593 疑似ダンジョンマスターへの対処
失敗した。
コアに対してのアクションが人型の敵対認識に繋がっていたのだ。
よくよく考えてみれば、割とありがちな設定だよね。
疑似とはいえダンジョンマスターなのだから、迷宮の大元であるコアに異常が出たりなにかしらの行為を仕掛けられたりすれば、感知できて当然という訳だ。同じ階層にいて警備を請け負っていたとなれば尚更だ。
推測が確信を突いていた―かもしれない――ことで、またもや気の緩みが発生していたみたい。
「あらー……。これは割と不味い状況かもしれない」
「暢気なことを言っている場合ではありませんよ!?」
いやはや、まったくもってネイトの言う通りであります。
ただし、それもこれも相手がまともであればの話だ。こちらが真面目に応対しようとしたのも束の間、「どうしてお前たちがここに!?」と言わんばかりに大きく目を見開いたかと思えば、冷や汗をだらだら流して顔を青ざめさせていったのだ。
いや、まあ、そもそも疑似ダンジョンマスターは人間を模して造られた木偶人形のような外見だったので、目に該当する部分がなければ、顔色を変えたり発汗する機能も付いていたりはしなかったのだけれどね。
そんな様子を幻視してしまうほどに真に迫った人間臭い動きをしてくれたのですよ。
「……わたくしたちよりも驚いているように見えますわね」
それどころか慌てふためいて、これまでに輪をかけて挙動が不審になっている。
「今までも不審者以上の不審者だったのに、軽くそれを飛び越えた不審者っぷりを披露してくるとは……!あれに使われている魔導技術、侮りがたし!」
再びボクの口から暢気な台詞が飛び出してしまうが、今度はしっかりと臨戦態勢を整えているので、ネイトからのお小言はありません。
個人的には「ない」と思っているのだけれど、先ほどの動きがこちらの油断を誘うものである可能性も否定できないからね。
「隙だらけで攻撃のチャンスのようにも見えますわ」
確かに。
でも、安易にそれに乗ってしまって良いものだろうか?
「リュカリュカ?何を悩んでいるのです?」
「戦う以外には手はないのかな、と思ってさ」
別にラブアンドピースに目覚めたとか、非武力の平和主義になったとかではないので、勘違いしないように。
まあ、先ほどの激戦によってアイテム類がすっかり心もとなくなっているので、戦わずにすむならそれに越したことはない、という下心があるのは認める。
さて、相手はダンジョンマスターだ。ボクたちがどこまで迫ってきているのかなど、知ろうと思えばすぐに調べることができただろう。
だから地下十階で待ち構えていたキメラのように、戦うしかないのであればそれ相応の準備をしていたと思うのだ。しかし実際には、不審者的な怪しい動作をしていただけで、ボクたちがやってきたことにすら気が付いていなかった。
これらのことから、疑似ダンジョンマスター攻略には、戦う以外にもいくつかの方法が設定されているのではないか、と考えたのだ。
ちなみに〔鑑定〕で判明したところによると、レベルは二十五だった。格上ではあるけれど、手も足も出ないほど極端に強いという訳ではない、といったところかな。
仮に戦うとなれば苦戦となるのは間違いないだろうね。それも、助っ人として大量の魔物や強力な魔物が追加されない限りは、という条件付きとなる。
「一度手を出してしまったら最後、もう絶対に戦いは避けられなくなる。そうなる前に、他に取れる手立てはないか考えておくべきだと思う」
「リュカリュカ、あなたのその考えは立派だと思います。ですが……」
「ええ。今の説明の間に、あちらはすっかりやる気になってしまったようでしてよ」
「あれー!?」
ちょっとー!せっかく人が戦わないですむ方法もあるだろうと頭を捻っていたにもかかわらず、それをまるっと無視するような態度を取るのはいかがなものでしょうかねえ!?
あたふたしていた先ほどとは打って変わって、疑似ダンジョンマスターは真っ直ぐこちらへと向き直っていた。
その堂々とした態度を腹立たしく感じて、思わずジト目で睨み付けてしまったところ、今度は急におどおどとし始めたのだった。
どうやらヘタレっぽい性格?は素のようだ。
長年ダンジョンマスターを務めてきたことで、性格や思考が引きこもり傾向になってしまったのかもしれないね。
だからと言って、向こうが敵対するつもりであれば、手加減してやるつもりもなければ手心を加えてやるつもりもないけれど。
しばらくにらみ合いが続く。
さあ、どう出てくる?戦う以外の手段はないのか、とミルファたちに言ってしまった手前、こちらから先に攻撃するような真似はできない。
ゆっくりと時間だけが過ぎていく。
先に耐え切れなくなったのは疑似ダンジョンマスターの人型の方だった。
……正確に言うとね、最初はエッ君だったのよ。それでも頑張った方で、後から確認してみれば二分くらいは頑張って我慢していた。
ほら、こういう時はやけに時間が長く感じてしまうものでしょう。本当は二分でも体感ではその何倍、何十倍の時間に思えてしまうものなのだ。
ボクだって五分から十分くらいは経っていたのではないかと思ったくらいですから。ええ。あとからたったの二分だったと知って、ちょっとどころではなく驚くことになってしまった。
話を戻すと、じっとしていることに我慢できなくなったエッ君がちょろちょろと動き始めたことに釣られて、疑似ダンジョンマスターの緊張の糸も切れてしまうことになる。
……切れたのがそれだけだったら良かったのだけれどね。
何がどうして悲観的になってしまったのか、本格的にプッツンしてしまったのだ。
「ピ、ピピ、ピー。……ピーーー!ピーーー!ピーーー!ピーーー!」
突如脱力するように動きを止めたかと思えば、リアルでなら聞いたことがありそうな電子音を発し始めた。
「あ、なんだかすっごく嫌な予感がする」
危機感を煽る電子音の調子に背筋が寒くなるのを感じる。
これってつまり「あれ」ということよね……?
「ぜ、全員上の階まで退却ぅ!!」
テイムによる感覚の共有でも起きたのか、叫ぶや否やうちの子たちが一目散に階段へと向かって走り始める。
「え?え?」
「なにが?」
「二人とも早く!」
ボクはと言えば、戸惑うミルファとネイトの腕を掴んで、その後を追いかけた。そして脇目も降らずに階段を駆け上がっている途中で、轟音を伴った大きな振動に晒されたのだった。




