586 一つだけど三つ
戦いが始まってすぐに、ボクは胸騒ぎの正体を思い知ることになった。なんとキメラの三つの頭はそれぞれに意識を持っていて、てんでバラバラに行動することができたのだ。
そのため一体の魔物を相手にしているというよりは、一塊になった三体の魔物と同時に戦っていると言った方が適切な状況になっていた。
「リーヴはライオン、エッ君は山羊、ミルファは蛇にそれぞれ張り付いて!それぞれの頭を釘付けにすることを優先で、攻撃はトレアにターゲットが移った時のみで!トレアは動きながら離れた位置から狙撃ね。飛ばれると厄介だから、まずは翼を狙うように!ネイトは誰かが怪我をしたらすぐに癒せるように準備しながら待機!」
みんなに指示を出しておき、ミルファたちがそれぞれのターゲットへと接近できるように【ウィンドボール】や【アクアボール】の魔法を使用して注意を引き付ける。
その目論見は成功したものの、三つの頭が恐ろしい面構えでこちらを睨みつけてきたのだった。
間違いない。やはり確実に別々の自我を持っている。
うーむ……。『笑顔』の動画でもそれらしい動きを見せることはあったけれど、ここまで極端ではなかった気がするのだけれど。
アウラロウラさんよろしく、AIの性能は『OAW』の方が先んじているから、キメラたちの意識も改良が施されているのかもしれない。
実際に戦う身としては、全く嬉しくないけれどね!
ちなみにボクが見た動画は、仲間との連携を含めたプレイヤースキルを魅せるものだったこともあり、レベル差に物を言わせた力押しではなかった。
だからこそ参考になるかもしれないと思っていたのだが、結果は以前に述べた通りであります。
「グルォ!」
「うおっとお!?」
一歩後ろに下がることで右前足の攻撃を辛うじて避ける。目の前を通り過ぎて行ったので風圧が半端ないです。
リーヴに意識が向いているのをいいことに、こっそりと近付いて肩口を斬りつけたのだが、すぐにお釣りが返ってきてしまった。
身体の制御が主格であるライオン頭のみが行っているみたいであることがせめてもの救いかしらん。
先ほどお尻付近を突き刺した時も山羊頭や蛇頭ではなくライオンの頭が反応していたから、まず間違いないものと思われます。
この間トレアは順調に攻撃を繰り返しており、左の翼膜をボロボロにしていた。
残念ながらダメージ自体は低かったようだが、あれなら確実に飛行に支障が出るはずだ。離脱されることは元より、突然後衛のネイトが襲われてしまうという危険を減らすことができたことは大きい。
そのネイトだが、休む暇もなく前衛に向けて回復魔法を使用していた。
大振りな動きの多い山羊頭には小さくて素早い動きで翻弄できるエッ君を、噛みつきや巻き付きなど多彩な攻撃手段はあれど一撃ごとの重みは少ない尻尾の蛇には斬り払いなどで反撃も狙えるミルファを、そして最も強いライオン頭にはうちのパーティーで一番の鉄壁を誇るリーヴを、と比較的相性が良かったり適材だと思えたりするメンバーに当たってもらっていた。
それでも完全にさばききることはできずに、ダメージを負うことになっていたからだ。
特に正面でライオン頭だけではなく、前足など身体部分の攻撃も引き受けることになるリーヴの負担が大きかった。【ハイブロック】などの防御系闘技の隙を突くかのように、爪での引っかきや牙での噛みつきを連続で行ってくるのだ。
体を起こしての両前足による連続引っかきなんて、ぱっと見は猫が玩具にじゃれ付く姿そのままだった。が、十メートル近い体躯と短剣どころか長剣にも及びそうな長さと鋭さの爪が飛び出しているのを見ると、とてもではないが可愛らしいなどという感想が浮かんでくることはなかった。
「リーヴ!変わるから少しの間休憩をってぎゃひい!?」
援護に入ろうとしても、その瞬間あっという間に危険領域までHPを削られてしまうという有り様だ。
幸いにもすぐにネイトが対処してくれたので事なきを得たが、助けになるどころか邪魔をしてしまったかもしれない。
ふと、キメラの動きに変化が起きる。間近でやり合っていたリーヴから距離を取るかのように体を丸めた。
「まっずい!リーヴ、突進がくるよ!ネイトはどっちでもいいから横に逃げて!」
ボクが言い終えるや否や、溜めた力を一気に解放するかのようにキメラが前方へとものすごい勢いで突進を開始した。
「きゃあ!?」
「リーヴ!ネイト!」
急いで〔守護盾技〕の闘技を発動させようとしたリーヴだったが、間に合わず大きく弾き飛ばされてしまう。さらにネイトも完全には回避しきれなかったのか悲鳴を上げて倒れ込んでしまった。
まずい不味い!
この状況を立て直すことができなければ、そのまま壊滅だってあり得てしまう。
しかし、焦るボクたちをあざ笑うかのように、キメラは次なる攻撃を仕掛けようとしていた。置き去りにされたボクたちに向けて、山羊頭が遠距離攻撃の闇属性ブレスを吐こうと口を開いたのだ。
もっとも後から思い返してみれば、これが危機的状況からボクたちの代逆転勝利へと繋がるターニングポイントになったと言えるだろう。
そう。本当に勝つつもりであれば、ボクたちではなくリーヴやネイトを狙うべきだったのだ。
「やらせませんわよ!」
「シャー!」
不穏な気配を察したミルファとエッ君が距離を詰めようとするが、尻尾の蛇が毒霧を吐きだして邪魔をする。
「遠距離攻撃ならこっちだって!【アクアドリル】!」
とにかくブレス発動の妨害をしなければ、という一心で魔法を撃つ。<デスティニーテイマー>がお仕事をしたのか、それとも単なる偶然だったのか。
いずれにしろ、ボクが放った魔法は吸い込まれるように大きく開いていた山羊頭の口の中へと飛び込んだのだった。
「!!!?」
一口にブレス攻撃と言っても、実際に喉や口の中から何かを吐き出すものだけではなく、口元を起点にして発動する魔法のようなものもある。
山羊頭の闇属性ブレスは後者に該当するようで、開いた口の少し前で魔力が闇属性へと変換、集約されつつあった。
もうお分かりでしょう、ボクの魔法は山羊あった間の口に吸い込まれるよりも先に、この魔力の塊をも貫通していたのだ。
ボフン!
ちょっぴり締まりのない音を残して暴発した闇属性の魔力だが、その威力はとんでもなかった。【アクアドリル】によって口内から喉を貫かれたこととも合わせて、山羊頭の目からは光が失われ、だらりと垂れ下がることとなったのだもの。
残すところあと三日となった営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
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更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




