584 彼女たちの過ごし方
うぬぬぬぬ……。調べれば調べるほど、キメラが強敵で難敵だということを理解させられる。
いくつかアップされていた討伐動画も観てみたのだけれど……うん。プレイヤースキルが高過ぎて、あれを真似するのは無理だということが分かっただけだったよ。
どうも『笑顔』のプレイヤー、それも高レベルのガチ攻略勢の人たちが撮影したものであったらしい。
そんな人たちと肩を並べてトッププレイヤーに認定されているボクの従姉妹様って一体……。
まあ、彼女がとんでもない評価を受けるのは割といつものことなので、気にするだけ無駄というものではあるのだけれどさ。
結局その日は打開策らしい打開策を発見することができないまま時間切れとなってしまった。
そして翌日は土曜日、ひゃっほい!朝からゲーム三昧だぜい!
……とはいかないものでして。
実はクラスの子たちで集まって遊びに行こうという計画を立てていたのだ。ほら、年の暮れが迫る頃に一大イベントがあるよね。最近では聖夜だとか恋人たちの日だとか、苦しみますだとかリア充撲滅決行の日だとか言われているあれです。
もちろん女子ばかりの集まりですとも。
最初は男子も呼ぼうかという話になっていたのだけれど、
「うぐ……!そ、その日はどうしても外せない用事があるんだ……」
と断られてしまったり、
「絶対に行く!ちょっ!?なんだよ、お前たち!?離せ!離してくれええええ!?」
と会話の最中にどこへともなく連れ去られてしまうということが頻発したため、いつの間にか女子だけで集まろうという流れになっていたのだった。
まあ、文化祭の打ち上げと称してクラス全体で騒いだりもしているので、仲間外れにされたとネガティブに考える男子はいないと思う。そもそも、女子の中でも都合がつかなかった子だっているからね。
十人を超えるメンバーで、華やかに飾り付けられた街を練り歩く。仲睦まじそうに手を繋いだり腕を組んだりして歩いている二人組を見ては羨ましがり、そんな彼ら彼女らに向かって負の想念を垂れ流している集団を見ては苦笑する。
お昼はケーキバイキングが追加できるお店で、これでもかというほどに食べまくりました。
お店を冷やかして回るつもりが、ついつい気になる服や小物を見つけて予定外の出費がー!?なんてアクシデントはあったものの、楽しく過ごしたのだった。
夜は夜で、里っちゃんたちの家族と一緒にホームパーティー。
プレゼントを配って回る某おじいさんの格好に違和感がなくなってきたことに、お父さんたちが複雑な表情をしていたのが印象的だった。
あのお爺さんって健康面がね、ちょっと心配になってくる体格だから。そんな二人分のケーキはボクと里っちゃんが責任もって処理いたしました。
はふう。ケーキがいっぱいで素敵な一日でした、まる。
そしてさらに翌日。これと言って有効な対策を思い付かないまま、キメラとの戦いの日がやってきてしまった。
いや、ゲームにログインしなければいいだけのことなのだけれど、先延ばしをしたところで事態が好転するとは思えないのよね。ボクのやる気やモチベーションが低下することも考えられるので、むしろ悪い方へと転がる可能性の方が高いかもしれないくらいだ。
ここは一発、ファイトと気合いを入れて踏ん張るべきところなのです。
ミルファやネイトと一緒に、もぐもぐと作り置きしておいた朝ごはん食べる。今頃はうちの子たちも『ファーム』の中で食事をしている最中だろう。
そんなボクたちの視線の先では、冒険者の連中や領民の皆さんが迷宮へと向かっていた。エルーニが地下十階へと移動する時間も必要だからね。今日の出発は少し遅らせ気味なのです。
ちなみに、集落での寝泊まりはリシウさんたち馬車を並べてある一画を間借りしている。この集落自体が突貫で作られたこともあって、宿なんて便利なものは存在していなかったもので。
まあ、例えあったとしても、冒険者協会の面子を潰してしまったから宿泊させて貰えなかったのではないかと思う。
こちらとしてもいつ寝首をかかられるかもしれないような場所では、まともに体を休めることなんてできないからこれで良かったのだろう。
相変わらず野宿状態だが、魔物に襲われる心配をしなくてもいいから気分的にはずいぶん楽になっています。
少年たちを受け入れたことといい、リシウさんは本当に人がいいよねえ。その分部下の人たちが苦労してそうではあるけれど。
「そろそろ行きますか」
ぐぐっと背筋を伸ばしながら誰に言うでもなく呟く。空腹度はすっかり解消されて、アイテムボックスの中も一部装備品だけになっている。出発の、迷宮の転移を利用する準備は万端整っている。
「彼は到着している頃合いですかしら?」
「そう言えば、そろそろ約束の時間になりますね」
地下十階での待ち合わせの時間は、エルーニから言い出してきたことだった。
ボクたちとしてはもう少し遅い時間帯でも構わなかったのだけれど、「迷宮に出入りしとるところを他人に見られとうないねん」という彼の要望により、この時間となったのだった。
「彼一人なら、どれくらいの時間で辿り着けるのでしょうか?」
「さすがに一時間や二時間では無理だろうけれど、半日は掛からないんじゃないかな」
初見だったこともあるけれど、ボクたちが地下十階に到達するまで丸一日がかりだった。そのことを考えると、とんでもない早さだ。
が、彼ならばそのくらいやってのけても不思議ではない雰囲気があるのもまた確かなことだった。
リシウさんたちであれば、もしかするとエルーニの通り名なども知っているかもしれない。
でもなあ……。下手に突くとがっつり『火卿帝国』の騒動に巻き込まれてしまいそうなのよね。そのつもりもなければ、覚悟もできていない以上、興味本位で探りを入れるべきではないだろう。
「いけない、いけない。まずは目の前のことから片付けていかないと」
問題はそれがキメラ退治というとんでもない難問だということかな。
行動パターンのいくつかは分かったが、逆に言えばそれ以外の、特に一番知りたかった弱点などは不明のままだ。
一応、原典だと空を飛んで嫌がらせのように遠距離から弓矢で攻撃して倒したことになっているみたいだけれど、この前述べたように『OAW』のキメラは遠距離攻撃手段も持っていれば、短時間であれば空だって飛べてしまうのだ。
「餌をあげたら、懐いたりしてくれないかな?」
ついつい現実逃避気味に都合の良いことを考えてしまうのだった。
営業努力月間やってます。冷やし中華は始めていません。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




