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59 勇者様とリーヴ

 何千年もの昔、この世界は突如現れた悪い魔王によってかつてないほどの危機に陥ってしまった。

 アリシア様は三人の仲間と一緒に、その悪い魔王をやっつけて世界に平和を取り戻したとされる人なんだって。


「魔王を倒した後でアリシア様のパーティーは解散することになったが、それぞれが各地で世界の平和のためにその力を尽くしていったそうだぞい。アリシア様の場合、当時蔑まれていたハーフエルフの地位向上のための活動を行っていたそうだぞい」

「ハーフエルフ?」

「アリシア様もまたハーフエルフだったんだぞい」

「え?ピグミーじゃなかったんですか!?」


 リーヴがその人の鎧に似ているというから、すっかりピグミー種だったのかと思っていたよ。


「違うぞい。元々あのリビングアーマーは、アリシア様が身に着けていたとされる鎧の模造品(レプリカ)だったと思われるぞい」

「勇者様にあやかって、ということだな。ちなみに、本物は紛失してしまったと言われているぞ」


 おや?それっておかしくないかな?


「なくなってしまっているのに、形とか分かるものなんですか?」


 何千年も前のことだから、いくらでも偽物が登場していそうな気がする。


「そこは詳しい話が伝わっているそうだぞい。有名な歴史書にも記載されているから間違いないと言われているぞい」

「劇団などもそれを忠実に再現しているからな。……最近は勇者様の演目をすっかり見なくなっていたから、思い出すのに時間が掛かってしまったぜ」

「そういえば、わしも子どもの頃に見たきりだぞい。リュカリュカたちが知らなくても無理もないのかもしれないぞい」


 おじいちゃんだけでなくゾイさんも子ども頃に見たことがあるだけとなると、相当長い間上演されていないことになる。

 鎧の造形云々についてはキョトンとしていたサイティーさんも、勇者様のことは知っていたようだから、お話自体が廃れてしまった訳ではないみたい。


「勇者様かあ……。どんな人だったんだろう?身に着けていた鎧の細やかな記述があったということは、本人の姿も詳しく伝わっていそうですね」

「それがおかしなことに、彼女のお姿については不明なことばかりなのだぞい」

「姿は不明?というか、彼女(・・)!?」

「何をそんなに驚いているんだぞい?勇者様、アリシア様は女性の方だぞい」


 いやまあ、名前の響きからするとその通りなんだけど、勇者って言われて何となく男性を思い浮かべちゃっていたんだよね。


「ということはリーヴの女の子?」


 てっきり男の子を想像していたので、凛々しめの名前にしちゃったよ。どちらでも使えそうだったのが救いかな。


「一概にそうとは言い切れないぞい」

「そもそもリビングアーマーは魔物の中でも魔法生物に属する種族よ。性別があるのかどうかも不明だわ」


 ゾイさんに続いて、サイティーさんがその根拠を説明してくれる。

 魔法生物というのは、魔力によって器物に疑似的な命が宿合った存在ということになっているそうだ。リアルの妖怪、特に付喪神なんかを想像するとイメージしやすいかもしれない。

 敵として戦う場合、核となっている魔石を破壊するまで倒したことにならないので、同じく急所を破壊するまで動き続けるアンデッドな魔物や、これまた同じく核を破壊し続けるまで倒しきることのできないスライム種の魔物並みに厄介な相手なのだとか。


「いつどこでどうやって発生しているのかもよく分かっていないんだぞい。だから当然、群れなんてものが見つかったという話もないぞい」


 いつの間にか生まれているなんて、ますます妖怪っぽい。ゲゲゲって感じです。

 だけどそれならリーヴの出自とかも探す事はできなさそうかな。できれば生まれ故郷とかに連れて行ってあげたいんだけどね。

 まあ、ようやく三レベルに上がったばかりだし、まともに旅ができるようになるのは先の話ということになりそうだけど。




 さて、ようやくクンビーラに帰ってきたボクたちを待っていたのは、温かいご飯と柔らかなベッド、ではなくたくさんの人からのお説教だった。

 まず衛兵隊の隊長さんから始まり、途中からやってきた騎士団の千人隊長――いわゆる大隊長に当たる役職で、団長と副団長に次ぐ役職だそうです――さんへとバトンタッチ。


 詳しい聞き取りは後日ということで解放されて、冒険者協会へと戻ってきたら、クエストの完了報告もそこそこに支部長室へと連行されて、デュランさんからのお小言を貰う羽目に。

 それと詳しい経過について報告をさせられた。


「はあ……。リュカリュカ君を一人で街の外に出すと碌なことにならないな」

「ボクだって巻き込まれた立場なんですけど」

「それを加味しても、同じ結論になるだろうね。……悪いが、これからしばらくの間は一人でクエストを受けられないと思って欲しい」


 なんですと!?


「例え私が許可を出しても、公主様の側が許可しないだろう」

「……つまり、強引に一人でクエストを受けたとしても、その時には騎士団か衛兵隊から見張りの人が付いてくる、ということですか?」

「恐らくはそうなるだろう。街の出入り口は全て、彼らによって押さえられているからね。気付かれずに出て行く事はできないだろう。もっとも、そこまでして一人でクエストを受ける必要性があるとは思えないがね」


 まあ、それは確かに。ボクだって別にいつまでもボッチでいたい訳じゃないし。


「パーティーメンバーについてはこちらでも少し考えておくよ。ご苦労だったね。今日のところは以上だ」


 暗にまだ明日も続きがあるからと言われて、げんなりしながら支部長室から退散するボク。

 おにょれ、全ての元凶はあのおじさんだ!騎士団の留置所で不味いご飯を食べさされて泣いちゃうがいいさ!


 プンスカと怒りながらお宿である『猟犬のあくび亭』への帰り道、ボクの悲鳴を聞いたという人たちが「大丈夫だった?」と優しい声を掛けてくれた。

 まあ、悲鳴の事情を話した後で大笑いされちゃったけどね。その原因となったリーヴはエッ君と一緒に屋台のおじさんたちから食べ物を貰ってご満悦な様子だった。

 ……リビングアーマーってご飯を食べられるんだね。なんだか聞いていた話と違う。と、そんなことを思いながら『猟犬のあくび亭』の入り口の扉を開けた瞬間のことだった。


「リュカリュカ!」

「リュカリュカ!」

「にょわっぷ!?」


 いきなり女将さんと料理長から抱き着かれてしまい、


「あれほど危ないことはしちゃいけないと言ったさね!」

「悲鳴を聞いて生きた心地がしなかったんだぞ!」


 まさかのお説教第四弾――しかもステレオ――を頂くことに。


 おにょれ!

 明日絶対あのおじさんの近くで美味しいものを食べるという嫌がらせをしてやる!


 うふふふふ……。ボクを怒らせると怖いのですよ。


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