大なる冒険者へと成長する。そんな未来がほんのわずかな確率であっても存在していたかもしれない。

 しかしローブの人物の凶行によって、そんな未来を夢見ることすらできなくなってしまった。


 辛い、苦しい。

 そして何よりも悲しい。

 正直なところ、これほどの苦痛を感じたのは『OAW(ゲーム)』をプレイするようになってから初めてのことだった。


 あの『ジオグランド』で魔法を暴発させてしまった時は、それこそすぐに感情が暴走してしまっていて、あまりその時のことは理解できていなかったように思う。

 そして今に至るまでディラン(おじいちゃん)たちの安否は不明、つまりは生きている可能性が残されたままということになっていた。


 対して今回は直接的な描写こそないものの、ローブの人物の台詞やイフリート氏が召喚されているという状況証拠から、若手の冒険者たちの生存は絶望的であり、なおかつそのことを強制的に理解させられてしまっていたのだった。


「やめちゃえばいいよ」


 ふと脳裏に言葉がよぎる。


「ゲームなんだからさ、辛い思いをしてまでやる必要はないよ」


 そう、なのだろうか?

 ……そうかもしれない。


 別にゲームで生計を立てている訳ではなく、あくまでも趣味の範囲でプレイしているだけのことだ。

 やめたところで困るようなものではないし、誰かの迷惑になるものでもない。悲しみにひたりながら続ける必要はないだろう。


「でも……」


 とそこで待ったがかかる。『OAW』をやってきたことで『笑顔』のコアラちゃん(りっちゃん)だけでなく『メイション』でフレンドになった人たちなど、それまでにはない繋がりができた。

 その上勉強に張りが出たり時間の使い方を工夫するようになったりと、リアル側の優華としての生活にも少なくない影響を及ぼしている。


「それならやり直すっていうのはどう?」


 心の声によると、やめてしまう、それらの繋がりを全てなかったことにするのではなく、手を加えて少しだけ変更する、ということのようだ。


「幸いこのゲームにはやり直し(リセット)機能が付いているから、納得がいくところまで巻き戻してみればいい。いっそのこと最初からやり直しちゃう、っていうのも面白いかもしれないよ」


 この結末(いま)に繋がらない分岐点へと遡るということだね。それならばこれまで通りフレンドの人たちとの関係も維持していくことができるし、リアルでも同じ生活を続けていくことができるだろう。

 問題はどこまで遡るかということだが、その辺りはリセットの仕様を確認しながら考えていけばいいと思う。


 妙案が飛び出してきたことに喜んでいると、


「本当にそれでいいの?」


 再度踏みとどまることを願う気持ちが伝わってくる。

 確かにリセットならばフレンドとの交流は保つことができるし、リアル由来の物事もそのままとなるだろう。

 だが、その一方でこちらの人々はそうはいかない。


 ミルファやネイトというパーティーメンバー、ディラン(おじいちゃん)クシア高司祭(おばあちゃん)、デュランさんゾイさんサイティーさんたち冒険者仲間たち、『猟犬のあくび亭』の女将さんや料理長、クンビーラ公主様など言い出せばきりがないほど多くの人たちとかかわってきた。


 そして何より大切な、テイムモンスター(うちの子)たち。


 リセットを行えば、彼らとの関係に大なり小なり変化が生じることになる。

 程度の差はあるかもしれないが、変化は絶対に起きてしまう。


 極端な例を挙げるならなら、最初からやり直した場合。見知ったクンビーラの街の人たちに「こんにちは、久しぶり」と呼びかけても、訝しげな顔を返されるだけとなることだろう。

 なぜならば、見知っているのはボクだけに適用されていることで、あちらからすればボクは初対面の余所者となってしまうから。

 これは全てのNPCに言えることであり、ミルファやネイト、うちの子たちであっても特例はない。


「それは……、嫌だな……」


 誰にも彼にも忘れられているなんて、恐怖以外のなにものでもない。

 まあ、それ系統のホラー体験がしてみたいという人には、もってこいの方法かもしれないね。今度運営に提言してみようかな?


 ……思い浮かんだ映像が予想以上にショッキングなものだったので、つい逃避してしまったよ。

 もっとも、我に返ったところで都合良く難問を解決する道筋が見えた、なんてことはない訳でして。


「あ、あれ?みんな?」

「ほう……。お前はテイマーだったのか」


 気が付けばボクの周りにうちの子たちが集まっていた。どうやら心細さからか知らない内に呼び出してしまったようだ。

 しかも<デスティニーテイマー>の特別な技能の〔共闘〕まで発動しているのか、パーティーメンバーの上限を超えて全員集合となっている。

 あ、どこかの誰かが何かを言っていたようだけれど、それどころではないので流しておきます。


「アコ……」


 その中には当然、迷宮の奥でテイムしたアコちゃんも含まれていた。ちなみに、コロコロと地面を転がっていては危ないので、リーヴが両手で持っていたりします。

 さらにエッ君、チーミル、リーネイのちびっ子組はトレアの背中に並んでいたりして。とってもらぶりーでぷりちーな光景です。


 まあ、さすがのボクもそれをのんびりと眺めている余裕はなかったのだけれどね。だって、とてつもなく重要なことに気が付いてしまったから。


「どんなに最短のリセットをしても、アコがいなくなっちゃう?」


 ボクたちが攻略したことで迷宮が消滅した時よりも後に、冒険者の若者たちの姿を見てはいない。つまりそれよりも前に迷宮前集落を離れていたと思われる。

 そうなると彼らを助けようとするならば迷宮を攻略するよりも前に戻らなくてはいけないことになる。


 しかしそれは、アコのテイムをなかったことにすることと同意だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ