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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十八章 迷宮攻略中

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590 悪魔の発想力

 いくら悪辣過ぎるように思えても、それはあくまでも迷宮の攻略者であるボクたちプレイヤーやNPC側からの視点でしかない。

 だから一度、どういった展開が最悪であるのかを考えてみたい。


「世の中、最低最悪な事態なんてそうは起こらないものよ。つまり、最悪な状況を想定して頭の片隅に置いておけば、予想外のトラブルが起きても落ち着いて対処できるってこと」


 と、どこかの天才従姉妹様も言っておられたことだしね。


「最悪の事態ですの……。どういったものが考えられますかしら?」

「わたしには先ほどリュカリュカが挙げたもののどれもが最悪であるように思えたのですけど」

「そう?でも、あれくらいならまだ大したことはないと思うよ」

「え?」


 引きつった表情で驚きの声を上げる二人。


「例えばさっき言った二つのこと、偽物の階段の先にいる魔物の群れを倒すことと、アンデッド化したキメラを倒すことの両方をクリアしないと正解のルートが出現しないとなれば、ほら、単純に二倍の厳しさになるでしょう」


 それだって分かり易く通行証的なアイテムが取れるなどすれば、一度の挑戦でクリアすることも可能だろうけれど、そうでなければ正解を探して何度も挑戦を繰り返すことになるはずだ。

 実質的には数倍どころか十数倍のいやらしさだと言えると思う。


「な、何という恐ろしいことを思い付きますの……!」

「まるで悪魔のような発想力です」


 ドン引きするようにボクから距離を取る二人。ミルファに至ってはエッ君と抱き合ってぶるぶると震えていた。仲良しは知っているからエッ君も乗らないで。


 それにしてもこれくらいで引くほど驚かれるとは、ちょっぴり予想外だったね。

 つい忘れそうになるけれど、ミルファはクンビーラを治める公主の正当な血筋だ。『土卿王国ジオグランド』や『火卿帝国フレイムタン』に比べれば小国の都市国家とはいえ、れっきとした一国のお姫様なのです。だから主に権謀術数の面で、人の悪意ある思考には耐性を持っているはずなのだけれど。


 そしてネイトはネイトで年齢の割には長い冒険者歴をもっており、挑戦したことはなくても迷宮についての知識や情報も、それなりに蓄えられていたはずなのよね。

 実際これまでもそうした知識を披露してくれていた。

 それなのに今回ボクが迷宮の罠を予想してみると、そんな事実はなかったかのように(おのの)いていた。


 ……ああ、なるほど。これもまたプレイヤーを活躍させるための仕掛けということかな。

 『OAW』では未発見だが、確か『笑顔』では隠し職業として迷宮を育成、経営する『ダンジョンマスター』という職業があったはず。

 そうした職業に就いた際に活躍できるように、あえてNPCたちの知識に偏りを持たせているのかもしれないね。


 まあ、そうしたゲームの裏というか設定的な部分はともかく、いつまでもここにこうしている訳にもいかない。先に進むためにも、罠かもしれないけれど何らかの行動を起こさなくてはね。

 改めて問うと、みんなこの点には賛成してくれた。


「それじゃあ、サクッと多数決で決めようか。倒したキメラは放置して、次の階層に進んだ方がいいと思う人は手を挙げてー」


 そう言うと、ボク以外の全員が手を挙げていた。

 あ、エッ君は尻尾をぴんと伸ばしているよ。かわいい。

 ちなみに、チーミルとリーネイは本体であるミルファとネイトの二人と同じ意見となるので、こういう時の数に含めることはできなかったりします。


「あれ?みんな先に進みたいの?」


 せっかく倒したのだからキメラの素材が欲しい、というボクのような物欲まみれ仲間が一人か二人はいるかなと思っていたのだけれど。


「あれだけ苦戦した相手からリベンジマッチを挑まれたいとは思いませんよ」

「しかもリュカリュカの話の通りでしたら、アンデッドになってしまうかもしれないのでしょう?そんなものと戦うだなんて、ごめん(こうむ)りたいですわね」


 苦笑しながら言うネイトに続いたミルファが、嫌悪感丸出しの口調でそう告げる。眉間にしわが寄っていることにも気が付いていないくらいだから本気で嫌なのだろうね。


 まあ、アンデッドと言えば地下九階でスケルトンたちに苦労させられたばかりだしねえ。

 それに、スケルトンやゴーストと並んで有名どころのゾンビはグロいし汚いし臭いしえぐいという、戦うどころか近付くことすらしたくない存在だ。拒絶反応が出るのも仕方がないというものだわね。


「はいはい。それでは多数決の結果に従って次の階層に向かうよー」


 キメラ素材に後ろ髪を引かれるものがない、とは言い切れないが、みんなの意見を(ひるがえ)してまで確保したいものではないからね。

 気持ちを切り替えて、てくてくと階段を下りて行きますですよ。


 そうして到着した、本当の意味でも前人未到の地下十一階。ボクたちはただ呆然とその光景を見ていることしかできなかった。


 広さは先ほどまでボクたちがいた、キメラとの戦闘を行った部屋と同程度だろうか。壁や天井が薄く発光しており、視界も十分に確保されている。

 特徴的なのは壁から天井から床に至るまで全面に怪しげな文様が刻み込まれていたことか。

 さらに時折その文様に沿って光が走るという、幻想的な演出がなされていた。


 うん。そこまでは良かったのだ。

 問題なのは部屋の中央付近で、一体の人形というかロボットというか、とにかく人型の何かが妙でおかしな動きをしていたことだった。


 ボクたちが最初に見たのは、床に両手と膝をつき項垂れるという、いわゆるオーアールゼットな体勢だった。

 そこから「閃いた!」と言わんばかりに頭上に電球マークを浮かべて――見る者がいるのかどうかすら不明なのに、芸が細かい……――しゃきんと起き上がったかと思えば、すぐに電池が切れてしまったかのようにへなへなと座り込んでしまう。

 そして致命的な欠点に気が付いたのか、それとも自己嫌悪に陥ってしまったのか再び最初のポーズへと戻り、以下繰り返し。


 うん。怪し過ぎてできることなら関与したくないというか、近付きたくない。


 でも、そうも言っていられない事情がボクたちにもあった。

 その人型の向こう側、部屋の一番奥に台座らしきものが設置されていて、その上に謎の球体がふよふよと浮かんでいたからだ。


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