598 帰還と休息
申し訳ありませんがストックが切れてしまいました。
しばらく更新頻度が下がります。
詳しくは活動報告をご覧ください。
新しく仲間になったアコを含めてうちの子たち全員を『ファーム』へと移動させてから、ボクたちは地下十階の転移魔法陣を用いて入り口脇へと移動した。そして他人事のような素知らぬ顔をして迷宮から脱出を果たしたのだった。
既に地下一階で採掘をさせられていた領民たちは避難を完了していたようで、入口から少し離れた場所で一塊になっている。その中にはスホシ村から連行されてきた男性陣もいて、ボクたちの姿が見えたのかニヤリと悪い笑みを浮かべたりしていた。
いやいやいや。ただでさえ冒険者協会の出張所の連中から目を付けられているのだから、怪しまれそうな行動は慎んでもらいたいのですが!?
まあ、どんなに上手く誤魔化したとしても、アホ領主の配下とか一部の人間からはこの騒動の元凶ではないかと疑われることになるだろうけれどね。
もっとも、迷宮の何階層にまで進んでいるのかが分かるようになっている訳でもなく、本人からの申告や目撃情報などしか特定する方法がないため、単なる難癖にしかならない。
それに何より、ボクたちが迷宮攻略を始めてからまだ二日目でしかないのだ。そんな短期間で完全攻略されてしまったとなれば、これまでの最高到達階層が地下四階でしかなかったこととも合わせて迷宮に入り浸っていた冒険者たちが手を抜いていたことがバレてしまうことになる。
まあ、サボっていたこと自体は事実なのだから、その点は叱責されようが処罰されようが知ったことではないです。
そんな調子で無事に迷宮から帰ってくることができたのだと実感していたところに、耳元から馴染みのあるカンサイ弁が聞こえてきた。
「その様子やと全員欠けることなく戻ってこられたみたいやな。おっと、そのままや。ワイ自身はちょっと離れた所におって、声だけリュカリュカに届けてるんや」
なんだその便利魔法。言動はお調子者の三枚目の癖に、根本的なところは有能な人なのよね。こうしてちゃっかり迷宮からも脱出していたようだし。
「まずはおめでとうって言うとくで。ただ、できればもう少し待って欲しかったっちゅうんが本音のところや」
おやおや?さっくりと攻略してしまったことで、彼に何か不都合が発生してしまったのだろうか?
あちらも『火卿帝国』内の有力貴族から依頼というか仕事を抱えていたから、そちら方面かもしれない。
「せっかく儲けのタネになりそうなやり方を教わったっちゅうのに、実践する前に肝心の迷宮がなくなってしまうとか、どんな嫌がらせやねん」
なんだ、そっちの方かい。確かに迷宮の中で出張販売すれば儲かるだろうとは言ったけれどさ。
そういう意味では、迷宮がなくなって一番被害を受けることになったのはエルーニだった、と言えなくもないかもしれない。
緋晶玉の採掘ができなくなったアホ領主たち?会ったこともないやつらの心配ができるほど、ボクたちには余裕もなければ博愛の心も持ち合わせていませんので。
言い訳をさせてもらえるなら、ボクたちだってまさかキメラがいた地下十階の次の階層が迷宮の最深部になるとは想像もしていなかったからね。
その上、戦うことすらせずに疑似ダンジョンマスターが自爆するとか、その影響で迷宮核が迷宮の管轄外にまで落っこちて身動きが取れなくなってしまったとか。
うん、改めて思い返すととんでもない超展開だったわ……。
そう言えばどうして疑似ダンジョンマスターはあのタイミングで自爆したのだろうか?
アコに尋ねたら答えてくれるかもしれないね。
「それで本題やけどな。リュカリュカたちもそうやろうけど、ここの領主たちがどう動くんか見届けなあかんから、ワイもまだしばらくはここに居座る予定や。そうなると顔を合わすこともあるかもしれん。せやけど、ワイらはお互いに目を付けられ取る者同士や。痛うもない腹を探られるんはごめんやから、お互い知らんふりをしとく方がええと思う」
全くもってその通りだわね。了解したという意思表示のため、ゆっくりと首を縦に動かす。何も知らない人からは、少しうつむいただけのようにしか見えなかったはずだ。
「ちゅう訳でよろしう頼むわ」
そんな言葉を最後に、エルーニの声は聞こえなくなってしまう。
「やれやれ。自分の言いたいことだけ言って通話を切るとか、そんなんじゃもてないよ」
「え?リュカリュカ、何か言いましたか?」
「なんでもないよ。……んー、とりあえずリシウさんたちがいる近くに行こうか。色々と考えなくちゃいけないことや、やらなくちゃいけないこともあるけど、さすがにちょっと休みたいよ」
「思い返してみればキメラとの戦いから今まで、ずっと続けざまでしたわね。その間気を張り通しになっていたでしょうし、いい加減に体も休めるべきですわね」
ミルファが同意してくれたこともあって、ボクたちはこの迷宮前集落――もうすぐ迷宮自体がなくなってしまうけれど――で最も安全だろうと思われる場所へと足を向けたのだった。
「あ、姉ちゃんたち!」
と最初に出迎えてくれたのは子どもたちだ。同郷だった冒険者の若者たちをぶっ飛ばしたことで上位者という認識になったのか、あれ以来妙に尊敬されているみたいなのよね。
そのこと自体はいいのだけれど……。もう少し周囲というか背後にまでセンサーを働かせておいて欲しいかな、と。
リシウさんの部下の一人、ヒューマンのお姉さんがいい笑顔のままで怒りの波動を放出しておりますですよ……。
子どもたちに作法や勉強を教えていたのだろう。少年たちは口減らしも兼ねて住んでいた村から外に出されたという経緯があるので、帰る場所がないのだ。
リシウさんが身元を引き受けるにあたって教育を施すことにしたみたい。彼の部下たちは六人全員が一流どころのようなので、将来的にはとんでもない万能超人に成長してしまうかもしれない。
しかし、それはまだまだ先の話だ。勉強を放り出す形となった子どもたちは、お姉さんに叱られることになったのでした。
巻き込まれるのはごめんなのでそんな彼らの横をそそくさと通り抜けて奥へと向かう。
「やあ、帰ってきたようだな」
リシウさんの言葉に片手を挙げて応える。近くにいるのは熊獣人さんだけだ。案内役だった冒険者たちも含めて、残るメンバーは情報収集のため集落の各所に出向いているのかもしれないね。
集落に戻ってきたことでそれまでの疲れが一気に出たのか、体が重く感じられる。
挨拶もそこそこに断りを入れて、ボクたちはリシウさんたちの野営地の一角で眠りに就いたのだった。




