587 まだまだピンチ
キメラは三つの頭の意識は別々でもHPゲージは共有の一つしかない。よって、ブレスの暴発で完全に山羊頭が沈黙してしまったのかどうかは不明だ。
それでも攻撃手段の一つを失ったことは確かで、ボクたちにとってはこれまでにない大きなチャンスであることに間違いはなかった。
「エッ君、このまま尻尾の蛇も倒しきってしまいますわよ!」
「ギ、ギシャー!」
「グワオ!?」
最初に動いたのはミルファとエッ君のコンビだった。山羊頭が動きを止めたことに動揺したのか毒霧が消えた瞬間を見逃すことなく、一気に接近して痛撃を与えていったのだ。
これにはさしもの本体というか主格のライオン頭も驚いたのだろう、慌てて振り返ることでボクたちと蛇尻尾の間に割って入ったのだった。
まあ、ね。山羊頭は撃沈、尻尾の蛇も大ダメージと驚くのも無理はないという話だ。
つい先ほど防御の要であるリーヴと、回復の要であるネイトの二人を弾き飛ばして優位に立ったと思った直後にこの有様だからねえ。
心情的には天国から地獄に叩き落されたような気分なのではないだろうか。
もっとも、だからと言って手加減してやる義理もなければ、そんな余裕もない。
先の突進のダメージ次第では、こちらもリーヴとネイトを除いた面子で戦いを続行しなくてはいけなくなるのだから。
「尻尾の蛇はエッ君に任せて、ミルファはボクと一緒にライオンを抑えて!」
「サポートは任せましたわよ」
リーヴが戦線から離脱してしまっている今、キメラの動きを抑えるためには左手の短剣で攻撃を受け流すことができるミルファは必須の人材となる。
しかし、彼女の持ち味は攻撃面でこそ本領を発揮するものであり、盾役はあくまでも兼任できる程度でしかない。
つまり、ボクのフォローが先ほどまでとは段違いに重要になってくるのだ。
そこから先は延々と緊張をし続けていたように思う。
未だ回復役のネイトが復帰できていないため、ほんの小さなミス一つがパーティーの瓦解に繋がりかねない綱渡りの状況となっていた。
「うひい!?どっしぇえ!?ぴぎゃあ!?」
「気が抜けそうになる悲鳴を上げるのは止めて下さいまし!?」
え?案外余裕がありそうに見える?
いえいえ、これでもキメラの連続攻撃を辛うじて紙一重でなんとか躱しているところなのです!
「くうっ!反撃に出るための糸口がまるで見えませんわね!」
「無理に前に出ようとはしないで。ともかく今はネイトたちが戻ってくるまで現状維持をおおおおっとお!?」
せめて最期まで言わせてくれませんかねえ!?
そんな非難の言葉を内心で絶叫しつつ、ボクの身体の半分くらいは楽に一口でガブリ!とできてしまいそうな大きな口を、これまたギリギリで避ける。
しかも、これらの攻撃はほとんど予備動作もなく仕掛けてくるのだから、まったくもって性質が悪い!
「【スラッシュ】!」
こちらもただやられているばかりではない。噛みつき攻撃後のわずかな隙を狙って、ミルファが闘技を仕掛ける。
「ガアッ!」
片目を狙ったその斬撃は、しかしわずかに首を動かされることで鬣の中へと吸い込まれてしまった。
あの鬣も大概に反則すれすれの性能だわね。しなやかなくせに頑丈でもあるので、攻撃の衝撃がほとんど吸収されてしまうのだ。
「くっ!このような防御能力まで備えているとは思いませんでしたわ」
すぐさま鬣から切っ先を引き抜くミルファ。うねうねと動き出すことこそないが、長くて頑丈だからか、長時間そのままにしておくと武器を絡め取られてしまいそうになるのだ。
このようにほとんど手も足も出せないライオン頭担当のボクたち二人に対して、尻尾の蛇担当のエッ君は互角以上の戦いをしていた。
蛇の攻撃で最も厄介なのは逃げる方向を制限されてしまう毒霧だ。そのため接近戦を余儀なくされることになっていたのだけれど、その距離はエッ君にとっても得意な彼の間合いでもあった。
噛みつきを的確によけながら、スホシ村で新しく作った蹴爪で反撃を叩き込んでいく。
相手が怯む様子を見せれば、すかさず【昇竜撃】による尻尾の一撃が追加されていた。
そしてついには自棄を起こして首を伸ばしてきたところを、直近から【裂空衝】で返り討ちに!
いや、ちょっと待った!
その闘技は遠距離攻撃ができるやつだったよね!?ゼロ距離射撃とかいつの間に覚えたのよ……。
ああ、そう言えば迷宮の浅い階層でエッ君たちが魔物の早倒し競争をしていた際、偶然にもトレアの攻撃がそれに近い状況になったことがあったような……?
そのトレアだけれど、戦闘には参加せずに今頃はネイトたちを助けて回っているはずだ。
山羊頭が沈黙した今のうちに一気に畳みかけるべきか、とも迷ったのだけれどね。もしもここで押し切ってしまうことができなければ、ボクたちの負けが確定することになる。
悩んだ末にパーティーの立て直しを優先することにしたのだった。
結果として、この選択がボクたちに勝利を呼び込むこととなる。
もっともそれはもう少し先の出来事であり、そこに辿り着くにはまだまだ険しい道を突き進まなくてはいけなかった。
「ぐっ!……このっ!」
短剣だけでは勢いを抑えきれずに、ミルファが右手の長剣も合わせることでようやく横薙ぎのライオンパンチをしのいでいる。
順調にダメージを蓄積していくエッ君とは異なり、ボクたちはライオン頭と胴体の攻勢にただ耐えることしかできていなかった。
より防御技術に優れているミルファであれなのだから、ボクの方は言わずもがなだ。
「にょわあ!?」
「ですから!気合いが削がれる声を出さないで下さいと言っていますでしょう!」
必死になって避けているのに怒られるとか、理不尽じゃないかな。
が、そんなことを考えていられたのもここまでだった。上体を逸らすようにして、ライオン頭が大きく息を吸い込んだのが見えたからだ。
「全員防御――」
「グルルロワアアアアアアアアアア!!!!」
暴力的な轟音が響いたと同時に、身体が後方へと弾き飛ばされていくのを感じる。
衝撃波を伴う咆哮。ライオン頭の遠距離攻撃手段であり、切り札的な技。まさか接近戦を仕掛けている最中でも使用してくるだなんて、完全に予想外だ。
ライオン頭の正面にいたボクとミルファだけでなく、後方で尻尾の蛇と戦っていたエッ君までもが大きく吹き飛ばされてしまっていたのだった。
ネタ切れでこちらもある意味ピンチな営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




