594 自爆ナンデ!?
「あいたたたたたた……。みんな、無事ですかー?」
腕の中のエッ君を解き放ちながら問いかける。
階段を駆け上っている最中にいきなり激しい振動に見舞われたボクたちは、急いでその場に蹲ったのだった。
足を滑らせて落ちてきたエッ君をキャッチできたのは、ほとんど奇跡のようなものだ。もう一度やって見せろと言われても、絶対にできない自信があるね!
「わ、わたくしは問題ありませんわ」
ボクの後方、数段下でしゃがみ込んでいたミルファが身体のあちらこちらをさすりながら起き上がっていた。自己診断で平気だと判断したのであればその通りなのだろう。
こういう時に変にやせ我慢をしたり気を使ったりする方が、後々仲間の迷惑になると彼女もよく理解しているからね。
まあ、その判断の元になったのが騎士団に同行していた時の経験、ではなく冒険活劇の書物だというところに不安を覚えないではないけれど。
「同じく。……それよりトレアは大丈夫なのですか!?」
そんなミルファの隣で立ち上がったネイトが慌てた様子で叫ぶ。
釣られるようにして振り返ってみれば、十段ほど登った先でトレアが未だに立ち上がることなく蹲っていた。
いや、よくよく見てみれば彼女の馬の下半身が横倒しになっており、その体がずり落ちてこないようにリーヴが支えていたのだった。
「わわわ!?二人とも、大丈夫なの!?」
すぐに近付いてみたところ、双方ともに怪我などはしていなかったもようです。リアルでならば転倒の拍子に骨折していてもおかしくないくらいの体勢になっていたが、そこはゲームということなのだろうね。
トレアの顔がほんのりと赤くなっていたが、それは痛みや苦しみからくるものではなく、自力で起き上がれない状態になってしまったことへの羞恥心からくるものだったようだ。
とりあえず彼女の負い目にならないよう『ファーム』の中へと一旦退避させることにした。その際に無事で良かった、と伝えることも忘れない。
ケンタウロスの中では比較的小柄な部類に入るとはいっても、トレアの身体は下半身の馬の部分まで含めるとヒューマンの数倍の体積となる。狭い上に足場が悪い階段で起き上がらせるのは、かえって危険を伴う作業になりかねなかった。
戦闘中に村や街の中など何かと使用に制限の多い『ファーム』だけれど、使い方次第では非常に便利な代物だ。
高い買い物だったが、購入しておいて大正解だったよ。
そんなやり取りを経て再び地下十一階へと戻って来てみると、そこは酷い有様だった。
「あー……、これはやっぱり自爆したっぽいね……」
人型が立っていた部屋の中央は、床材が破壊されて大穴が開いており方々に破片が飛び散っている。
壁や天井は距離があったのが幸いしてか大きく壊れているところはない――崩落の心配はしなくても良さそう――ものの、破壊されて飛散した床材が当たったのだろう、あちらこちらに小さくない傷がついていた。
発光していた光量も半分以下に落ち込んで薄暗くなっているし、当然のように刻まれた文様を光が移動する演出もなくなっていたのだった。
「ここで何が起きたのかは、おおよそですが把握できましたわ。しかし……」
「なぜ、疑似ダンジョンマスターは自爆をしたのでしょうか?あの時、わたしたちと敵対するような態度は見せていましたが、戦闘自体はまだ始まっていませんでした」
ミルファの言葉を引き継いで、ネイトが疑問を口にする。
しかし、ボクたちの誰もがその問いに対する正確な答えを持ち合わせてはいなかった。
いや、だって、本当に突然だったからね!?
追加で魔物を呼び出したり、仕掛けられていた罠を発動したりといったことはするかもしれないと考えていたけれど、まさか初手からいきなり自爆してくるだなんて予想できるはずもない。
「分からないことをいつまでも考えていても仕方がないよ。とにかく今はこの迷宮を止めるなり、緋晶玉の生産を中止させる手立てを探そう」
最期まで不審だった疑似ダンジョンマスターの行動は気になるけれど、ここに来た目的も忘れてはいけない。
緋晶玉を発掘して良からぬことを企んでいるらしいアホ領主を阻止して、スホシ村を始め徴集されてきた領民の人たちが故郷に戻れるようにしないとね。
そうなると、やっぱり迷宮を消滅させてしまうべきだろうか。
これ以上は緋晶玉の発掘はできない、とボクたちが言ったところで信じてもらえるはずもないだろうし、高レベルの冒険者を雇って迷宮を攻略して、再び緋晶玉の生産ができるように変更されてしまうかもしれない。
それならばいっその事、迷宮自体を消滅させてしまう方が後顧の憂いも絶てるというものだ。
元々は放置されたまま活用もされてこなかった迷宮なので、消滅したところで生活の基盤が失われてしまうような人もいない。
金の匂いを嗅ぎつけて迷宮前集落に集まっていた商人たちには申し訳ないが、運が悪かったと思って諦めてもらうしかないね。
それに、リシウさんのようにお偉いさんが身分を偽ってこっそりやって来ている、というケースは稀だとしても、エルーニのようにどこかのお抱えや雇われのスパイが商人に扮している可能性は高いと思われます。
本職の商人となると、実は半数にも満たないのではないかな?
「迷宮を消滅させる、ですか……。確か迷宮の核、コアを破壊すれば、消滅させることが可能だと聞いた覚えがあります。ですが、迷宮と言えば貴重な資源の宝庫というのが一般的な認識です。『冒険者協会』でも迷宮の攻略自体は推奨していますが、消滅させることは望んでいません。適切な言い方かどうかは分かりませんが、迷宮とは共存共栄しようとしているのだと思います」
と、ネイトがわざわざ冒険者協会のスタンスを語って聞かせてくれたのは、間違ってもボクたちが他の迷宮を消滅させないようにするためだろうね。
「そんなことしないよ!」と言い返したいところだったが、今回のように領民や住民を虐げる原因になっていた場合、同じ手段を取らないとは確約できそうにもない気がする。
まあ、今回に限ってはネイトだけでなくミルファも、迷宮の消滅には賛成なので問題はないでしょう。
疑似ダンジョンマスターの自爆によって台座ごと吹き飛んだらしいコアを探すため、ボクたちは部屋の方々へと散開するのだった。




